脳卒中後の分回し歩行:足が外を回る原因を3つに分けて評価する【若手PT向け臨床推論】

歩行
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その分回し、「癖ですね」で流していませんか?

歩行練習を見ていて、麻痺側下肢が外側へぐるっと回る。

そこで先輩から「これ、なんで分回しになってると思う?」と聞かれると、一瞬止まりませんか。

「足が上がらないからです」

これも間違いではありません。でも、そこで終わると少しもったいないです。足が上がらないとして、膝が曲がらないのか、つま先が落ちるのか、骨盤で逃がしているのか。ここまで分けると、歩行の見え方が変わります。

分回しは、患者さんがつま先を引っかけないために選んでいるクリアランス確保の代償です。つまり、外に回していること自体を悪者にする前に、「なぜ外に回さないと足が通らないのか」を見る必要があります。

この記事では、脳卒中後の分回し歩行を「見た目の名前」で終わらせず、原因、評価、介入までつなげて整理します。

分回し歩行の全体像

結論から言うと

分回し歩行は、主に以下の3つが組み合わさって起こります。

  1. 膝関節屈曲が不足して、下腿が短くならない
  2. 足関節背屈が不足して、つま先が床に近づく
  3. 立脚側の支持が不安定で、骨盤を持ち上げて逃がす

大事なのは、分回しは原因ではなく結果だということです。

外側へ回る軌道だけを直そうとしても、膝が曲がらない、足が上がらない、骨盤が保てない条件が残っていれば、患者さんはまた別の形で逃がします。まずは遊脚期に必要な足部クリアランスを、どこで失っているかを分けて評価します。

原因1:膝関節屈曲が不足している

遊脚期に膝が曲がる理由は、足を短くして床から離すためです。正常歩行では、前遊脚期から初期遊脚期にかけて膝が屈曲し、足部が床に引っかからないように下肢全体の長さを調整します。

脳卒中後は、この膝屈曲が出にくくなることがあります。原因はひとつではありません。

  • 大腿四頭筋の過活動で膝が伸展方向へ引かれる
  • 足関節底屈が強く、前遊脚期の膝屈曲が出にくい
  • 股関節屈曲のタイミングが遅れ、下腿が前へ振り出されない
  • 共同運動パターンで股関節外転、膝伸展、足関節底屈がセットで出る

ここで「膝が曲がらないからハムストリングスを鍛える」と単純化するとズレます。膝屈曲不足の背景に、伸筋群の過活動や足関節の条件がある場合、膝だけ練習しても歩行中の軌道は変わりにくいです。

評価では、歩行中の初期遊脚で膝屈曲が出ているかを見ます。可能なら動画を横から撮り、麻痺側つま先離地の直後に膝が曲がるかを確認します。

膝屈曲不足と分回しの関係

原因2:足関節背屈が不足している

分回し歩行で見落とされやすいのが足関節です。

足関節背屈が不足すると、遊脚期につま先が下がります。つま先が下がると床に引っかかる危険があるため、患者さんは脚を外へ回す、骨盤を持ち上げる、体幹を非麻痺側へ倒すなどの代償で床との距離を稼ぎます。

この場合、分回しの中心は股関節ではなく、足部クリアランス不足への逃げ道です。

評価では以下を見ます。

  • 足関節背屈の随意運動があるか
  • 遊脚期に足尖が下がっていないか
  • 後脛骨筋や下腿三頭筋の痙縮が内反尖足を作っていないか
  • AFOやテーピングで背屈を補助したとき、分回しが減るか

特に最後が大事です。装具やテーピングは「使うか使わないか」の判断だけではなく、原因を仮に取り除く評価にも使えます。背屈条件を一時的に整えて分回しが減るなら、足関節の影響はかなり大きいと考えられます。

原因3:立脚側の支持が不安定

麻痺側を振り出すとき、反対側の立脚が安定していないと、骨盤のコントロールが崩れます。すると患者さんは、麻痺側の骨盤を持ち上げたり、体幹を非麻痺側へ倒したりして、無理やり足を通そうとします。

ここが少しややこしいところです。歩行を見ていると「麻痺側の振り出しが悪い」ように見えますが、実際には非麻痺側立脚の支持性が足りないことが、麻痺側の分回しを強めている場合があります。

評価では、麻痺側を振り出している瞬間だけでなく、非麻痺側立脚中の骨盤と体幹を見ます。

  • 非麻痺側立脚で骨盤が横へ逃げていないか
  • 体幹が非麻痺側へ倒れていないか
  • 麻痺側骨盤を持ち上げて足を通していないか
  • 立脚側の股関節外転筋が保てているか

分回しを見たら、振り出す脚だけを見ない。これ、かなり大事です。

分回し歩行の評価フロー

装具で何を確認するか

AFOは分回し歩行を考えるうえで、かなり使える評価ツールです。

ただし、「AFOをつければ解決」と考えるのは早いです。AFOで背屈を補助して分回しが減るなら、足関節の影響は大きいです。一方で、AFOをつけても分回しが残るなら、膝屈曲不足、股関節屈曲のタイミング、立脚側支持、共同運動パターンを追加で見る必要があります。

つまり装具は、補助具であると同時に仮説検証の道具です。

臨床では、以下のように見ます。

条件 解釈の方向
AFOで分回しが大きく減る 足関節背屈不足や内反尖足の影響が強い
AFOで足尖は上がるが分回しが残る 膝屈曲不足や骨盤代償を疑う
AFOで歩きにくくなる 底屈制限が推進力や膝の動きを邪魔している可能性

装具の評価では、足が上がるかだけでなく、膝、骨盤、歩幅、速度、疲労感まで確認します。

介入は「外へ回すな」ではなく「外へ回さなくてよい条件」を作る

分回し歩行に対して、「まっすぐ出してください」と言いたくなる場面はあります。でも、条件がそろっていない状態でまっすぐ出させると、つま先が引っかかるか、過剰努力で共同運動が強くなることがあります。

介入の順番はこうです。

  1. まず足部クリアランスを邪魔している要素を分ける
  2. 一時的に装具、テーピング、介助で条件を整える
  3. その条件下でまっすぐ振り出す練習をする
  4. 少しずつ補助を減らして再評価する

課題例としては、低い障害物またぎ、マーカーへのステップ、ゆっくりしたトレッドミル歩行、短距離反復歩行が使いやすいです。ただし、障害物を高くしすぎると分回しを強めることがあります。最初は「成功できる低さ」から始めます。

よくある誤解:「分回しは悪い歩き方だから直す」

分回しは望ましい歩行パターンではありません。ただ、患者さんにとっては転ばないための戦略です。

ここを間違えると、代償をただ消そうとしてしまいます。代償を消すには、その代償が必要だった理由を減らす必要があります。

足が引っかかる条件が残っているのに「外に回さないで」と言われたら、患者さんからすれば怖いだけです。臨床では、代償を責めるのではなく、代償が要らない条件を作るという考え方が必要です。

文献から見えること

Stanhopeらは、脳卒中後の歩行における骨盤挙上や分回しのような前額面上の代償が、足部クリアランスと歩行速度に関連することを報告しています。Awadらのソフトロボットを用いた研究では、麻痺側下肢への補助により骨盤挙上と分回しが即時的に減少し、特に膝屈曲の変化が骨盤挙上の変化と関連していました。

ここから言えるのは、分回しは固定された癖ではなく、条件を変えると変化しうる運動戦略だということです。ただし、ロボット補助の結果をそのまま通常臨床へ一般化するには限界があります。臨床では、装具、介助、速度調整、課題設定を使って同じように仮説検証していきます。

結局、分回し歩行は何だったのか

分回し歩行は、ただの悪い歩き方ではありません。患者さんが転ばないように、足を引っかけないように選んでいる代償戦略です。

結局のところ、見るべき問いはこれです。

「外を回っている」のではなく、「外を回さないと足が通らない条件がある」

評価で見るべきは、膝屈曲、足関節背屈、立脚側支持の3つです。そこを分ければ、介入はかなり整理されます。

ここまで読めた時点で、もう「分回しですね」で終わる見方から一歩抜けています。歩行観察は、最初から全部わからなくて大丈夫です。まずは次の臨床で、外へ回る脚を見たときに「膝、足首、支持のどれだろう」と一つ問いを増やしてみてください。それだけで、歩行を見る目はちゃんと育っています。

分回し歩行の介入選択まとめ

参考文献

  1. Stanhope VA, Knarr BA, Reisman DS, Higginson JS. Frontal plane compensatory strategies associated with self-selected walking speed in individuals post-stroke. Clinical Biomechanics. 2014;29(5):518-522. doi:10.1016/j.clinbiomech.2014.03.013
  2. Awad LN, Bae J, Kudzia P, et al. Reducing Circumduction and Hip Hiking During Hemiparetic Walking Through Targeted Assistance of the Paretic Limb Using a Soft Robotic Exosuit. American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation. 2017;96(10 Suppl 1):S157-S164. doi:10.1097/PHM.0000000000000800
  3. Beyaert C, Vasa R, Frykberg GE. Gait post-stroke: Pathophysiology and rehabilitation strategies. Neurophysiologie Clinique. 2015;45(4-5):335-355. doi:10.1016/j.neucli.2015.09.005
  4. Kerrigan DC, Frates EP, Rogan S, Riley PO. Hip hiking and circumduction: quantitative definitions. American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation. 2000;79(3):247-252.
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