- 立てたけれど、非麻痺側だけで立っていませんか?
- 結論!「対称に立つ」を目的にせず、崩れる局面を特定します
- なぜそう見えるのか:立ち上がりは一つの動作ではありません
- よくある勘違い:左右対称になれば、よい立ち上がりとは限りません
- もう一つの勘違い:「速く立てたから筋力が上がった」とは限りません
- 評価ではここを分ける:最初に安全、次に条件、最後に原因仮説を見ます
- 臨床で使うならこう考える:条件を一つ変えて、仮説を検証します
- リハビリで設計すること:反復の前に、何を学習させるか決めます
- 代償と回復をどう分けるか:できた直後だけで判断しません
- 自宅や生活で気をつけること:練習用の椅子と生活の椅子を混同しません
- 変化を見るアウトカム:時間、質、介助量、生活を組み合わせます
- 論文からどこまで言えるか
- ぱらゴリ的な見立て:立ち上がりは「できたか」より、離殿の前後を見ます
- 最後にもう一度、要点を整理します
- 参考文献
立てたけれど、非麻痺側だけで立っていませんか?
脳卒中後の方が椅子から立つとき、体幹が非麻痺側へ傾く。非麻痺側の足を強く踏み、手すりを引いて立つ。麻痺側の足は床についているのに、ほとんど荷重していないように見える。こうした場面は臨床でよくあります。
ここで「麻痺側の筋力が弱いから」と考え、麻痺側へ体重を乗せる練習だけを始めると、原因を外すことがあります。立ち上がりには、前方へ重心を移す、殿部を座面から離す、両下肢で身体を上方へ押し上げる、立位で重心を止めるという複数の局面があります。どの局面で偏りが生じたかによって、評価も課題設定も変わります。
当事者やご家族にとっても、「左右均等に立てないから失敗」ではありません。手すりや非麻痺側下肢を使うことが、今の生活で安全に立つために必要な代償である場合があります。一方で、同じ方法だけを繰り返すと、麻痺側下肢を使う機会が少なくなる可能性もあります。
立ち上がりで見るべきなのは、左右差の有無だけではなく、どの局面で、なぜ偏り、その偏りが安全な代償なのか、変えられる運動戦略なのかです。
結論!「対称に立つ」を目的にせず、崩れる局面を特定します
先に結論を整理します。
- 立ち上がりは、離殿前の前方移動、離殿、下肢伸展、立位安定化に分けて観察します。
- 非麻痺側への偏りは、麻痺側膝伸展筋力だけでなく、足関節の制御、感覚、疼痛、足部位置、体幹戦略、恐怖、注意障害などでも起こります。
- 左右差があっても自立して安全に立てるなら、まず生活上の代償としての意味を確認します。
- 左右を近づける練習を行う場合も、麻痺側へ強制的に乗せるのではなく、座面高、足部位置、上肢支持、速度、介助量を調整します。
- 再評価では時間だけでなく、介助量、座面高、足部位置、上肢使用、麻痺側荷重、離殿後の安定性を同じ条件で追います。
立ち上がりの左右差は、修正すべき答えではなく、原因を探るための所見です。

なぜそう見えるのか:立ち上がりは一つの動作ではありません
立ち上がりを「座位から立位になる動作」とだけ捉えると、途中の問題を見落とします。臨床では、少なくとも次の四局面に分けると考えやすくなります。
| 局面 | 必要なこと | よく見える問題 |
|---|---|---|
| 離殿前 | 足底を接地し、体幹と骨盤を前方へ運ぶ | 後方重心のまま、非麻痺側へ傾く、手すりを早く引く |
| 離殿 | 前方への運動量を上方へ切り替える | 殿部が上がらない、何度もやり直す、麻痺側膝が不安定 |
| 下肢伸展 | 股関節・膝関節を伸展し、足関節上で身体を上げる | 非麻痺側で押し上げる、体幹を回旋する、途中で止まる |
| 立位安定化 | 上方移動を減速し、支持基底面内で重心を止める | 立った直後に後方へ戻る、ステップする、手すりから離せない |
離殿前には、体幹を前へ倒すだけでなく、骨盤を前傾させ、両足へ圧を伝え、身体重心を足部の上へ近づける必要があります。麻痺側足関節を前方へ動かしにくい、足底感覚を利用しにくい、股関節屈曲に疼痛がある、前方へ倒れることが怖い場合、非麻痺側へ逃げる戦略が出やすくなります。
離殿の瞬間は支持面が殿部と足部から足部だけへ変わります。この切り替えには、十分な前方移動と下肢伸展モーメントが必要です。ここで麻痺側膝が屈曲位のまま支えにくいと、非麻痺側へ重心を移し、上肢で引くことで不足を補う場合があります。
離殿後は、単に強く伸ばせばよいわけではありません。股関節、膝関節、足関節の伸展を時間的に調整し、身体を上方へ運びながら止める必要があります。立てない原因と、立った直後にふらつく原因は同じとは限りません。
Onursal Kılınçらの系統的レビューは、脳卒中者と健常対照者の立ち上がりバイオメカニクスを比較した21研究をまとめています。脳卒中者では、離殿前に体幹側屈の増加、足圧中心の非麻痺側への偏位、骨盤前傾と股関節屈曲の減少、筋活動タイミングの変化がみられました。離殿後には、骨盤の側方移動と荷重非対称、膝伸展速度の低下や遅れ、立位安定化の低下などが示されています。
この結果は、立ち上がりの偏りを一つの筋力検査だけで説明せず、局面ごとの運動学、荷重、筋活動のタイミングを分けて見る必要があることを示しています。
よくある勘違い:左右対称になれば、よい立ち上がりとは限りません
脳卒中後は非麻痺側へ多く荷重する方が少なくありません。しかし、荷重の左右差と姿勢不安定性の関係は単純ではありません。
Kamphuisらは、脳卒中後の荷重非対称と姿勢不安定性の関係を扱った9件の観察研究を系統的にレビューしました。荷重非対称が大きいことは、足圧中心速度の増加や左右下肢の足圧中心軌跡の同期低下と関連していました。一方、臨床的バランステストや転倒との関連を支持する根拠は弱く、荷重非対称が姿勢不安定性を引き起こすという因果関係は示されていません。
つまり、左右対称を目標にする根拠がないという意味ではなく、左右差だけを見て、安全性や歩行能力まで決められないということです。
例えば、麻痺側下肢の支持性が低い方が、非麻痺側荷重と手すりを使って一人でトイレ動作を行えている場合、その戦略は活動を成立させる代償です。急に上肢支持を外し、麻痺側へ荷重を強制すれば、立ち上がりが失敗したり転倒につながったりする可能性があります。
一方、十分な麻痺側膝伸展能力と感覚があるのに、低い課題難易度でも毎回非麻痺側だけを使っているなら、足部位置や外的手がかりを変え、麻痺側を使う経験を増やす余地があるかもしれません。
対称性は目的ではなく、課題を成立させる能力と戦略を確認するためのアウトカムの一つです。
もう一つの勘違い:「速く立てたから筋力が上がった」とは限りません
立ち上がり時間は臨床で測りやすい指標です。しかし、時間は筋力だけで決まりません。
座面が高ければ必要な関節運動と下肢の負担は変わります。足を後方へ引けば、身体重心と支持基底面の位置関係が変わります。手を大腿に置く、手すりを使う、腕を胸の前で組むといった上肢条件でも、運動戦略と所要時間は変わります。
Kwongらは、地域在住の慢性期脳卒中者45人を対象とした横断研究で、足部位置と上肢位置を変えて5回立ち上がりテストを行いました。後方への足部配置は通常配置より所要時間が短く、上肢位置によっても時間が変化しました。
この研究から、5回立ち上がりの数値を比較するときは、椅子の高さ、足部位置、上肢使用、履物、装具、開始姿勢をそろえる必要があります。
同じ人が前回より速く立てても、麻痺側を使えるようになったのか、非麻痺側への偏りや上肢による代償が増えたのかで意味は異なります。時間の短縮だけで神経学的な回復と判断しません。
評価ではここを分ける:最初に安全、次に条件、最後に原因仮説を見ます
立ち上がり評価は、いきなり左右の足圧を測るところから始めません。安全性を確認し、課題条件を固定し、動作を局面ごとに観察してから原因を検証します。
第一段階:立ち上がりを行ってよい状態か確認します
- 安静時と動作時の血圧、心拍、息切れ、めまい
- 新しい麻痺、意識変化、急な頭痛、胸痛の有無
- 股関節、膝関節、足関節、腰部の疼痛
- 起立性低血圧を疑う症状
- 認知、失語、注意、指示理解
- 座面、床、履物、装具、手すりの安全性
体力や循環応答が不安定な方に、反復回数だけを増やしてはいけません。また、股関節痛や膝痛があると、痛みを避けるための非麻痺側荷重が生じます。これは麻痺側筋力だけでは説明できません。
第二段階:測定条件を固定します
記録したい条件は次の通りです。
- 座面高と座面の硬さ
- 椅子の奥行きと殿部の位置
- 両足の前後、左右、足幅
- 足関節装具と靴の有無
- 上肢を胸の前で組む、大腿に置く、手すりを使うなどの条件
- 立ち上がる速度の指示
- 介助者の接触部位と介助量
- 反復回数と休息
条件を記録しない立ち上がり時間は、再評価で同じ課題を比べているとは限りません。
第三段階:四局面を正面と側面から観察します
正面からは、体幹側屈、骨盤の側方移動、両足の荷重、膝の内外側偏位を見ます。側面からは、体幹前傾、骨盤前傾、下腿前傾、離殿のタイミング、股関節と膝関節の伸展、立位での減速を見ます。
可能なら動画で確認します。ただし、撮影は本人の同意と施設ルールに従います。床反力計がなくても、左右の体重計、一時的な足圧フィードバック、触診、介助量の記録から仮説を立てられます。左右の体重計を使う場合は、安全確保と機器の高さ合わせが必要です。
第四段階:機能障害を別に測ります
| 原因候補 | 追加評価 |
|---|---|
| 麻痺側下肢の力発揮 | 膝伸展、足関節背屈・底屈、股関節伸展の随意性と筋出力 |
| 運動の選択性 | Fugl-Meyer Assessment、共同運動の出現、速度による変化 |
| 関節可動域 | 足関節背屈、股関節屈曲、膝伸展、足部接地 |
| 感覚 | 足底触覚、足関節位置覚、荷重感、視覚代償 |
| 姿勢認知と注意 | lateropulsion、半側空間無視、正中認知、指示理解 |
| 疼痛と恐怖 | 疼痛部位、動作局面、転倒歴、立ち上がりへの恐怖 |
| 心肺・持久性 | 反復時の息切れ、心拍、血圧、自覚的運動強度 |
動作観察で原因を決めず、別の評価で仮説を支持できるか確認します。

臨床で使うならこう考える:条件を一つ変えて、仮説を検証します
評価所見を並べたら、影響が大きそうな原因に順位をつけます。その後、条件を一つだけ変えて立ち上がりがどう変わるか確認します。
座面を少し高くすると変わる場合
高い座面で非麻痺側への偏りと上肢支持が減るなら、現在の座面高に対して下肢伸展能力や前方移動が不足している可能性があります。高い座面は課題難易度を下げ、反復量を確保する手段になります。
ただし、高い座面でできたことは、そのまま標準椅子から立てる能力の回復を意味しません。練習では安全を保ちながら段階的に座面を下げ、同じ戦略が維持されるかを確認します。
非麻痺側足部を少し前へ出すと変わる場合
非麻痺側足部を前に置くと、相対的に麻痺側下肢を使いやすくなる場合があります。Liuらのランダム化比較試験では、脳卒中者50人を、左右対称の足部位置で練習する群と麻痺側足部を後方に置く群へ25人ずつ割り付け、30分、週5回、4週間の立ち上がり練習を行いました。
麻痺側足部を後方に置いた群では、対称配置群より、立ち上がり時間、荷重非対称、Berg Balance Scaleなどの変化量が大きい結果でした。立ち上がり時間の平均変化は0.90秒と0.42秒、荷重非対称の平均変化は0.17と0.06、Berg Balance Scaleの平均変化は8.4点と5.8点でした。
ただし、これは特定の対象と練習条件で得られた群平均です。すべての脳卒中者に麻痺側足部を後方へ置けばよいとは言えません。足関節背屈可動域、疼痛、膝折れ、lateropulsion、理解力が異なれば、安全性と効果は変わります。
足部位置は固定処方ではなく、麻痺側を使える条件を探るための操作変数です。
上肢支持を変えると大きく変わる場合
手すりを使うと立てるが、外すと前方へ移れない場合、上肢が下肢伸展を補っているだけでなく、前方移動の方向づけや恐怖の軽減に働いている可能性があります。
「手を使わないで」と一律に禁止せず、どの高さ、方向、接触量なら安全に必要な下肢活動を引き出せるかを調整します。軽い接触へ減らせるか、手すりを押すのか引くのか、立位後に手を離せるかも観察します。
視覚や触覚の手がかりで変わる場合
正中の視標、麻痺側膝への軽い触覚、足底圧のフィードバックで左右差が変わるなら、筋力以外に注意や感覚情報の利用が関係している可能性があります。
その場で動作が変わっても、手がかりによる一時的な代償かもしれません。手がかりを減らしても保持されるか、翌日も再現するか、別の椅子でも使えるかを確認します。

リハビリで設計すること:反復の前に、何を学習させるか決めます
立ち上がりは日常生活に直結する課題なので、課題特異的な反復が重要です。しかし、毎回同じ代償で成功する練習を大量に行えば、狙った能力を使うとは限りません。
Activeの8ステップに沿って、次のように設計します。
1.問題点を具体化します
「立ち上がりが悪い」ではなく、「標準高の椅子から上肢支持なしで立つと、離殿直前に体幹が非麻痺側へ傾き、麻痺側膝の伸展が遅れる」と記録します。
2.原因候補を並べます
麻痺側膝伸展の力発揮、足関節背屈可動域、足底感覚、体幹前方移動、疼痛、恐怖、足部位置を候補にします。
3.原因候補に順位をつけます
別検査と動作所見が一致するかを見ます。膝伸展筋力が低くても、高い座面で麻痺側荷重が増えないなら、感覚や運動戦略も確認します。
4.一時的な条件変更で再現します
座面高、足部位置、手すり、視標、速度のうち一つを変えます。複数を同時に変えると、何が動作を変えたか分かりません。
5.必要な能力へ分解します
前方移動、足底への荷重、離殿時の膝伸展、股関節伸展、立位での減速などへ分けます。必要なら部分練習を使いますが、最後は立ち上がり全体へ戻します。
6.課題難易度を設定します
座面を高くする、上肢支持を許可する、反復回数を減らす、介助を追加することで成功可能な条件を作ります。能力が上がれば、座面を下げる、上肢支持を減らす、速度を変える、異なる椅子で行うなど、生活へ近づけます。
7.反復量と休息を決めます
発症3か月未満で自立して立てない30人を対象にしたde Sousaらの多施設ランダム化比較試験では、通常ケアに加えて、個別化した立ち上がり練習を1日2セッション、2週間追加しました。臨床家が動画で判定した15段階の変化尺度における群間差は1.57点で、95%信頼区間は0.02から3.11点でした。
この研究は、重症度が高く自立して立てない方でも、通常ケアに加えた集中的で個別化された練習により立ち上がり能力が変化する可能性を示しています。一方、対象は30人、介入期間は2週間であり、長期的な生活自立やすべての病期への一般化には限界があります。
反復は重要ですが、回数だけをコピーしません。循環応答、疲労、疼痛、介助量、成功率を見ながら、その人に必要な量を設定します。
8.アウトカムを決めます
練習前に、何が変われば仮説を支持するか決めます。立ち上がり時間だけでなく、必要介助量、麻痺側荷重、座面高、上肢使用、立位後の安定性を追います。
反復の目的は、立った回数を増やすことではなく、必要な運動戦略を適切な難易度で学習することです。
代償と回復をどう分けるか:できた直後だけで判断しません
立ち上がりが成功したとき、何を使って成功したかを記録します。
| 観察された変化 | まず考えること | 次の確認 |
|---|---|---|
| 手すりを使うと自立した | 上肢による支持・牽引、恐怖軽減 | 接触量を減らしても可能か |
| 座面を高くすると左右差が減った | 必要トルクや可動域の条件が下がった | 徐々に座面を下げても維持するか |
| 非麻痺側足部を前にすると麻痺側荷重が増えた | 足部配置による課題制約 | 足部を戻した後も学習が残るか |
| 視標があると正中へ近づいた | 視覚情報による補償 | 視標なし、別環境でも再現するか |
| 翌日も同条件で介助量が減った | 保持の可能性 | 一週間後、異なる椅子でも可能か |
一時的な道具や手がかりでできた変化は、生活を成立させる有用な代償になり得ます。ただし、それだけで麻痺側の選択的な運動や感覚利用が変わったとは言えません。
回復を検討するなら、外的条件を減らしたときの保持、翌日以降の再現、別の座面への転移、麻痺側の運動学と荷重の変化を確認します。
成功したかだけでなく、何を使って成功し、その変化が保持・転移したかまで見ると、代償と回復を分けやすくなります。
自宅や生活で気をつけること:練習用の椅子と生活の椅子を混同しません
自宅で立ち上がりを練習する場合は、次を確認します。
- 椅子が動かず、必要なら壁につけられている
- 床が滑らず、足底全体を接地できる
- 靴や装具の使用条件が担当者の指示と一致している
- 転倒時にぶつかる家具や角が近くにない
- 必要な手すりや介助者がいる
- 低すぎるソファやキャスター付き椅子を練習に使わない
- 疲労、疼痛、めまい、息切れが強い日は回数を減らすか中止する
回数の目標は一律に決めません。立つたびに非麻痺側へ崩れ、膝痛が増え、介助量が増えるなら、その回数は学習と安全の両面で適切ではない可能性があります。
トイレや食卓では、練習時と座面高、手すり位置、足元の広さが違います。訓練室で立てることと、自宅の低い椅子から安全に立てることは別の課題です。
急な頭痛、胸痛、強い息切れ、意識変化、新しい麻痺、転倒後の強い痛みがある場合は練習を中止し、医療機関へ相談します。
変化を見るアウトカム:時間、質、介助量、生活を組み合わせます
立ち上がりのアウトカムは一つに絞りません。
活動が成立したか
- 自立、見守り、軽介助、中等度介助などの介助量
- 手すり、肘掛け、杖などの上肢支持
- 立てる最低座面高
- 連続して安全に行える回数
- トイレ、ベッド、食卓、車など実生活での可否
動作がどう変わったか
- 立ち上がり所要時間
- 離殿までの時間と離殿後の時間
- 体幹側屈と回旋
- 麻痺側と非麻痺側の荷重比
- 離殿時の膝関節位置
- 立位直後のステップ、手すり把持、ふらつき
関連する能力が変わったか
- 麻痺側膝伸展、足関節背屈・底屈の力発揮
- Fugl-Meyer Assessment下肢項目
- Berg Balance ScaleやPASSの関連項目
- Timed Up and Go、10m歩行など移動能力
- 疼痛、疲労、立ち上がりへの自信
5回立ち上がりテストは、独立して反復できる方では時間を追う選択肢になります。ただし、上肢を使うか、足部をどこへ置くか、椅子の高さをどうするかで結果が変わります。条件を統一し、時間だけで原因や転倒リスクを決めません。
LomaglioとEngは、慢性期脳卒中者22人を対象とした相関研究で、麻痺側膝伸展トルクと自己選択速度での立ち上がり時間に強い負の相関を報告しました。相関係数はマイナス0.716でした。また、荷重の対称性が高いほど自己選択速度と速い速度の立ち上がり時間が短い関係があり、相関係数はそれぞれマイナス0.565とマイナス0.564でした。
この研究は、麻痺側筋力と荷重能力が立ち上がり成績に関係することを示しますが、相関研究なので因果関係は分かりません。対象は自立して立ち上がれる軽度から中等度の慢性期脳卒中者であり、自立して立てない方へそのまま当てはめることもできません。
アウトカムは、速くなったかだけでなく、どの条件で、どの戦略を使い、生活のどこまで広がったかを記録します。
論文からどこまで言えるか
言えること
- 脳卒中後の立ち上がりでは、離殿前と離殿後で、体幹、骨盤、下肢荷重、膝伸展速度、立位安定化に異なる変化がみられます。
- 慢性期脳卒中者を対象とした相関研究では、麻痺側膝伸展や足関節の力発揮、荷重対称性と立ち上がり時間に関連がありました。
- 足部位置と上肢位置は、慢性期脳卒中者の5回立ち上がり時間に影響します。
- 50人を対象としたランダム化比較試験では、麻痺側足部を後方に置いた反復練習群で、対称配置群より立ち上がり時間、荷重非対称、バランス指標の変化量が大きい結果でした。
- 発症3か月未満で自立して立てない30人を対象としたランダム化比較試験では、通常ケアに加えた2週間の集中的で個別化された立ち上がり練習に、群間差が示されました。
まだ言い切れないこと
- 荷重非対称そのものが、姿勢不安定性や転倒を引き起こすとは断定できません。
- 左右対称に立てれば、歩行や生活自立も高まるとは限りません。
- 麻痺側足部を後方へ置く方法が、すべての病期、重症度、疼痛、感覚障害に適するとは言えません。
- 立ち上がり時間の短縮だけで、麻痺側下肢の神経学的な回復を示したとは言えません。
- 短期間の介入研究から、長期的な転倒減少や参加拡大まで断定することはできません。
ぱらゴリ的な見立て:立ち上がりは「できたか」より、離殿の前後を見ます
初学者が見落としやすいのは、立ち上がった最後の姿勢だけを見てしまうことです。非麻痺側へ傾いて立っていても、問題が始まったのは離殿より前かもしれません。
例えば、麻痺側足関節が十分に前へ動かず、骨盤を前へ運べない方では、離殿前から非麻痺側へ重心を移しています。そこで麻痺側膝伸展だけを練習しても、立ち上がり全体が変わらない可能性があります。
逆に、離殿前の前方移動はできても、離殿直後に麻痺側膝が屈曲し、非麻痺側で急いで押し上げる方では、下肢伸展能力と立位への減速を優先します。
Activeの8ステップで考えると、左右差を見つけるのは最初の一歩です。その後に原因候補を並べ、順位をつけ、座面高や足部位置を一時的に変え、必要な能力を分解し、課題を反復し、再評価します。
よい立ち上がり練習は、左右をそろえる練習ではなく、崩れる局面に必要な能力を使える条件で反復する練習です。
最後にもう一度、要点を整理します
- 立ち上がりは、離殿前、離殿、下肢伸展、立位安定化へ分けて観察します。
- 非麻痺側への偏りは、麻痺側筋力だけでなく、可動域、感覚、疼痛、体幹戦略、恐怖、足部位置でも生じます。
- 左右差は修正目標ではなく、原因仮説を立てる所見です。
- 座面高、足部位置、上肢支持などを一つずつ変え、何が動作を変えたか検証します。
- 一時的にできた変化は代償の可能性があります。保持、再現、別環境への転移を確認します。
- 再評価では、時間だけでなく、介助量、座面高、上肢使用、麻痺側荷重、立位後の安定性、生活場面を追います。
立ち上がりの左右差を見つけたら、すぐに直すのではなく、どの局面から偏りが始まったかを確認してください。
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