- 「ふらつく」と言われたとき、バランス練習から始めていませんか?
- 結論!「急変、誘発、視線、歩行」の四層で整理します
- なぜそう見えるのか:姿勢は一つの感覚だけで保たれていません
- まず止めるべき場面:新しいめまいを「いつもの後遺症」にしません
- よくある勘違い1:HINTSを「めまいの万能検査」にしません
- よくある勘違い2:BBSやTUGが変われば、めまいの原因も変わったとは限りません
- 評価ではここを分ける:七つの層で記録します
- 臨床で使うならこう考える:原因候補を四群に分けます
- リハビリで設計すること:原因名ではなく「崩れる条件」から始めます
- 研究を使うときの注意:平均効果をそのまま個別処方にしません
- 自宅や生活で気をつけること:避け続けるか、我慢して動くかの二択にしません
- 変化を見るアウトカム:症状、機能、参加、安全を別々に測ります
- 論文からどこまで言えるか:バランス・歩行の変化と、めまいの機序は分けます
- ぱらゴリ的な見立て:最初に変えるのは「運動」ではなく「条件」です
- 最後にもう一度、要点を整理します
- 参考文献
「ふらつく」と言われたとき、バランス練習から始めていませんか?
脳卒中後のリハビリでは、「歩くとふわふわする」「寝返ると景色が回る」「人混みで気持ち悪い」「立った直後に目の前が暗くなる」「頭を動かすと足元が不安定になる」といった訴えがあります。若手PT・OTは、まとめて「バランス低下」と考え、立位練習や歩行練習を増やしたくなるかもしれません。
しかし、同じ「めまい」「ふらつき」という言葉でも、急性の神経学的変化、前庭・眼球運動系の問題、血圧や不整脈などの循環要因、薬剤、視覚、感覚障害、運動麻痺、注意、恐怖など、原因候補は異なります。原因候補が違えば、先に医療評価へつなぐのか、誘発条件を整理するのか、視線と頭部運動を段階づけるのか、支持基底面や歩行課題を変えるのかも変わります。
結論は、めまいを症状名のまま扱わず、「いつ始まったか」「何で誘発されるか」「視線と頭部運動で何が起こるか」「立位・歩行と生活へどう影響するか」を分けることです。
とくに新しく急に始まった症状は、練習で慣らす前に安全確認が必要です。一方、医学的に安定した慢性期でも、BBSやTUGだけではめまい自体の変化や誘発条件が見えません。この記事では、急性期の見逃しを避けながら、評価から課題設計、再評価までをつなげます。

結論!「急変、誘発、視線、歩行」の四層で整理します
一層目は急変です。昨日までと違うか、突然始まったか、持続しているか、新しい神経症状や強い全身症状を伴うかを確認します。ここに該当すれば、リハビリ課題の工夫より医療評価が先です。
二層目は誘発です。起き上がり、立ち上がり、寝返り、上を向く、頭を振る、方向転換、人混み、暗所、疲労など、何をした何秒後に症状が出て、どれくらい続き、何で戻るかを記録します。「いつもめまいがある」という訴えでも、丁寧に聞くと条件が見えてきます。
三層目は視線と頭部運動です。眼球だけを動かしたとき、頭だけを動かしたとき、頭と体を一緒に向けたとき、背景が動くときで反応を分けます。物がぶれる、二重に見える、焦点が遅れる、吐き気が出るなどの訴えも確認します。
四層目は立位・歩行と生活です。支持物、照明、路面、方向転換、会話、荷物、屋外などの条件で、症状、姿勢、歩行速度、介助量、活動回避がどう変わるかを見ます。
症状の強さだけでなく、出現条件、持続、回復時間、動作への影響を一組で記録します。
この四層を使うと、「めまいがあるから前庭リハビリ」「ふらつくから筋力練習」という短絡を避け、評価の優先順位を組み立てられます。
なぜそう見えるのか:姿勢は一つの感覚だけで保たれていません
姿勢と移動は、前庭入力、視覚、足底や関節からの体性感覚、運動出力、注意、予測、環境の情報を統合して成立します。脳卒中後は、このどこか一つだけでなく、複数の要素が同時に変わることがあります。
例えば、暗い廊下でふらつく人がいたとします。前庭機能の問題だけでなく、足底感覚の低下を視覚で補っていた、麻痺側下肢の支持が不十分だった、暗所で不安が高まって歩幅が小さくなった、眠気を伴う薬剤の影響があった、という可能性があります。照明を戻して歩行が安定しても、前庭機能が正常と決まったわけではありません。
頭を振りながら歩くと遅くなる人も同じです。視線を安定させにくい場合、方向転換の運動計画が難しい場合、首の痛みがある場合、二重課題で注意配分が変わる場合があります。観察された速度低下は結果であり、原因名ではありません。
「ふらつき」は、前庭障害、運動失調、感覚障害、筋力低下、循環要因、恐怖のどれか一つと同義ではありません。
2025年公表の前向きコホートでは、脳卒中またはTIAで登録された1785人のうち988人が12か月追跡を完了し、その40.8%がめまいまたは回転性めまいを報告しました。症状はStroke Impact Scaleの複数領域と関連しました。文献3
ただし、追跡完了は55%で、症状は自己申告、前庭検査や病変局在による原因分類はありません。この数字から「脳卒中者の四割は前庭障害」とは言えません。言えるのは、慢性期でも訴えが少なくなく、生活への影響を定期的に尋ねる価値があるということです。
まず止めるべき場面:新しいめまいを「いつもの後遺症」にしません
脳卒中歴があっても、新しく起きた症状を過去の病変だけで説明してはいけません。突然始まった持続性の強いめまい・ふらつきに、次のような変化が伴う場合は、練習を止めて医療者へ直ちに報告し、院外では救急要請を含む対応を考えます。
- 新しい顔面・上肢・下肢の脱力やしびれ
- 新しいろれつの回りにくさ、言葉の出にくさ、理解の変化
- 新しい複視、視野の変化、眼球運動の異常が疑われる状態
- 支えがあっても座位や立位を保てないほどの新しい体幹失調
- 突然の強い頭痛、頸部痛、意識の変化
- 胸痛、呼吸困難、失神、強い動悸などの全身症状
血管性めまいの国際診断基準では、急性で持続するめまい・ふらつきに中枢神経所見や中枢性眼球運動所見がある場合、脳卒中を含む血管性原因を考えるとされています。文献1
再発や別の急性疾患を除外できていない段階では、症状を繰り返し誘発して「慣らす」ことを優先しません。
院外で突然の神経症状がある場合、日本では119番へ連絡する判断が必要です。症状が軽く戻ったように見えても、一過性脳虚血発作などを自己判断で除外しません。

よくある勘違い1:HINTSを「めまいの万能検査」にしません
HINTSは、頭部衝動検査、眼振、眼位のずれを組み合わせた診察です。原著では、脳卒中危険因子を持つ急性前庭症候群101人を専門環境で評価し、中枢性所見の感度100%、特異度96%が報告されました。文献2
この数値だけを見ると、簡単な三つの検査で脳卒中を除外できるように感じます。しかし対象は、急に始まった持続性のめまい、眼振、悪心・嘔吐、頭部運動不耐、歩行不安定などを持つ高リスク集団です。慢性のふらつき、数秒だけの頭位性症状、眼振が確認できない人へ同じように使う検査ではありません。検者の訓練と所見の解釈も必要です。
若手PT・OTがHINTSの一部だけを行い、「末梢性らしいから安全」と判断する使い方は避けます。
PT・OTが担うべきことは、発症様式、持続時間、誘発条件、随伴症状、座位・立位能力を正確に記録し、疑わしい変化を医師や専門職へ速やかに共有することです。眼球運動所見を扱う場合も、施設内の役割、訓練、評価対象を明確にします。
よくある勘違い2:BBSやTUGが変われば、めまいの原因も変わったとは限りません
BBS、TUG、歩行速度は、バランスや移動能力の変化を見る重要な尺度です。しかし、筋力、運動麻痺、理解、注意、補助具、練習効果など多くの要素の影響を受けます。得点や時間が変わっても、前庭機能そのものが変化したとは限りません。
2023年の系統的レビューとメタ解析では、15 RCT、769人を統合し、通常リハビリへ前庭リハビリを加えた群で、バランス指標の標準化平均差0.59、95%信頼区間0.40から0.78、TUGの平均差マイナス4.32秒、95%信頼区間マイナス6.65からマイナス1.99が報告されました。文献5
一方、2026年のスコーピングレビューは18研究、601人、82種類のアウトカムを整理し、頻用尺度はBBS、TUG、歩行速度、ケイデンス、歩幅、DGIだったと報告しています。主観的視性垂直と視線安定性検査は各1研究にとどまりました。文献6
つまり、研究全体からはバランスと歩行に変化の可能性が示されていますが、どの前庭機能が、どのタイプのめまいを持つ人で変わったかは、まだ十分に整理されていません。
評価ではここを分ける:七つの層で記録します
めまいの診断は医師や前庭領域の専門職を含む評価で行います。PT・OTは診断名を独断でつけず、症状と動作の関係、条件操作への反応、生活上の支障を再現可能な形で共有します。
| 層 | 確認すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 1 時間経過 | 突然か徐々か、持続か発作か、初回か反復か | 何時に始まり、今も続きますか |
| 2 誘発条件 | 寝返り、起き上がり、立位、頭部運動、視覚環境 | 動作開始から何秒後に出ますか |
| 3 随伴症状 | 神経症状、頭痛、頸部痛、悪心、耳症状、全身症状 | 同時に何が起きましたか |
| 4 循環・薬剤 | 血圧、脈拍、脱水、食事、低血糖リスク、薬剤変更 | 立位直後だけですか |
| 5 視線・頭部 | 固視、眼球運動、頭部運動、背景の動き | 物がぶれる、二重に見えますか |
| 6 姿勢・歩行 | 座位、立位、方向転換、暗所、支持物、介助量 | どの条件で足が止まりますか |
| 7 生活・参加 | 入浴、屋外、買い物、人混み、運転、活動回避 | めまいで何を避けていますか |
症状の言葉をこちらで決めません
「ぐるぐる」「ふわふわ」「目の前が暗い」「体が傾く」「足元が頼りない」「物がぶれる」など、ご本人の言葉をそのまま残します。そのうえで、持続時間と誘発条件を付けます。「めまいあり」だけでは再評価できません。
回転感があるから末梢前庭性、ふわふわするから心因性、と言葉だけで原因を決めることも避けます。同じ人でも複数の感覚を表現することがあり、失語症や構音障害があれば表現方法にも制約があります。選択肢、絵、実際の動作を使って確認します。
起立時だけなら、前庭課題の前に循環を確認します
臥位や座位では問題がなく、立った直後に目の前が暗くなる、脱力感や冷汗が出る場合は、血圧、脈拍、脱水、食事、薬剤、貧血などの全身要因を医療チームと確認します。起立性低血圧の評価手順や運動中止基準は、施設の医療安全手順に従います。
立位で症状が出たという共通点だけで、前庭性と循環性を同じ練習へまとめません。
視線と頭部運動は、姿勢条件を固定して比べます
まず支持された座位など安全な姿勢で、静止した標的を見る、眼球だけをゆっくり動かす、頭部を小さく動かす、背景が動く、と条件を一つずつ変えます。頸部痛、複視、新しい眼球運動異常、強い悪心があれば中止し、専門評価へつなげます。
ここで大切なのは、検査項目をこなすことではなく、どの条件で症状が再現し、回復まで何分かかり、次の動作へ影響したかを残すことです。
臨床で使うならこう考える:原因候補を四群に分けます
1 中枢の前庭・眼球運動処理が関わる可能性
脳幹、小脳、視床、大脳皮質を含む広いネットワークが、視線、垂直の認知、頭部運動、姿勢に関わります。ただし、臨床所見から単一の病変や経路を断定しません。医師の画像所見、神経学的所見、前庭検査と合わせます。
MRIで確認された前庭性脳卒中36人を平均30.2か月追跡した研究では、DHI平均値が急性期45.0から18.1へ、mRS平均値が2.1から1.1へ低下しました。文献4
これは自然経過と受けた支援を含む対照群のない観察結果です。特定の課題で変化したとは言えず、平均値が下がっても症状が残る人がいることを踏まえます。
2 末梢前庭の問題が併存する可能性
脳卒中後であっても、良性発作性頭位めまい症など別の前庭疾患が併存する可能性があります。寝返りや起き上がりなど特定の頭位で短い回転感が反復する場合は、訓練を受けた専門職による評価へつなげます。
一方、頭位で誘発されるという一条件だけで自己流の頭位治療を始めません。頸部疾患、血管性要因、神経症状、症状の持続、眼振所見などを含む鑑別が必要です。
3 循環・代謝・薬剤が関わる可能性
起立、食事、入浴、排泄、運動強度、服薬時刻との関係を確認します。降圧薬、鎮静作用を持つ薬剤、脱水、貧血、低血糖、感染、不整脈などは、めまい・ふらつきに関係する可能性があります。PT・OTだけで原因を確定せず、測定結果と時間経過を医療チームへ共有します。
4 感覚運動・視覚・注意・恐怖が重なる可能性
麻痺側下肢の支持、足底感覚、運動失調、視野、半側空間無視、二重課題、疲労、転倒恐怖も、ふらつきと活動回避へ関係します。めまいがあるから心理的、恐怖があるから前庭性ではない、という二者択一にはしません。
複数の原因候補があるときは、危険度、変えやすさ、生活への影響で優先順位をつけます。
リハビリで設計すること:原因名ではなく「崩れる条件」から始めます
医学的に安定し、急性の危険所見が除外されたら、評価で再現できた条件から課題を設計します。大切なのは、いきなり強い症状を出すことではなく、成功と適度な誤差が両立する難易度を作ることです。
視線と頭部運動で崩れる場合
支持された座位や立位で、静止標的、ゆっくりした小さな頭部運動、予測できる方向から始めます。頭部運動の速度、範囲、標的距離、背景、姿勢、支持物を一度に変えません。症状の強さ、回復時間、標的の見え方を記録します。
これは「前庭を鍛えればよい」という意味ではありません。頸部痛、視野・眼球運動、理解、注意、姿勢制御のどれが制約かを再評価します。
方向転換や歩行で崩れる場合
直線歩行だけでなく、停止、視線移動、頭部回旋、広い方向転換、狭い方向転換、障害物、会話、屋外と条件を段階づけます。まず速度や支持物を調整し、どこで足が止まるか、歩幅が変わるか、麻痺側支持が崩れるか、症状が出るかを分けます。
歩行が変わっても、それが運動回復、感覚の再重みづけ、戦略の獲得、補助具による代償のどれかは別に記録します。支持物で安全に歩けることには価値がありますが、支持物なしの姿勢制御が変化したことと同義ではありません。
視覚の動きで崩れる場合
無地の壁、静かな廊下、模様のある床、人が動く環境、店舗など、視覚環境を段階づけます。視野障害、半側空間無視、複視、光過敏が疑われる場合は、眼科・神経眼科や多職種評価へつなげます。
症状が強い日の扱い
睡眠、疲労、薬剤、食事、水分、疼痛、時間帯を確認します。予定した課題をそのまま実施せず、支持された姿勢、短い試行、休止、環境調整へ変更します。前回と同じ刺激でも反応が違う理由を記録すると、過負荷と自然な変動を区別しやすくなります。

研究を使うときの注意:平均効果をそのまま個別処方にしません
脳卒中28人のパイロットRCTでは、通常理学療法へ3週間の前庭課題を追加した群内で、視線安定性とDGI得点の変化が報告されました。文献9
亜急性期脳卒中25人の予備的RCTでは、4週間の個別前庭課題群で歩行速度、歩幅、複数の臨床尺度に群間差が報告されましたが、体幹安定性には有意差がありませんでした。文献8
一方、初回脳卒中後にめまいまたは不安定感がある32人のパイロットRCTでは、追加前庭課題群19人と通常リハビリ群13人の間で主要アウトカムの変化に差は確認されませんでした。追跡完了は22人でした。文献7
これらを合わせると、前庭要素を含む課題を検討する根拠はありますが、誰に、どの課題を、どの量で行えば、めまいと生活参加が変わるかは確定していません。
研究名だけで一律のメニューを選ばず、目の前の人の誘発条件とアウトカムを設定し、短い試行で仮説を確かめます。
自宅や生活で気をつけること:避け続けるか、我慢して動くかの二択にしません
ご本人や家族には、「めまいがあっても気合いで動く」「すべての動作を避ける」という両極端を勧めません。まず急変時の連絡基準と、安全に試せる条件を共有します。
- 新しい神経症状、意識変化、強い頭痛、胸痛、失神があれば自主練習を中止して医療へつなげます
- 夜間移動、入浴、階段、屋外では、照明、手すり、履物、見守り、補助具を整えます
- 症状日誌には、時刻、直前の動作、持続時間、随伴症状、回復までの時間を残します
- 薬剤を自己判断で中止せず、症状と服薬時刻の関係を処方医・薬剤師へ共有します
- 運転や高所作業は、症状がある状態で自己判断して再開しません
自主練習は、担当者が安全性を確認した具体的な課題に限ります。「頭をたくさん振れば慣れる」と回数だけを増やすと、頸部痛、悪心、転倒リスク、翌日の活動低下につながる可能性があります。
生活上の目標は、めまいをゼロにすることだけでなく、安全に必要な活動へ戻れる条件を増やすことです。
変化を見るアウトカム:症状、機能、参加、安全を別々に測ります
DHIは、めまいによる自己認識上の支障を身体、機能、感情の三領域で捉える25項目尺度です。開発研究では106人に用いられ、内的一貫性と再検査信頼性が報告されました。文献10
ただしDHIは原因診断ではなく、転倒を単独で予測する尺度でもありません。次の四群を組み合わせます。
| 領域 | アウトカム例 | 記録のポイント |
|---|---|---|
| 症状 | DHI、症状強度、発症回数、持続、回復時間 | どの誘発条件で測ったか |
| 視線・姿勢 | 視線安定性、座位・立位条件、頭部運動への反応 | 支持物と背景を固定したか |
| 移動 | FGA、TUG、10m歩行、BBS、介助量 | めまいと運動麻痺を分けたか |
| 参加・安全 | ABC Scale、外出、入浴、買い物、転倒・ニアミス | できた条件と避けた条件は何か |
例えば、DHIが変わらなくても、回復時間が短くなり、見守り下で近所へ行けるようになることがあります。反対に、TUGが短くなっても、人混みを避け続けているかもしれません。
一つの点数ではなく、症状、動作、参加、安全の四面から変化を確認します。
論文からどこまで言えるか:バランス・歩行の変化と、めまいの機序は分けます
現在の研究から、脳卒中後のリハビリへ視線、頭部運動、感覚条件の操作を含む前庭課題を加えることで、バランスや歩行指標に変化が出る可能性は示されています。とくに2023年のメタ解析は15試験を統合しています。
しかし、最新のスコーピングレビューが示すように、多くの研究はBBS、TUG、歩行速度などを中心に評価し、前庭特異的な検査やめまいの患者報告指標を十分に組み合わせていません。転倒についても、メタ解析のデータは116人に限られ、95%信頼区間は広いものでした。
したがって、次のような断定はできません。
- 前庭課題を行えば脳卒中後のめまいがなくなる
- BBSやTUGの変化は前庭機能の変化を表す
- 同じ運動量が急性期、亜急性期、慢性期の全員に適する
- めまいが残るのは不安や恐怖だけが原因である
- HINTSが一部正常なら脳卒中を除外できる
研究は課題候補と測定候補を与えますが、個別の原因診断や安全確認を置き換えません。
ぱらゴリ的な見立て:最初に変えるのは「運動」ではなく「条件」です
臨床で見落としやすいのは、ふらつきを見た瞬間に筋力、バランス、前庭のどれかへ名前をつけることです。まず、頭を止める、視線を固定する、支持物を変える、照明を変える、方向転換を広くする、立位前後の循環を測るなど、一つの条件だけを短時間変え、症状と動作がどう変わるかを見ます。
条件を変えて歩きやすくなったとしても、それは仮説を支持する一時的な反応です。例えば、固定した標的で歩行が安定すれば、視覚情報の利用が関係する可能性はありますが、前庭障害の診断にはなりません。支持物で安定すれば、安全な代償条件が見つかったのであり、麻痺側支持や前庭機能が回復したと断定しません。
そのうえで、必要な能力を分けます。視線を保つ、頭部運動中も姿勢を保つ、方向転換で減速する、暗所で感覚を再配分する、症状が出たときに休止と再開を自己管理する、といった能力です。課題を一つ選び、難易度が適切なら反復し、同じ誘発条件と生活目標で再評価します。
評価、条件操作、課題、再評価が同じ仮説でつながっているかを確認します。
最後にもう一度、要点を整理します
- めまい・ふらつきは原因名ではなく、複数の仕組みが生む症状です
- 新しく急に始まった症状や神経学的変化は、練習より医療評価を優先します
- HINTSは対象と検者条件が限定され、万能な除外検査ではありません
- 評価は時間経過、誘発、随伴症状、循環、視線、姿勢・歩行、生活参加に分けます
- 前庭リハビリ研究はバランス・歩行の変化を示しますが、めまいの病因別効果は十分に確定していません
- 代償で安全に活動できた変化と、運動・前庭機能の変化を分けます
- 症状、動作、参加、安全を別々のアウトカムで追います
めまいを「バランスが悪い」の一言で終わらせないことが、見逃しを減らし、必要な課題を選ぶ出発点になります。
参考文献
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