今回はぱらゴリの記事になります。
ご質問いただいた内容から厳選して共通認識にしておきたい知識をコラムにまとめて行っています。
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さて…
この記事を書くのに参考書を5つほど読み漁りました。
もちろん丸々引用しているわけではありませんが、この書籍たちだけで3万以上の…おっと、いやらしい話はここまでとして、
みなさん「荷重感覚」って臨床の中や勉強会で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
感覚は、主に体性感覚、内臓感覚、特殊感覚に大別されますが、
「荷重感覚」とは一体どこに属し、どんな役割がある感覚なのでしょうか?
はたまた、そんなものは存在し得ない…?
インプットジャンキーな私は考えただけで夜しか寝れなくなってしまいそうです…。
しかしこの荷重感覚、本当に奥が深い…でも確実に昔から使われてきている言葉であり、概念であります。
荷重感覚という言葉が存在するということはきっと、何かこの言葉につながる所以、臨床に通ずるものがあるのだと推測されます。
今回はそれを必死に調べて、さまざまな書籍をもとにまとめていますが、
あくまでも自分の非常に狭い見聞の中ではありますが、解き明かしていければと思います。
荷重感覚って何?実際に存在するのか?
荷重と聞くとみなさんはどんなことをイメージするでしょうか?
力学では、
荷重とは、力学において、物体の2点間に触れるところで発生する力のこと。
https://ja.wikipedia.org/wiki/荷重
これ結構わかりやすい表現ですよね。
しかしこれを荷重“感覚”という一言がつくと…
2点間の触れるところで発生する力により、生じる感覚といったことになります。
では、この2点間が触れるところで確かに発生する力がありますが、これってどのような形で私たちはどのようなものであると認識するのか。
ここで重要なのが「感覚」の側面です。
この「荷重感覚」は一体何によって知覚されるのでしょうか?
荷重感覚の受容器は一体何?
荷重感覚は主に
- ゴルジ腱器官
- 足底皮膚受容器
からの入力がメインの情報源として活用されるが、
補助的に
- 筋紡錘
- 関節受容器
からの入力も活用されるといわれている。
引用元はこちらから…!
Somatosensory control of spinal reflex circuitry during robotic-assisted stepping
Load-Regulating Mechanisms in Gait and Posture: Comparative Aspects
これらの受容器が用いられることによって、地面と足との間に発生する荷重を感覚として上行していくわけです。
また、この情報は「定位反応」として姿勢を制御すると考えられています。
脳卒中の方や整形疾患による免荷期間明けなどに「右足に体重があまり乗ってない…!」と訴えがあるけど
明らかに体重計などを用いても左右均等に荷重はかかっているのになあ…
といった場面に遭遇したことはないでしょうか。
または、荷重を掛けることが「なぜか」できないといったケースもあります。
(こちらに関しては感覚の側面だけでなく、下行性神経システムの問題も出てくるため今回は言及致しません)
もしかしたらその要因の一つには、荷重感覚というのものが影響しているのかもしれません。
立位における荷重感覚を受容するメインの部位は下肢であり、足部や股関節といった部分が情報器官として働くことが重要であり、荷重感覚という言葉は、現在の状態や変化を知っていくための情報として感覚という形で私たちは処理していると考えられます。
ではこの荷重感覚のみならず、感覚情報が断たれた場合には一体どんなことが起こってくるのでしょうか…?
それは…
多感覚情報を時空間的に一致されることができないため、上記の図のような問題が生じると考えれます。
ここで特に困るのが、「この体は私の体である」という“自己感(身体所有感・運動主体感)”が失われてしまうことです。
こちらの記事に非常にわかりやすく金ちゃん大先生が説明してくれています!!
足を踏んでいる!とかの感覚が鈍いような方においては、運動の予測と実際の運動の感覚情報が時空間的に一致できないために身体運動の実感である運動主体感も薄れてしまう可能性があります。
これは運動学習をすすめていく上で大きな障壁となることは、みなさん周知の事実ではないでしょうか?
さて次からは、荷重感覚が障害されることによってもたらされる影響について考えていきたいと思います。
荷重感覚障害による影響
この影響には大きく分けて2つが考えられます。
- 立位や歩行の制御への悪影響
- 運動学習への悪影響
と、よくない影響が出てくるわけです。
これを説明していきます。
立位や歩行の制御への悪影響
これは、臨床の中でまず問題となる身体機能の側面です。
つまり感覚障害によって身体制御の問題が出てくるわけです。
我々の姿勢制御は主に3つの感覚の重みづけを変化させて(Sensory re-weighting)柔軟に対応しているとされています。
立位における感覚の重みづけは
これは年齢や状況によってもフレキシブルにパーセンテージを変化させて姿勢を課題に最適な形で制御しようとするわけです。
そして姿勢によっても変化があると記載しましたが、立位においては
このようなイメージを持っておきましょう!
では立位の時に重要だと思われる、足底と股関節への荷重感覚が立位の姿勢制御にどのような影響を及ぼすのかを報告から見ていきましょう。
足底感覚からの影響
結構有名なところでは、足底からの皮膚感覚が入力されないように、冷却したら…
身体動揺量が増大したという報告です。
また、DMによる末梢神経障害による足底感覚鈍麻の方の動揺量を健常者と比較したところ
といったような報告もあったりします。
やはり足底感覚自体は立位姿勢制御において重要な役割の一端を担っていることが示唆されます。
ただ、単一の感覚減衰であれば再重み付けが行われ他の感覚で代償される可能性があります。
しかしながらやはり足底の皮膚受容器を含む末梢からの感覚入力は立位における荷重感覚として姿勢制御に重要な可能性があります。
足部の感覚が使えていないケースはどんな特徴があるのでしょうか…?
例えば立位での戦略の違いです。やわらかい面や狭い支持面では足部の感覚を使うことはあえてせず、他の感覚で代償することが想定されます。
つまり、安定した支持面において、足関節戦略を使わずに股関節戦略を優位に使ってしまうケースであったり足部の状態が受容器として用いるには適さない形状をしているケースが想定されます。
また、もう一つとして体性感覚のチェックは必須ですよね!
立位における足部の感覚検査についてのアイデアを知りたい方はこちらの動画をぜひ!
(足底感覚検査の秒数に飛びます!)
ただ立位の時に重要な荷重感覚を受容する場所は足底だけなのでしょうか?
股関節への感覚入力の影響
こちらの報告からですが、
末廣健児:股関節への固有感覚入力によって歩容が改善した脳血管障害片麻痺患者の一症例.関西理学.2009
股関節への固有感覚入力が、麻痺側腹斜筋、殿筋群の筋活動を向上させ、麻痺側立脚期の骨盤動揺を減少につながり歩容が改善したという報告です。
この後に、
末廣健児:股関節への固有感覚入力が立位姿勢に及ぼす影響について.関西理学.2011
で股関節への固有感覚入力が下肢への荷重感覚に及ぼす影響について調べられています。
下の図の感覚トレーニングを行った結果、荷重量が優位に増大したと報告されています。
このトレーニング自体は、整形疾患の免荷期間中にも実施できたり、股関節への固有感覚入力の知覚が難しいケースにおいては有効である可能性があります。
では股関節への固有感覚の知覚が難しいケースとは…?
まずは股関節の感覚チェックは必要になりますよね。
固有感覚というと代表的なもので筋紡錘からの感覚、関節受容器の感覚といったところが代表的です。
ではこれをチェックする時に用いられるのが、
2つあります。
一つは関節位置覚の検査です。
実際に人工股関節術後には固有感覚の障害が起こっている症例もいらっしゃるようで、その方に対して感覚トレーニングを行った結果歩行が改善したという報告もあります。
そしてもう一つは、プレーシングレスポンス(滞空反応)をチェックするのも定性的な評価として用いることが多いです。
美容院で頭を洗ってもらうときに、首をあげてくださいと言われなくてもつい頸部に力が入ったりしません?
通常。下肢を他者が持ち上げたときはそれに対して、脊髄小脳路から固有感覚が入力され、意識に登らない形で股関節周囲の筋緊張を高めるといった反応が見られます。
検査者側が感じる感覚としては、「足がついてくる」といった表現がわかりやすいかと思います。
あくまでも定性的な評価ですので、参考程度に留めておくのがベターかと思いますが、とっても重要な検査でもあります。
こういったケースにおいては、もしかしたら固有感覚入力というのが一つの選択肢として上がってくるかもしれません。
ただ筋緊張異常や皮膚の短縮、疼痛による防御性収縮などの可能性もあったりしますので、固有感覚入力が全ての対象者の方に効果があるとは思わないことが重要です!
あくまでも、適切な評価に基づき、病態に対して最も適した練習を選択することが重要です!
おい、ゴリラ。習いたての方法論ばっかり選択しとっちゃあかんで。
対象者の方に適したと思われる選択するのが臨床やで!
すいません!自分がやりたいことを提供してました…ガクガク。
これからは気をつけます…ガクガク(滝汗
運動学習への悪影響
感覚と運動学習と聞いて、説明はできますか?
運動学習には感覚が重要なのはわかるけど…というのが新人の時の私でした。
少し運動学習についてもざっくりとですが掘り下げながら話を進めていきたいと思います。
運動学習戦略と脳機能との関連について
まず運動学習とは…
何らかの運動課題を繰り返し練習すると、その結果としてパフォーマンス水準やスキルが向上する。それとともに、動きがなめらかになることは明白である。こうした一連のプロセスを運動学習(Motor learning)と呼ぶ。
森岡周:運動学習の神経メカニズムとそのストラテジー.リハビリテーションのための脳・神経科学入門.改訂第2版.協同医書出版社,東京,127-164,2016
運動学習とは、最終的な帰結部分のみを表す用語ではなく、それに至る過程を含んだものとして捉える必要があるわけです。
この過程とは、実践や経験を通してのみ得られるものであって、
実践とは練習といった目に見える運動の行動を指す言葉であり、経験とは自己内面に蓄積される、目に見えない記憶を指す用語です。
そして運動学習の神経学的な学習戦略には、
3つの学習があるとされています。
それは…
大脳基底核ループは中脳の黒質ドーパミン細胞から送られる報酬信号を元にした「強化学習」としての役割を果たします。
また、小脳ループは下オリーブ核から登上線維によって送られた誤差信号を元にした「教師あり学習」としての役割を果たします。
そして最後に大脳皮質は記憶・身体イメージや注意・ワーキングメモリーに関連した「教師なし学習」としての役割を果たすとされています。
さらに詳細に知りたい方は、こちらのスライドを参照くださいね!
ではこの運動学習と荷重感覚はどのような関係性があるのでしょう?
例えば体性感覚障害の結果として起こることにはどのような事があったかを思い出しましょう。
麻痺側へ荷重をかけた際に「あまり体重がかかってません」といった方に出会ったことはありませんか?
または、片脚立位をとる際に、「右足は安定してるけど、左足は何だか不安定」といった訴えがあったりします。
もちろん筋力・筋緊張の問題や可動域の問題などの筋骨格系の問題もあったりするとは思います。
ただもう一つの観点として、筋力・筋緊張の影響で固有感覚に何かしらの影響が及ぶわけです。
具体的には
体性感覚フィードバックの役割としては、筋出力の維持や負荷の変動へ対応、運動遂行時のエラーの検出と修正が挙げられる。このため、大脳皮質損傷に伴う感覚障害では、適切な肢位の保持、一定した筋出力の維持、強調した運動が困難になる。また、運動は遅くなり、障害側を使用しないことが多い。
Kado.N:Physical Therapy for sensory Disturbances.2014
感覚フィードバックが障害されることによってこのような現象が起こるわけですね。
そして最終的に起こってくる現象として、姿勢制御・適応性低下が考えられているわけです。
触覚や体性感覚の障害は、麻痺肢の荷重検出能力を妨げ、体重負荷の減少につながり、脳卒中後のバランス障害や転倒につながる可能性があります。
荷重感覚は立位制御の時に下肢体幹の協調的制御の基準となり下肢機能や姿勢制御能力を改善するためには重要な要素となる。
Chia FS, Kuys S, Low Choy N. Sensory retraining of the leg after stroke: systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2019 Jun;33(6):964-979.
といった報告もあり、荷重感覚情報がいかに運動において重要な役割を果たしているのか、また改善を目指していくことの必要性もわかってきます。
そして運動学習の話に戻りますが、
私たちの知覚による運動学習段階として、
知覚段階→認知段階へと進むことで運動学習が進んでいくとされています。そしてその後は連合段階→自動化といった形で無意識的かつ顕在的なものへと変化していきます。
そしてこの学習段階においてめちゃめちゃわかりやすいまとめがあったので紹介します。
- 対象や身体を近くできないと意識(細分化できない)
- 学習初期には、学習者は運動課題の目的や方法、どの身体部位を用いてどのように動かすか意識的に学習しなければならない
- 運動技術を向上するために感覚的Feedbackを使いながら運動能力を学習していく
- 上記をもとに練習量を増やすことにより無意識的な自動化段階へと学習される
とされています。(渡辺学:運動学・神経学エビデントとを結ぶ脳卒中理学療法.中外医学社.2022)
特に重要なのが、対象者の方がどの学習段階にあるのか…?を意識した課題設定を行うことです。
例え動きとしてこちら側が思う“正しい運動”を行えていたとしても、
知覚に問題がある方は、「動かしにくい」「力が入りにくい」中でも意識しやすい感覚に準じた顕在的な学習に迫られていることを私たちは理解していく必要があります。
これを脳内で起こってる神経系の働きから見ていくと…内部モデルの理解が重要になります。
内部モデルについてはこちらでガッツリ解説しています!
この場面を図で見るとわかりやすいので…
右のような状況が起こっているわけです。
この状態のリハビリをしているとCarry overせず、翌日や次回お会いした時にまた1からやり直し…みたいな事が起こったりします。
また、報酬予測誤差情報に基づいても、掛け声自体は聴覚情報がフィードバックとして入力されますが、実際には感覚情報との一致が起こっていないため、その運動が強化学習につながる可能性は低くなります。
これが中脳ドーパミン作動系ループと呼ばれるものであり、Motivation(意欲)につながるシステムとなります。
この状態での反復では意欲も湧かず、また内部モデルも更新されていかないため意味合いとしてどうなのでしょう…?
これで「あの人は意欲が低い!」「学習がすすまない…!」といっていませんか?
私自身、自分の未熟さを認めたくなくてこのような発想に至ってた時期がありましたし、今でも思ってしまう事があります…情けない限りですが…
まとめ
さて、だいぶ荷重感覚という話からは脱線しましたが、荷重感覚がいかに私たちの仕事において重要な場面が多いかはなんとなく理解いただけたら嬉しいです(記事を書くのに1週間以上かかった…
やっぱり考えておかなければならないことは、
先ほどまでの身体からの変化を学習していくための感覚情報なのか、すでに自動化された運動につなげていくための感覚情報なのかを常に考えていきたいところです。
またこの感覚情報の入力においても、「時間的・空間的加重」といった側面も考えていけると尚深みが出てくると思っています。
考えることをやめたらそこで臨床家としての進歩はないと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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