運動学習を知り、リハビリによる運動スキルの向上を図るためには?

神経系リハビリに必要な知識
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皆さん9月の勉強会「運動学習戦略ーしくみを知り、リハビリの効果を高めるー」の講義動画は視聴いただけましたか?

耳で聞き、字で読み、そして書き出す、この3つのプロセスを行えばまちがいなく記憶に定着します。

ぜひこちらもご活用くださいね!

臨床推論を進めていって、実際に妥当性の高い運動プログラムを作った後、

あれ…、このリハビリ進めていって本当にいいのかな…、って不安になりません?

どんなにこれや!!って思ってても不安になってしまう、そんな自分です。

病態解釈を行い、評価を行い、目標共有すると、対象者のどんな悩みを解消すればいいのか、がわかってきます。

そこでさまざまな報告から、適切な方法論を導き出すわけなんですが、

なんせリハビリの方法論はたくさんありすぎるわけです。

その中には、「リハビリしている感がある」ものと「リハビリをしている感がない」ものがあり、即時効果が期待できないものもあります。

そこで私たちは、このリハビリ続けてていいのかなぁ…、昨日と反応変わらないし…。

と不安になることもあります。その状態で「今日もリハビリ頑張りましょう!よろしくお願いします!」と対象者の方と協働してリハビリを進めることになります。

若手の時には特に、不安なことばかりあります。

そこで比較対象となってくるのが「野生のすごい先輩、すごいセミナー講師」が出てきて、さらに感動を覚えるとともに、自分の能力のなさに落胆することがあります。

他の先生方のリハビリ結果が気になるそんなお年頃がずっと続いています。

さあ、ここで同じ対象者の方でも、「反応を引き出せる」先輩と「反応を引き出せない」若手となってしまうのかについてお話ししていきたいと思います。

臨床は自分が思っているよりも…

私たちが臨床で対象者の方ととあるスキルを獲得を目指し練習していくわけですが、

理想はこちらのように右肩上がりでバキュン!と行けばいいですが、現実そうもいきません。

おおよその場合、たくさん練習しているのになかなか上手くならないんです…って状況に陥ったり

ある程度うまくいくようになった!このまま右肩上がりで上手くいってほしいけど…

なんかあるところで停滞しちゃって、次回またできなくなっちゃってる…。
え…このリハビリ効果ないじゃん…、どうしたらいいんだろ…

そんなことありません?

でも実際運動学習ってこのような曲線を描くんです。

これが頭に入っているかどうかで、即時効果を狙いまくる!とか、

一回の介入だけの効果を追い求めるのか?といったところに疑問が出てきたりしますし、

なかなか上達しない…でも推論はこれで良いと思うんだけど…って時に、こういった形の学習段階を辿るって知っておくかおかないかで、

不安だから、別の方法を試す、ってことになりにくいと思うんですね。

うまくいってないな…そんな時に考えるべきこと

このリハビリいいのかな…って考えることは大体この4つかなと思います。

このうちの最後の課題の難易度設定というところ、が今回のテーマに重要な意味合いを持つと考えられます。

運動学習をざっくり表現すると…

運動学習とは、熟練パフォーマンスの能力に比較的永続的な変化を導く練習や経験に関係した1連の過程であると言うふうに表現されます。

練習の1時的な効果と練習の永続的な効果を合わせで運動パフォーマンスが変化します。このうち練習の永続的な効果が運動学習であると言うふうに考えられます。

つまり経験をしていくことがとても重要なわけですが、なかなか運動スキルが上達してこない。その時に運動学習で大事な事を押さえておいていただきたいなと思います。

こんな場面作ってませんか?

よくあるこんなトレーニング場面、患者さんは何も言わないですが、実際にはこう思っているかもしれませんよね。

ちゃんと運動学習について理解がある方であれば、どんなフィードバックが良いのか、そもそも課題は適切なのか、などを考えることができるかと思います。

その時に考えていく必要があるのが、
対象者の方が思っている、またこちらの意図している目標が回復なのか、代償なのかという点です。

こちらの画像を見ていただくとイメージがつきやすいと思いますが、

運動スキルの獲得を目指していく時に、

同じゴールであっても、2つに道は分かれます。

それが代償的運動制御に依存したパフォーマンス向上か、機能再建に重きを置いたパフォーマンス向上

ですね。

どっちでも悪くないんです。

ただ、

よし!では麻痺側の機能再建に重きを置くぞ!って

これを設定する時にどんなことが大事なのでしょうか?

私たちは、なぜそちらに重きを置いたのかをはっきりと説明できなければならないわけです。

なぜなら、こちらのエゴで「機能が低下しているんだから、それを正常に近づけたほうが良いよね」という思考に陥りやすいためです。

もちろん対象者の方もそれを願うこともあります。ただ、その方が目標としている動作や行為、生活って機能再建によって本当に達成されるのかどうか?は、私たちが偏りのない視点から一緒に考える必要があるのかもしれません。

そこでこちらの図です。

私たちが今行うべきこと、そして目の前の対象者様に起こっていることは、回復なのか?代償なのか?の視点を持つことです。

ここを考えていく上で、限られた時間の中で評価し、予後を予測していく、そのために脳画像であったり対象者様との目標設定・共有・協働が必要になってきます。

みなさんが今担当させていただいている方にとって、その目標課題を達成するために必要なのは回復ですか?代償ですか?

運動スキルの獲得を目指すための私たちの責務

その上で、運動スキル獲得のために麻痺肢の機能再建に重みを置いた介入が必要であると考えるならば、絶対に必要抑えておいてほしいのが、

麻痺肢機能に応じた目標設定と機能的目標に向けた練習法を組み立てを獲得したいスキルに関する運動学的・神経生理学的知識に基づいて提供する責務がある

ということです。
それだけではなく、

脳卒中後の人生での新たなスキルの獲得を目指していくわけですから、運動がどうやって学習されるか、その仕組みを知らないとどうやってスキルの獲得を目指せばいいのか。

ただ練習する?反復する?電気使う?ハンドリングする?と臨床がとても難しくなります。

なのでここから運動学習の詳細について一緒に学んでいきましょう。

運動学習の2つの種類

まず運動学習には大きく分けて二つの種類があると言われています。

それが、

  • 連続的学習(強化学習が代表的)
  • 適応的学習(教師あり学習が代表的)

前者は、ある課題における身体の操作手順に関する知識を獲得することであり、

後者は、感覚情報に基づいて行う運動学習とされ、外界の条件に従い、その変換プロセスを学習する手続きを示すとされ、主に道具を使った運動・操作が該当します。

この代表例としてよく説明に用いられるのが、自転車に乗れるまでの運動学習です。

まず、早い学習として自転車の乗りはじめには、自転車や外部の環境に合わせてまず自転車の使い方を学習していくと思います。(適応的学習)

そして、その中でバランスを崩しながらも、バランスの取り方を覚えていき、成功体験を積むことで乗り方を覚えていきますよね。(連続的学習)

ここで課題となってくるのが、

適応的学習だけが進むと、慣れた路面や自転車なら乗れるけども、違う場所に出ていくと乗れないといったそもそも「自転車に乗る」というスキルではなく、慣れた環境・慣れた道具であればできるんだけど。という状況になります。

また、逆に連続的学習ばかりに着目すると、まっすぐなら進めるんだけどカーブになると乗れないみたいな状況になる可能性があるため、

両者を良い塩梅で進めていくことが大事になります。

すなわち運動学習における大事なことは、

上記の4つとなります。

またあくまでも、脳の中で運動の順序(シークエンス)として組織化されることが重要なため、運動学習は筋骨格といった効果器で行われているわけではないということも抑えておきましょう。

よく、アライメントを整えるだとか感覚入力〜といって、筋骨格系にばかり目が行ってしまうことがあります。

それはあくまでパフォーマンスであり、実際には脳内ネットワークが運動スキルの獲得と共に変化していくことが必須の条件となってくることは忘れないでおきたいところです。

これを全体像としてまとめてみました。

しかしながら、これだけだと頭に残りにくいため、さらにまとめてみます。

運動スキルを学習するときの脳活動

先ほどの適応的額数を速い学習とし、連続的学習を遅い学習とします。

すると働く脳の部位が違うことが下の図から読み取れます。

すなわち短時間で即時的に反応が見られる時には、主に小脳や運動前野・補足運動野、そして頭頂葉が活動する。

ゆっくりと時間をかけながら複数のセッションにかけて運動スキルが向上する時期には、被殻や一次運動野、体性感覚野そして補足運動野が活動するそうなんです。

さらにまとめてみました。

初めて行う運動スキルの時には、運動企画に関与する脳部位が活動することが必要かつ、安静時に小脳や前頭ー頭頂ネットワークが活動することが必要。

これって非常に重要なことであり、私たちが新しいスキルを獲得する時には、運動のイメージで明確にできないですよね。

でも私たちは、それを相手に要求し「動作を行なってもらう」わけです。

すなわち新しい運動スキルの獲得を目指す初期段階には、まず脳内に運動のイメージがない状況であることから、いかに対象者にその運動をシミュレーションしてもらうかが重要ということです。

そのために方法論として、運動観察療法や運動イメージ、ミラーセラピーなどのメンタルプラクティスが通常の介入に合わせて行うことが効果的である可能性があります。(ただし、時期によって効果が乏しいなどの報告もあるため、対象者の状況に合わせて適応を考える必要はあり)

次に遅い学習では、学習が進み一次運動野と頭頂葉間のネットワークが強化され、より実用的な滑らかに運動になってきます。

また、小脳優位の学習から大脳基底核優位の学習となっていきますが、
報酬系が徐々に反応しにくくなるため新しい課題の設定が目標の運動スキルを獲得するために必要であると考えられます。

そこで運動の予測と誤差の差分によるドーパミン放出について知っておきましょう。

我々は、何をするにもまず結果を予測します。それが報酬となるわけですが、報酬とは運動のパフォーマンスであったり、金銭的報酬であったり社会的報酬であるとされます。

これは動機づけに非常に有効なわけです。

まず予測していない時に報酬が急に得られるとドーパミンが放出されます。
例えば、お手伝いした時に、予測せずにお駄賃がもらえた、などですね。

次には報酬を予測した段階でドーパミンが放出されるとされています。

例えば、前回お駄賃もらえたから、お手伝いしたらお駄賃もらえるだろうなあ!などですね。

その後お手伝いをしたら、お駄賃をもらっても予測の範囲内なのでドーパミンは出ません。

ではこの時にドーパミンを出すにはどうしましょう?

さっきよりも大きな金額がもらえる、だとか金銭的報酬を予測していたけど、お駄賃+褒められる(社会的報酬)を与えるという方法があったりしますよね。

最後に予測していたのに、報酬がもらえなかったら、ドーパミンは出ないため、次同一の課題をこなす時になかなか意欲が湧かないといった現象が起こってくるかもしれませんよね。

この報酬に関しては非常に臨床上悩ましいところです。

即時的な効果を出してしまうと、その後その運動パフォーマンスを基準に次回はこれくらい良くなるだろう!と予測します。しかしながら臨床はそうはいきません。

即時効果を出していく時の注意的としてアンダーマイニング効果も考えておかなければならないかもしれません。

アンダーマイニング効果とは、外部報酬による動機づけは、報酬が取り除かれた際に意欲が低下してしまうという現象です。

例えば、1万円元々持ってなかったけど、1万円を帰る途中に拾いました。するとドーパミンドバドバ出るでしょう。

しかしそれを落としたらどうなるでしょう。

1万円無くしちゃった…となりますよね。

与えられた報酬が大きければ大きいほど、その喪失感は半端ないはずです。

良い質問があったため共有しますが、

昨日はできたパフォーマンスが、翌日できなかったらそれはアンダーマイニング効果ですか?

パフォーマンスの結果の報酬が与えられたけど、それが取り除かれてしまった状況だと考えられるため、これもアンダーマイニング効果になってしまう可能性があります。

私たちは考えなきゃいけないのが、即時効果としてパフォーマンスの結果や社会的報酬をリハビリ内で強く与え続けてしまうことが果たして本当にその方の運動学習のために良いことなのか?ということです。

そこで、外部からの報酬による動機づけにだけ着目するのではなく、「内的動機づけ」をいかに引き出していくかが重要になってきます。

  • 興味のある課題
  • 他社と比較した有能感

などが内的な動機づけです。

目標の達成度に意識を向けて、適切なフィードバックを対象者本人が考え知覚することが非常に重要です。

つまり、目の前のパフォーマンスだけに意識を向けるのではなく、将来的な自分の姿を想像できるような関わり方をしていますか?ということです。

これって案外できていると思っていても、できていないことがほとんどです。

そこでEBPが重要になってくるわけですね。

未来の姿を予測し、適切な目標設定と課題設定が行えるという点において非常に重要かと思います。

しかしながら、1回1回の効果にこだわることも非常に重要だと自分は考えています。
自然回復なのか、何が要因で対象者の身体機能や生活が変わったのか、私自身の臨床を振り返る上で非常に重要なことだと思います。
すなわち、即時効果で期待させ続けるというわけではありません。
毎回挑戦的で興味の持てるような課題を毎回リハビリの前に設定し共有することを必ずします。

その目標に向かって、目標の達成という内的な動機づけも同時に行なっていく、これは対象者の方も繰り返される毎日の中に、一つでも昨日と違う自分を見出していき、これからの生活に向けた活力を生み出すきっかけにもなりうると考えているからです。

さて、突然の臨床感の語りから、最後に
その課題を設定するときのポイントと方法について解説します。

課題設定のポイント

よくある疑問、課題設定において良いのはどっちか?

難しい方が良い!簡単な方が良い!と頭の中で答えた方、”なぜそう思いましたか?”

その答えがこちらです。

実は簡単な課題は、目標となる動作に到達する前にすぐにプラトーに達してしまうという特徴があり、目標動作に達することが難しいと考えられます。

一方目標とする動作(難しい)は、逆に練習しても上手くならないという学習性無気力を生み出してしまう可能性があるので注意が必要です。

どう目標課題に向けて練習したらいいかわからなくなってしまったかと思います。

そこで皆さんに一つアイデアを提供します。

類似課題による難易度の調整について知っておいてみてはいかがでしょうか?

調整には

  • 部分練習法
  • 自由度制約
  • パラメーター調整
  • 補助具・介助

といった4つの方法があります。

部分練習法と全体練習法についてざっくりと説明いたします。

難易度調整に関して少し例題

ざっくりとした全体課題として、麻痺側に十分に荷重が乗った中で安定した歩行をする、とあったときによくある方法論として長下肢装具で歩くというのがあったりしまう。

これは自由度制約やハンドリングによる課題難易度の調整になりますが、他動的な動作となりやすいこともあり注意が必要です。

では複数の報告から、歩行が自立するためには?という視点でヒントを得てみましょう。

監視歩行が可能な方は、麻痺側下肢への重心移動量の拡大が見られた。

望月久:脳卒中片麻痺患者の歩行能力と重心動揺.重心移動域との関連性. 理学療法化学13:7−10,1998

起立にかかる時間が4.5秒以内かつ左右の荷重量の差が30%以下の片麻痺者は歩行能力が優位に高い。

長田悠路:脳卒中片麻痺の基本動作分析ーバイオメカニクスから考える動作パターン分類と治療法の選択ー.メジカルビュー.2021.

離殿時の麻痺側への荷重率が50%に近づくと起立時間が短縮される。

長田悠路:脳卒中片麻痺の基本動作分析ーバイオメカニクスから考える動作パターン分類と治療法の選択ー.メジカルビュー.2021.

一つの要素として、麻痺側に十分に50%程度の荷重を起立動作時に載せられる方は、歩行自立に近づく可能性があるわけです。

ではここで麻痺側への荷重をいかにかけれるように練習していくか、が非常重要になるのではないでしょうか。

起立動作であれば、代表的なものとして両足<麻痺側の下肢を半歩引く<非麻痺側を段差の上に乗せて立ち上がる<片脚立位で立ち上がる

といった形で荷重量が増え難易度が上がっていくかと思います。

または、リーチ動作であれば立位保持<非麻痺側へのリーチ<麻痺側へのリーチといった形で難易度が上がっていくかと思います。

さらに難易度を調整するならば、立位よりも高い座位の方が難易度が下がります。もっと言えば、立位よりも背臥位でブリッジ動作を行うことの方が荷重という面ではもっと難易度が下がります。

支持基底面や重心位置や姿勢制御能力などから適切な課題を設定し、かつ挑戦的で興味のある課題を行い、常に対象者の方に7割程度の成功体験をしていただけるような課題を設定していくために常に工夫していきましょう。

最後に

運動学習について考えていくためには、バイオメカニクスの知識や神経生理学、神経科学、基礎医学の知識は必須です。

なぜならそこの知識がなければ、どうやって課題の難易度を調整しよう…、Feedbackをしようか…となるわけです。

やはり正常動作を知り、動きやすい効率的な動きを知っておくことは必要かと思います。
ただしそこに近づけるためのリハビリではなく、対象者の方のADL、QOLが良い方向へ変わっていくための一つの知識として活用していきましょう!

その時に運動学習の知識はとても重要ですし、その運動学習は脳内の活動、ネットワークの組織化によって行わ、時期によっても活動領域が異なる可能性がある。というのは念頭に置き、ただアライメントを整え、反復して練習するのではなく、運動の初期・後期でどんな介入が適切なんだろう、と常に考えていきましょう!

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