皆さん臨床において、『ボディイメージ(身体イメージ)』というワードを使うことって多くないですか?
特に脳卒中をはじめとする神経疾患系のリハビリテーションに携わっている方であれば、この言葉は結構な頻度で用いるもしくは耳にすることが多いのではないかと思います。
しかし一方で、この『ボディイメージ』って臨床においてどのように評価するか、ご存知の方ってどれくらいいらっしゃるでしょうか?
おそらく、推論上は「ボディイメージが〜」ということはあっても、実際にこれを評価するということを実施している方ってかなり少数ではないかと思います。
そこで、本記事では…
海外の知見を参考に『ボディイメージ』の評価方法を理解する
ということを目的に、これまでややブラックボックスだった『ボディイメージ』の評価の方法や考え方について解説していきたいと思います。
ボディイメージの評価方法について解説
はじめに、今回解説するにあたって参考にさせて頂いたのは、オーストラリアのPTで『痛み』に関する知見を凄まじいほど発表されているMoseley氏の論文です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18786763/
僕自身、彼の論文には毎回ワクワクしながら拝見させて頂いています。
今回紹介する知見は、2008年に発表されたものでタイトルは…『慢性腰痛の歪んだボディイメージと触覚障害』となっています。
ボディイメージの障害というと、神経疾患を想像しやすいですが実際は今回のタイトルにもなっているように慢性疼痛患者さんのように『痛み』を患う方にも生じる問題の一つだったりします。
特に、複雑性局所疼痛症候群(CRPS)や幻肢痛のメカニズムにはこのボディイメージが大きく関わってくるため、案外『痛み』と『脳卒中』のリハビリは関連性が強かったりします。
この研究では、「慢性腰痛を持つ患者さんを対象に彼らのボディイメージがどうなっているのか?」と、これを調べるために行われました。
慢性腰痛をもつ患者さんのボディイメージ低下仮説
慢性的な痛みを伴う疾患で最も多いのが腰痛ですが、現在のところ…①慢性腰痛患者さんは患部である腰の知覚機能が低下しているということと、②腰部に対応する大脳皮質表現が健常者とは異なるということが明らかになっています。
①の論文
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15265591/
②の論文
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9132689/
そして、CRPS患者様や幻肢痛を持つ患者様では、これらに加えて『ボディイメージの低下』というのが同じく重要な因子として存在することも明らかになっています。
だとした場合、仮説として…
「慢性腰痛患者さんもボディイメージに何らかの問題があるんじゃなかろうか?」
というのが挙げられ、それを検証するためにMoseley氏はこの研究を行いました。
対象となった慢性疼痛患者さん
今回本研究で対象となった方について簡単に整理しておきたいと思います。
【対象者】
12ヶ月以上腰痛を患っている方のうち、脊柱などに構造的な問題がない『非特異的腰痛』と診断された男女6名が対象となった。
まずは、結論から…
はじめに結論を先に言いますと…
ここまでの展開的にお察しの方もいるかと思いますが、慢性腰痛患者さんの腰部のボディイメージは歪んでいる(低下している)ことがわかりました。
ここに関しては、検証を行った結果得られたファクトなので「そうなんだ!」でOKです。
この記事を読んで持ち帰って頂きたいものは『どうやってそれを判断したのか?』という評価方法の話しです。
ボディイメージの評価方法
この研究で用いられた評価方法は2つです。
①描画法
②二点識別覚
ポイントは、これを個々で取り扱うのではなく組み合わせることです。
①描画法
描画法のやり方ですが、検査者が対象者に指示する内容は以下の通りです。
自分の背中の輪郭と背骨の位置を頭の中でイメージしながら、その絵を描いて下さい。この時、背中を触ったり、一般的に思い浮かぶ背中を描いてはいけません。あくまでも“あなた自身が感じている”自分自身の背中をイメージして描いてみて下さい。
原文翻訳(一部言語表現を改変)
と、このような具合です。
『長年痛みを伴うことによってボディイメージが変化する』と仮定するならば、表出される自身の絵にもそれが反映されるという仕組みです。
②二点識別覚
描画法のみでは、その評価が完全に相手の主観で決定されてしまうので、ここで客観的な評価方法として用いたのが『二点識別覚』です。
なぜ、『体性感覚』を評価に採用したのかというと、ボディイメージ自体が体性感覚情報の積み重ね(統合)によって形成されるからであるという仮説に基づいているからです。
やり方ですが、検査者は対象者の背中に対して最初『一点』で触りそれを徐々に二点へと広げていきます。
対象者は、触られた瞬間にそれが『一点』なのか『二点』なのかを判別し「一点!」または「二点!」と答えていくような方式です。
二点識別覚は、『二点』と答えられたその距離が短ければ短いほど、その領域の感覚が良いことを示し、逆に二点で触っているにも関わらず「一点だ」もしくは「触られていない」などと感じていれば感覚機能が低下していることが示唆されます。
※二点の閾値に関しては身体部位によって異なる
慢性腰痛患者さんの描画法と二点識別覚の結果
慢性腰痛患者さんの描画法と二点識別覚をみてみると、このような結果になりました。
この結果からわかる、二つの評価法を組み合わせものを解説していくと…
例えば、まずは『A』の方をみていくと、図の中に横棒が上から下までずらっと書かれていると思いますが、下の方はやたらと幅が広くなりアスタリスク(*)がついているのが分かるかと思います。
これは、二点識別覚の結果を示しているのですが、この幅が広くなっているところというのは腰痛があるところであり、それにより知覚機能が低下し二点の範囲が大きく広がっているわけです。
そして、描画法で書かれた背中の輪郭を見てみると、ちょうどこの*マークの上までは縦で輪郭が描けているにも関わらず、腰痛を伴い知覚機能が低下している領域になると輪郭が書けない状態となっています。
つまり、腰部の知覚機能低下と自分自身がイメージするボディイメージの低下に関連性があるというのがこの2つの評価法から読み解けるわけです。
その他の方に関しても、腰痛がある領域に関しては二点識別覚の範囲が拡大し輪郭が描けないという状態となっています。
この中のうち一人だけ異なるタイプを示しているのが『C』の方ですね。
彼の場合は、二点識別覚が拡大している領域に輪郭こそ描けているものの、その輪郭がかなり歪なものとなっています。
これもイメージが歪んでいるということを示すもう一つの例かと思います。
まとめると
というわけで、今回の話しをまとめると…
『ボディイメージ』というのはこれまで、推論で語られることはあってもそれを評価するというところまでは中々至っていませんでした。
しかし、今回『慢性腰痛』という絞られたケースではありますが、『描画法』と『二点識別覚』を組み合わせることによって、ボディイメージが歪んでいる(低下している)のか否かをある程度客観的に評価することができるというのが明らかになりました。
脳卒中後遺症患者様等に応用しようとすると、片麻痺などで応用するには少々頭を捻らないといけない部分もあるとは思いますが、「何もない」よりはこうした知見が日々の臨床のヒントになるかと思いますので、ぜひ参考にして頂き明日の臨床に活かしていただけたら嬉しいです。
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