運動学習で最低限必須な知識

神経系リハビリに必要な知識
この記事は約10分で読めます。
運営のゴリラ
運営のゴリラ

今回の記事はぱらゴリが担当しています!

ご質問やコメントもお待ちしております!

今回は、“運動学習”という言葉を使う際に最低限知っておかなければならない知識をみなさんと共有していきたいと思います!

運動学習とはなんなのか?

運動学習とは、

①➀熟練した行動能力を獲得する過程である

➁経験や練習の効果である

➂直接的に測定できないが、その代わりに行動に基づいて推量される

④行動において比較的永続した変化を生み出す

すなわち短期間の変化は学習であるとは考えられない。

Schmidt & Lee,2005

と定義されています。

健常者が新しいスキルを獲得、修正することに対する用語としてでなく、神経学的なあるいはその他の障害を持っている状況においても、学習が機能回復と新しいスキルの発達を引き起こすことは明らかである(Posner,1967)とされています。

別件ですが、最近ではPilatesが日本でも第三次ブーム?が来ているようですが、創設者のJoseph H .Pilates氏は

まずは意識的に自身の身体を完全にコントロールすることを覚え、エクササイズを適切に反復することで、意識下での自然なリズムと協調性を徐々に着時に獲得する

Return to Life.1945

と表現しています。1945年なんて私たちは生まれてもいませんが、この時から運動が何らかの形で学習されていくことが考えられていたわけです。

これは、運動学習における1960年代に出てきた3段階モデルと一致するのではないか、と近年ではピラティス(エクササイズ)を通したMotor controlやMotor learningの効果が取り上げられることが多くなってきた印象です。

なぜ運動学習の理解が重要なのか?

このサロンにいるメンバーは、怪我や病気によって感覚運動機能が低下した方に対して、感覚運動機能の維持や改善を図ることを目的に運動(ハンドリングや物理療法などを加えながら)などの手段を用いていくことがあるかと思います。

ではその主となる目的は一体なんなのか…?

それが今回のテーマである「運動学習」になるかと思います。

ということは、運動学習がどのような過程で行われるのか、何が重要なのかを知らずしては機能の維持・改善、失われたADLの再獲得はできないのでは…、そう思ったりするわけです。

運動学習戦略とそれに関わる神経システム

Doya K. Complementary roles of basal ganglia and cerebellum in learning and motor control. Curr Opin Neurobiol. 2000 Dec;10(6):732-9.

から引用して紐解いていきます。

運動の学習戦略には3つあるとされています。

それが

こちらを一つづつ説明していきます。

大脳基底核と運動学習

大脳基底核回路は大脳皮質から出力されるさまざまな指令を整理し、行動に必要な運動を機能的に選択する役割を果たす役割があり、
運動を遂行する上での順序や運動の組み合わせを制御しているとされています。

この大脳基底核は運動学習の中でも「強化学習」に関わります。

この強化学習は、

正しい解が与えられなくても、その行為の結果が良ければ報酬を、悪ければ罰を与えるだけで、目的を達成する行動を学習する方法

とされており、この強化学習において大きな役割を果たしているのがドーパミン神経細胞と言われています。

ドーパミン神経細胞は行動を起こす際に得られる期待される報酬の量と、行動をとった結果実際に得られた報酬の量の誤差に応じて興奮する。

(Schultz W ; Behavioral dopamine signals. Trends Neurosci 30 :203-210,2007)

こららの神経回路は対象者が運動練習を継続するためのモチベーションに関与する経路とされており、とても重要な役割があることがそれだけでもわかってきます。

強化学習では、目標とする課題の達成結果と報酬予測が速楽目標の設定が重要となるため、現状の能力で少し難しいが頑張れば達成できる程度の難易度に調整が必要です。

通常、私たちは運動学習初期は行動選択に対する最初の報酬が予測できないため、報酬効果が最大となります。

しかし、学習中期から後期にかけては、練習の繰り返しにより、報酬予測誤差が減少し、ドーパミン神経細胞が発火せず、対象者の意欲が低下するリスクが高まる危険性があります。

したがって中長期的な運動学習を促進するためにも、私たちは新しい運度課題・難易度・強度を提案していくことが必要となるわけです。

これを設定するときに必要なのが、対象者の目標の階層性を理解し把握しておくことです。

歩行の自立を具体的な目標として設定したとしても、そのバックグラウンドには「自宅に帰ってから一人で近くのスーパーまで買い物に行ける」といった基本的な目標の理解が重要です。

歩けることが目標とならないことで、参加意欲が高まったという報告もあります。(ライフゴール概念)この参加意欲向上は運動学習、特に強化学習においてはとても重要な役割を果たすことがこれまでの内容から分かるのではないでしょうか。

「同じ練習を反復してればいつかできるようになる」「バッドを1000回振る練習」「ひたすらダッシュ」「ひたすらシュート練習」これ運動部の方なら一度は経験したことがあるやる気が失せる定番の場面ですよね…。

これは強化学習のメカニズムによるものであることがわかってきます。

強化学習を促していくためには、強化学習のメカニズムをもう一度ざっくりと理解していきましょう。

  • 予測より報酬が大きい → 学習の強化(促進)
  • 予測していた報酬が得られた → 学習の定着
  • 予測していた報酬より小さい → 学習性無力感(負の強化)

最低限これはしっかりと理解し、この報酬とは何かといった部分まで考えていけると尚良いかと思います。場合によってはセラピストやトレーナーからの「良い結果が出たときに褒められる」といったことも報酬になることが示唆されています!

※表現のされ方として連続的運動学習と分類されることもあります。
連続的に繰り返される行動の中から、運動順序に関する知識を獲得するとことで、ある課題における身体の操作手順の習得過程。

小脳と運動学習

小脳は大脳皮質と連関して運動制御や高次脳機能の円滑な遂行に大きな役割を果たしているとされています。

\小脳の概要についてはこちらで解説しています!/

目的とする行為・動作を達成するための運動指令が最初に大脳運動野で作られ、脊髄を通じて筋肉に送られると同時に、運動指令のコピーが小脳に送られます。(遠心性コピー)

小脳は運動指令に基づいて次の瞬間の身体の状態を実際に身体が動くよりも前に予測し、小脳核を通してその予測結果を送り返し、

大脳皮質はその予測情報をもとにさらに次の瞬間の運動指令を生成する。

実行した動作が適切ではなく間違っていた場合、運動の誤差情報を伝えている下オリーブ核・登上線維からのシナプス入力により、誤動作に関与していた平行線維からのシナプス入力を長期抑圧することによって修正し、学習を進めていくと推定されています。

この間違っていたという信号「誤差信号」を”教師”と考えて教師あり学習と表現されます。

すなわち小脳は教師あり学習において重要な役割を果たしており、教師あり学習とは「フォードバック誤差学習」のことを指します。

運動中の感覚情報が誤差を判断するための教師信号とされるわけです。

この教師あり学習の過程によって小脳において運動記憶である内部モデルが形成されます。

この内部モデルが運動の正確性に関与していると考えられています。

運動を行う際には内部モデルが用いられますが、次の運動を行った際の誤差信号によりさらに内部モデルの修正をおこなっていくというサイクルをとって、徐々に最適な内部モデルが構築されていくことから「オフライン修正システム」と表現されることもあります。

例えば段差を登る練習をするときに、しばらく15cmで練習していたところから、急に20cm、25cmと上げていくと初めは足が引っかかる現象が見られていても徐々に回数を重ねていくごとに引っかかりは減少すると思います。それですね。

このことから、やはり教師あり学習は「体性感覚情報をもとにしたフィードバック誤差学習」であることがわかります。

\ フィードバック誤差学習についてはこちらを参考にしてみてください! /


またこの小脳における運動学習は適応的運動学習と分類されることがあります。

外界の条件に従い、その変換プロセスを学習する手続きを示し、主に道具を使った運動、操作がそれに相当します。

前述の大脳基底核における順序の学習、小脳における感覚情報に基づいた外界条件による学習といったものそれぞれが独立して働くものではなく、大脳皮質を介して小脳と大脳基底核は相互接続があるとされ、お互いに補完し合いながら運動の円滑性に関与するものであると考えられます。

ある運動における運動学習が進んでくると、脳活動は一体どのような変化を遂げているのでしょうか?

脳内で起こってくる変化には、2つあるとされています。

それは

  1. 構造的な再組織化(灰白質の増大、白質の変化)
  2. 機能的な再組織化(脳内ネットワークの結合や変化)

だとされています。

この中でもわたしたちが介入した事による意味としては機能的な再組織化にあるのだと考えられます。

すなわち運動課題や知覚・認知の課題によってその結合自体が変化すると考えられており、ここでは難易度の調整が機能的な結合に影響を与えるとされています。

また脳活動の変化を運動スキルの獲得における時期による変化を追ったものを提示させていただきます。

簡単にまとめると、運動の学習が進むにつれて大脳皮質の活動性が上がっていく流れをとるようです。

しかしながら、小脳の活動は一定の活動水準を保ち続けるという報告もあります。
内部モデルと誤差情報の活動量の変化の推移をfMRIの研究によって解析した結果

運動学習に伴って小脳活動は減弱されるものの、一定のレベルではその活動が維持されることを報告した。

今水寛:感覚―運動記憶のメカニズム:脳機能画像からのアプローチ.計測と制御.第56巻.第3号.2017年3月号
感覚―運動記憶のメカニズム:脳機能画像からのアプローチ
J-STAGE

上記の文献では超短期的の運動記憶は前頭前野や頭頂葉の広範囲の領域、短期的の運動記憶は頭頂葉の領域、長期の運動記憶においては小脳が関与していることを可視化したものになります。

小脳は学習初期においては適切な運動指令である内部モデルを構築する役割を果たしているが、学習後期においては速く滑らかな運動制御に寄与している事が示唆されています。

すなわち小脳においては、初期はフィードバック誤差学習を教師あり学習として運動スキルを学習していくが、学習後期では内部モデルを用いたフィードフォワード制御に活動の重きが置かれるようになるのだと考えられます。

大脳皮質と運動学習

これは一般的に教師なし学習と呼ばれ、記憶や身体イメージ、注意・ワーキングメモリに基づいた学習スタイルであるとされています。

ただ運動学習が進んでいくと、大脳皮質における役割は運動の円滑性に関わる運動記憶が運動領域のみならず前頭ー頭頂ネットワーク間の結合が強化されるといった白質の変化が起こってくる可能性があります。

まとめ

運動の3つの学習戦略をまとめると…

このような概要図となります!

しっかりと理解しておきましょう!!

また、

運動自体の全体像も捉えておくことでどの部分で運動の学習をより進めていくべきかの判断に使えるかと思います。

次回は、もう少し掘り下げて、運動学習に用いられる感覚とは何か…、や結果とは何か、どんなことを注意したFBが我々セラピストに求められているのか、を解説していければと思いますが

今回はここまで最低限知っておきましょう!という内容を提示させていただきました!

参考になりましたら幸いです!

コメント