脳卒中後の自動車運転再開:MMSEや歩行だけで決めず、視覚・注意・操作・実車を分ける【若手PT・OT向け】

脳機能
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  1. 「歩けるようになったので、もう運転してよいですか」と聞かれたら
  2. 結論!運転再開は五つの層で確認します
  3. なぜ病棟で自立していても、運転では問題が出るのか
  4. よくある勘違い1:MMSEが基準以上なら運転できますか
  5. よくある勘違い2:TMT-Bの時間で合否が決まりますか
  6. よくある勘違い3:運転を再開しているなら安全ですか
  7. 評価ではここを分ける:制度と医学を最初に確認します
    1. 1.本人と家族へ、現在の運転状況を具体的に聞きます
    2. 2.急な意識障害や発作の可能性を先に扱います
  8. 視覚評価では「見える」と「探して反応できる」を分けます
  9. 認知・行動評価では、点数より失敗の仕方を見ます
  10. 運動評価では、筋力だけでなく「操作の連続」を見ます
  11. 臨床で使うならこう考える:五段階で仮説を検証します
    1. 段階1.運転の目的と実際の環境を聞きます
    2. 段階2.問題点を観察し、原因候補へ順位をつけます
    3. 段階3.一つの条件を変えて結果を見ます
    4. 段階4.必要能力へ課題を合わせます
    5. 段階5.専門評価と制度へつなぎます
  12. リハビリで設計すること:検査練習で終わらせません
    1. 1.視覚探索を判断と反応へつなげます
    2. 2.二重課題は難しくするためではなく、弱点を確かめるために使います
    3. 3.疲労と時間帯を評価へ入れます
    4. 4.代償と本人側の変化を分けます
  13. シミュレーターを使えば運転へ戻れますか
  14. 自宅や生活で気をつけること:運転しない期間の移動も設計します
  15. 変化を見るアウトカム:合否の前に過程を記録します
  16. 論文からどこまで言えるか:スクリーニングと最終判断を分けます
  17. ぱらゴリ的な見立て:運転は検査名ではなく課題の連鎖です
  18. 最後にもう一度、要点を整理します
  19. 参考文献

「歩けるようになったので、もう運転してよいですか」と聞かれたら

病棟内を一人で歩ける、会話が成立する、麻痺が軽い、MMSEの点数が高い。こうした所見は大切ですが、それだけで自動車運転の安全性を判断することはできません。

運転中には、広い範囲から危険を探し、信号と標識を読み、周囲の車の動きを予測し、複数の情報から優先順位を決め、数秒以内にハンドルやペダルを操作することが求められます。さらに、疲労、焦り、雨、夜間、渋滞、見慣れない道が加わると、静かな検査室では見えなかった問題が表面化することがあります。

反対に、片手操作や下肢の運動障害があるからといって、病名や麻痺だけで一律に結論づけることも適切ではありません。車両の条件、補助装置、運転する環境、制度上の手続き、専門的な実車評価を含め、個別に検討する必要があります。

結論は、脳卒中後の運転再開を「できる・できない」の一回判定にせず、制度・医学、視覚、認知、運動操作、実車場面の五層へ分けることです。

この記事では、PT・OTが免許の可否を決める方法ではなく、主治医や関係職種、運転免許を所管する機関が判断できる材料を、リハビリ場面でどう整理するかを解説します。

結論!運転再開は五つの層で確認します

最初に全体像を押さえます。

  1. 制度・医学:発作、意識障害、失神、再発リスク、服薬、医師からの助言、免許手続きを確認する
  2. 視覚・知覚:視力だけでなく、視野、眼球運動、視覚探索、半側空間無視、標識理解を確認する
  3. 認知・行動:注意、処理速度、切り替え、判断、衝動制御、病識、疲労を確認する
  4. 運動・操作:乗降、姿勢、頸部回旋、ハンドル、ペダル、方向指示器、急制動に必要な条件を確認する
  5. 実車・生活:実際の交通環境での能力、走る時間帯と地域、家族の観察、代替交通まで確認する

机上検査は「どの領域を詳しく調べるか」を決める入口であり、単独で免許や運転の合否を決めるものではありません。

日本では、病気や身体障害が運転へ及ぼす影響は個別に扱われ、免許の拒否、取消し、停止などの要件に該当するかは都道府県公安委員会が判断します。警察庁は、本人や家族が相談できる安全運転相談窓口と全国統一ダイヤル「♯8080」を案内しています。警察庁

脳卒中後の運転再開を制度・視覚・認知・運動・実車に分ける図

なぜ病棟で自立していても、運転では問題が出るのか

病棟生活では、床面が整い、動線が予測でき、速度を自分で調整できることが多くあります。必要なら立ち止まり、やり直し、スタッフへ尋ねられます。

一方、運転では周囲の状況が連続的に変わります。前方の信号を見ながら、側方から出てくる自転車を探し、後方車両との距離を保ち、ナビゲーションの音声を聞き、交差点で進路を選ぶ必要があります。判断を保留できる時間が短く、誤りが本人以外の安全にも影響します。

脳卒中後には、次のような「静かな場面では見えにくい問題」が起こり得ます。

  • 一つの対象は見つけられるが、左右へ注意を配り続けると見落としが増える
  • 指示は理解できるが、状況が変わった直後の判断が遅れる
  • 右足で単純に踏めるが、アクセルからブレーキへの素早い切り替えが不安定になる
  • 短時間は正確だが、30分を超えると処理速度や探索範囲が変わる
  • 自分では問題ないと感じるが、同乗者は車線位置や確認不足を心配している
  • 昼間の慣れた道では走れても、雨天、夕方、渋滞、未知の経路では負荷が急に増える

2014年の系統的レビューでは、認知、路上、シミュレーターによる運転評価研究に含まれた脳卒中者1,413人のうち、748人が路上評価に合格し、367人が不合格でした。ただし、対象者の発症時期や障害像、評価手順、合否基準は研究間で不均一でした。文献2

「軽症」という言葉は、複雑で時間制約のある運転課題まで安全だという意味ではありません。

よくある勘違い1:MMSEが基準以上なら運転できますか

MMSEは全般的な認知状態を把握するための検査です。見当識、記憶、計算、言語などを確認できますが、広い視野から危険を探し続けること、複数の情報を切り替えること、時間制約下で判断すること、誤りに気づいて停止することを十分に再現しません。

2023年の系統的レビュー・メタ解析では、16研究を整理し、NIHSS、MMSE、有給就労などが運転再開と関連する候補として報告されました。文献6

しかし、ここでの結果は「運転を再開したか」との関連です。実際に再開したことと、安全な運転能力が専門評価で確認されたことは同じではありません。また、関連があることは、MMSEの点数だけで個人の可否を決められることを意味しません。

MMSEは背景情報の一つです。運転に必要な視覚性注意、処理速度、切り替え、判断、病識を別に評価します。

よくある勘違い2:TMT-Bの時間で合否が決まりますか

2011年の系統的レビュー・メタ解析は30研究、1,728人を検討し、路上評価では938人、54%が合格しました。Road Sign Recognition、Compass、TMT-Bは、路上評価で不合格となる可能性がある人を見つける候補でした。TMT-Bについて90秒という値も提示されています。文献1

ただし、この90秒を日本の免許可否を決める境界として使うことはできません。研究は複数国の異なる対象と制度を統合しており、TMT-B自体も視力、視野、無視、ペダル操作、実際の危険予測を直接測るものではありません。

スクリーニングで気になる所見があれば、「不合格」と決めるのではなく、どの能力が路上課題へ影響しそうかを詳しく調べます。

検査では、時間だけでなく次も記録します。

  • 規則を保持できたか
  • 探索が左右どちらかへ偏らなかったか
  • 誤りへ自分で気づいたか
  • 修正後に同じ誤りを繰り返したか
  • 焦ると速度と正確性のどちらが変わったか
  • 疲労後に結果が変わったか

よくある勘違い3:運転を再開しているなら安全ですか

カナダの三地域で、発症前に運転していた急性期脳卒中者290人を追ったコホート研究では、1年後に177人、61%が運転を再開していました。筋力・運動活動、MMSE、病型などが再開と関連しました。文献3

この研究は、運転再開に複数の要素が関係することを示します。ただし、再開者全員が同じ専門的路上評価を通過したことを示す研究ではありません。自己判断で運転を始めた可能性、走行距離や環境を限定していた可能性もあります。

運転している事実、事故が起きていない事実、医学的・制度的な確認が済んでいる事実を混同しません。事故は頻度が低くても一度の影響が大きいため、「これまで大丈夫だった」を能力の証明にしないことが重要です。

評価ではここを分ける:制度と医学を最初に確認します

1.本人と家族へ、現在の運転状況を具体的に聞きます

「運転していますか」だけでは足りません。次を確認します。

  • 発症後に運転を再開したか
  • 主治医からどのような説明を受けたか
  • 免許センターや安全運転相談窓口へ相談したか
  • 走る時間帯、距離、道路、天候を限定しているか
  • 家族が同乗したとき、何を心配したか
  • 接触、急ブレーキ、道迷い、標識の見落としなどのヒヤリハットがあったか
  • 運転しないと通院、買い物、仕事、家族役割へどのような影響があるか

本人を責める聞き方では、正確な情報が集まりにくくなります。「安全に戻るために、今の条件を一緒に整理したい」と目的を共有します。

2.急な意識障害や発作の可能性を先に扱います

発作、失神、意識が途切れる症状、重度の眠気、再発を疑う新しい神経症状、薬剤変更後の強い傾眠などがある場合は、運転課題の練習より医療評価を優先します。

警察庁は、発作によって意識障害または運動障害をもたらす病気や、安全運転に必要な認知・操作能力を欠く状態などを制度上の検討対象として示しています。警察庁

PT・OTが「免許は有効だから大丈夫」「医師が何も言わなかったから再開してよい」と補完して判断しないことが重要です。

不明な場合は、本人の同意を得て主治医へ情報をつなぎ、安全運転相談窓口の利用を案内します。最終的な免許行政上の判断主体と、医療者の評価・助言の役割を分けます。

視覚評価では「見える」と「探して反応できる」を分けます

運転に関係する視覚評価は、視力表の結果だけではありません。

領域 確認すること 運転場面で想定される問題
視力・コントラスト 文字や対象の明瞭さ、薄暗さでの見え方 標識や歩行者の発見が遅れる
視野 左右・上下の範囲 側方から来る対象を見落とす
眼球運動 視線移動、追視、頭部運動との協調 ミラーと前方の切り替えが遅れる
視覚探索 多数の対象から危険を探す 交差点で自転車や信号を見落とす
半側空間無視 空間への注意の偏り 視野が保たれていても片側を探索しない
標識・文字理解 意味を読み取り行動へ変える 読めても判断や操作につながらない

同名半盲は視野の欠損で、半側空間無視は空間へ注意を向ける過程の障害です。両者は併存することがありますが、同じ病態ではありません。

また、紙面上の抹消課題で明らかな無視がないことは、動く環境で左右を探索し続けられることを保証しません。単一課題、複数課題、時間制約、疲労後という条件を変え、探索の偏りと見落とし方を確認します。

認知・行動評価では、点数より失敗の仕方を見ます

運転に関連する認知機能は、次のように分けます。

  • 持続性注意:一定時間、監視を続けられるか
  • 選択性注意:不要な刺激の中から危険情報を選べるか
  • 分配性注意:前方、ミラー、標識などへ注意を配れるか
  • 処理速度:状況の変化から判断までに時間がかからないか
  • 遂行機能:経路、優先順位、状況変更へ対応できるか
  • 抑制:焦ったときに危険な進行を止められるか
  • 病識:失敗や疲労を認識し、中止や相談を選べるか
  • 言語・記号理解:標識、ナビゲーション、口頭指示を理解できるか

例えば、模擬課題で反応が遅れたとき、「注意障害」と一括りにしません。対象を見つけられなかったのか、見つけたが意味を判断できなかったのか、判断できたが足を切り替えられなかったのかを分けます。

同じ遅れでも、視覚探索、意味判断、運動切り替えでは課題設計が変わります。

机上検査から見落とし・判断・操作・疲労の原因を分ける図

運動評価では、筋力だけでなく「操作の連続」を見ます

上肢や下肢の筋力があることと、運転操作を安全に連続して行えることは同じではありません。

確認する項目には、次があります。

  • 車へ安全に近づき、乗降できるか
  • 座位を保ち、後方確認に必要な頸部・体幹運動を行えるか
  • ハンドルを回しながら方向指示器や周辺機器を扱えるか
  • アクセルとブレーキの位置を正確に識別できるか
  • 素早い切り替えと急制動ができるか
  • 感覚低下がある側で踏み込み量を調整できるか
  • 痙縮、関節可動域制限、疼痛、疲労で操作が変わらないか
  • 装具や補助装置が乗降と操作へどう影響するか

ここでは、痙縮と拘縮を分けます。痙縮は速度依存性の筋緊張亢進、拘縮は関節周囲組織を含む可動域制限です。どちらもペダル操作へ影響し得ますが、評価と対応は同じではありません。

片手操作、旋回ノブ、左アクセルなどの装置を検討する場合も、装置を付ければ安全と決めません。制度上の条件、車両との適合、専門家による練習、実車での確認が必要です。装置による代償と、本人の運動機能の変化は分けて記録します。

臨床で使うならこう考える:五段階で仮説を検証します

段階1.運転の目的と実際の環境を聞きます

仕事で高速道路を毎日走る人と、昼間に近所の通院だけで使う人では、必要な課題が異なります。距離、時間帯、天候、交通量、同乗者、駐車、夜間、高速道路、知らない道の利用を確認します。

ただし、環境を限定すれば制度上の手続きが不要になるという意味ではありません。生活課題を具体化し、評価へつなげるための情報です。

段階2.問題点を観察し、原因候補へ順位をつけます

例えば、右折場面の見落としが想定されるなら、視野、視覚探索、分配性注意、頭部回旋、標識理解、焦り、疲労を候補にします。安全性への影響が大きい要素から確認します。

段階3.一つの条件を変えて結果を見ます

刺激数を減らす、提示時間を延ばす、探索方向の手がかりを加える、座位を調整する、休憩を入れるなど、一つの条件を変えます。複数の変更を同時に入れると、何が結果へ影響したか分からなくなります。

段階4.必要能力へ課題を合わせます

探索が課題なら左右へ注意を移すだけでなく、危険対象を見つけて反応を選ぶ課題へ進めます。足の切り替えが課題なら、単純反復だけでなく、視覚刺激に応じてアクセル相当動作を止め、ブレーキ相当動作へ切り替える条件を設定します。

段階5.専門評価と制度へつなぎます

机上課題やシミュレーターで所見を整理しても、実交通での能力を完全には再現できません。2016年のAHA/ASAガイドラインは、認知、知覚、身体、運動能力を評価し、運転へ戻る準備があると考えられる人には権限を持つ者による路上評価を推奨しています。文献7

2026年掲載のCanadian Stroke Best Practice Recommendationsも、視力、視野、視覚性注意、半側空間無視、筋力、可動域、協調性、反応時間、問題解決、判断速度、注意、衝動制御などを評価し、残存障害が運転へ影響する場合は地域制度に沿った包括的な路上評価を検討するよう推奨しています。文献8

これらは日本の免許制度を定める文書ではありません。臨床では多領域を評価し、日本では主治医と安全運転相談窓口、所管機関の手続きへつなぐという役割分担が重要です。

リハビリで設計すること:検査練習で終わらせません

運転再開を目標にする場合も、TMT-Bや抹消課題の点数だけを上げる練習に偏らないようにします。課題を生活と運転の構造へ近づけます。

1.視覚探索を判断と反応へつなげます

左右の対象を見つけるだけでなく、危険かどうかを判断し、進む、待つ、止まるの反応を選びます。正答数に加え、見落とした側、反応時間、誤反応、自己修正を記録します。

2.二重課題は難しくするためではなく、弱点を確かめるために使います

画面を見ながら音声指示へ反応する、進行方向を考えながら標識を探すなど、運転に近い情報の競合を作ります。最初から刺激を増やしすぎず、単一課題との差を確認します。

3.疲労と時間帯を評価へ入れます

午前と午後、開始直後と30分後、休憩前後で、速度、正確性、見落とし、本人の自覚を比較します。疲労が出たこと自体を失敗とせず、本人が気づき、中止や休憩を選べたかも見ます。

4.代償と本人側の変化を分けます

ミラーの追加、運転時間帯の限定、同乗者、経路固定、補助装置は環境や方法による代償です。同じ条件で探索範囲が広がる、判断時間が短くなる、少ない手がかりで正しく停止できる変化は本人側の能力変化として追います。

どちらも価値があります。しかし、代償がある状態でできたことを、障害がなくなったと表現しません。

運転再開支援を課題分析・条件変更・練習・再評価・専門評価へつなぐ図

シミュレーターを使えば運転へ戻れますか

初回発症の亜急性期脳卒中者83人を対象にした2005年の無作為化試験では、5週間、計15時間のシミュレーター訓練と運転関連認知課題を比較しました。両群で多くの視覚・神経心理学的評価や路上評価が変化し、群間差は道路標識認識などに限られました。6から9か月後の公式評価合格は、シミュレーター群73%、対照群42%でした。文献4

一見すると大きな差ですが、脱落が多く、自然経過の影響も除けないと著者らは述べています。また、対象者、装置、制度、比較課題が現在の日本の臨床と同じとは限りません。

2014年のCochraneレビューは4件の無作為化試験、計245人を検討しましたが、脳卒中後の路上運転技能を高めるリハビリテーションの効果を結論づけるには根拠が不十分でした。道路標識認識の変化は一研究に基づくものでした。文献5

シミュレーターは観察と練習の手段になり得ますが、実車評価や制度上の確認を置き換えるものではありません。

自宅や生活で気をつけること:運転しない期間の移動も設計します

運転を控えるよう説明されても、通院、買い物、仕事、家族の送迎が車に依存していると、本人は大きな喪失感を抱きます。「危ないから乗らないでください」だけでは、生活が成り立たず、自己判断の再開につながる場合があります。

確認する代替手段には、次があります。

  • 家族や知人の送迎を曜日と目的で整理する
  • 公共交通機関を実際の経路で練習する
  • タクシーや福祉交通の費用と利用条件を調べる
  • 通院先や買い物方法を変更する
  • 配送、オンライン手続き、訪問支援を利用する
  • 通勤や職務で運転が必要な場合は、職場と役割調整を相談する

代替交通を用いることは、運転能力の回復ではありません。しかし、運転できない期間も地域生活を続けるための重要な参加支援です。

家族には、口論の材料ではなく観察情報を集めてもらいます。急な疲労、標識の見落とし、左右確認、道迷い、車線位置、速度調整、ヒヤリハットを、いつ、どこで、どの条件で起きたか記録します。

変化を見るアウトカム:合否の前に過程を記録します

運転関連のリハビリでは、次の項目を同じ条件で追います。

  • 制度・医療:主治医確認、安全運転相談、必要書類、発作や意識症状
  • 視覚:見落とし数、左右差、探索時間、頭部運動、標識理解
  • 認知:反応時間、正答率、誤反応、切り替え、自己修正
  • 運動:乗降、姿勢、頸部回旋、ハンドル操作、ペダル切り替え
  • 持続:開始時と疲労後の差、休憩後の戻り方、自覚との一致
  • 行動:危険時に止まれるか、支援を求められるか、過信がないか
  • 実車:専門評価で観察された車線位置、確認、判断、操作
  • 生活:代替交通、通院、買い物、仕事、家族負担、参加範囲

「できたか」に加え、「どの条件で、どの誤りがあり、どの支援で変わったか」を残します。

同じ点数でも、急いで誤りが増える人、慎重すぎて判断が間に合わない人、誤りに気づけない人では、必要な対応が異なります。点数の変化だけでなく、失敗の質と安全行動を記録します。

論文からどこまで言えるか:スクリーニングと最終判断を分けます

現在の研究から、比較的共通して言えることは次です。

  • 脳卒中は視覚、認知、行動、運動など複数の運転関連能力へ影響し得ます
  • 病名だけで全員を同じ結論にはできません
  • 机上検査には路上評価で問題が出る可能性を見つける役割があります
  • 一つの認知検査だけで安全性を確定する根拠はありません
  • 残存障害が運転へ影響する場合は、制度に沿った包括的評価と実車評価が重要です
  • シミュレーターや認知訓練が全員の路上運転能力を高めるとは確定していません

一方、研究には、国ごとの免許制度、道路環境、車両、評価者、対象者の違いがあります。海外研究の合否率や閾値を、日本の一人の患者へそのまま当てはめることはできません。

エビデンスは「誰を詳しく評価するか」「何を見落とさないか」を決めるために使い、免許行政上の判断を代行するためには使いません。

ぱらゴリ的な見立て:運転は検査名ではなく課題の連鎖です

ぱらゴリ的に最も避けたいのは、「MMSEが高いから大丈夫」「麻痺があるから無理」「TMT-Bが遅いから不合格」と、評価前に結論を置くことです。

まず、運転という活動を、乗降、周囲確認、情報選択、判断、操作、誤り検出、疲労管理へ分けます。次に、問題の原因候補へ順位をつけます。一時的に刺激数、提示時間、姿勢、休憩、手がかりを変え、結果が変わるかを確かめます。そのうえで必要能力を分析し、課題を設定し、適切な難易度で反復し、同じアウトカムで再評価します。

ここで重要なのは、リハビリ室で成績が変わったこと、補助装置で操作できたこと、専門的な実車評価で安全性が確認されたこと、公安委員会による制度上の判断を混ぜないことです。どれも役割が異なります。

PT・OTの役割は免許の合否を宣言することではなく、運転に関係する能力と失敗条件を具体化し、適切な判断経路へつなぐことです。

最後にもう一度、要点を整理します

  • 運転再開を歩行自立、麻痺の軽さ、MMSEだけで判断しません
  • 制度・医学、視覚、認知、運動操作、実車場面の五層へ分けます
  • TMT-Bなどの机上検査はスクリーニングであり、単独の合否基準ではありません
  • 視野障害と半側空間無視、運動障害と感覚障害、代償と本人側の変化を分けます
  • シミュレーターでの変化を実車能力や免許判断と同一視しません
  • 発作、意識障害、新しい神経症状などは運転練習より医療評価を優先します
  • 日本では主治医と安全運転相談窓口へつなぎ、制度上の判断主体を明確にします
  • 運転できない期間の代替交通も、生活参加を支える重要な課題です

安全な運転再開へ必要なのは、一つの点数ではなく、危険が生じる条件を分け、評価・課題・専門判断を段階的につなぐことです。

参考文献

  1. Devos H, Akinwuntan AE, Nieuwboer A, et al. Screening for fitness to drive after stroke: a systematic review and meta-analysis. Neurology. 2011;76(8):747-756. PMID: 21339502. DOI: 10.1212/WNL.0b013e31820d6300.
  2. Hird MA, Vetivelu A, Saposnik G, Schweizer TA. Cognitive, on-road, and simulator-based driving assessment after stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2014;23(10):2654-2670. PMID: 25306401. DOI: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2014.06.010.
  3. Perrier MJ, Korner-Bitensky N, Mayo NE. Patient factors associated with return to driving poststroke: findings from a multicenter cohort study. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(6):868-873. PMID: 20510976. DOI: 10.1016/j.apmr.2010.03.009.
  4. Akinwuntan AE, De Weerdt W, Feys H, et al. Effect of simulator training on driving after stroke: a randomized controlled trial. Neurology. 2005;65(6):843-850. PMID: 16186521. DOI: 10.1212/01.wnl.0000171749.71919.fa.
  5. George S, Crotty M, Gelinas I, Devos H. Rehabilitation for improving automobile driving after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(2):CD008357. PMID: 24567028. DOI: 10.1002/14651858.CD008357.pub2.
  6. Hwang S, Song CS. Driving Rehabilitation for Stroke Patients: A Systematic Review with Meta-Analysis. Healthcare. 2023;11(11):1637. PMID: 37297777. DOI: 10.3390/healthcare11111637.
  7. Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47(6):e98-e169. PMID: 27145936. DOI: 10.1161/STR.0000000000000098.
  8. Yao JK, Salbach NM, Lindsay MP, et al. Canadian Stroke Best Practice Recommendations Rehabilitation, Recovery, and Community Participation Following Stroke, Part Three: Optimizing Activity and Community Participation Following Stroke, 7th Edition Update, 2025. Am J Phys Med Rehabil. 2026;105(3):238-252. PMID: 41258868. DOI: 10.1097/PHM.0000000000002845.
  9. 警察庁. 安全運転相談窓口について. https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/conferennce_out_line.html
  10. 警察庁. 運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について. https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/list2.html
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