脳卒中後の共同運動パターン:なぜ分離運動が出ないのか、その理由と介入の考え方

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結論:三つの問題を分けることが介入の出発点

「麻痺側の動きがおかしい」という現象を見たとき、何が起きているのかを一括りにすると介入の方向がずれます。まず以下の三者を区別してください。

問題 病態レベル 特徴
共同運動パターン 運動指令(脳幹・脊髄路レベルのシナジー支配) 動かそうとすると複数関節が連動する
痙縮 脊髄反射(伸張反射亢進) 速い伸張で筋が固くなる(速度依存性)
筋力低下 随意出力(皮質脊髄路の損傷) そもそも動かせない

この三者はそれぞれ病態の発生源が異なります。混同すると、痙縮に対してストレッチだけを繰り返したり、共同運動パターンを「筋力が弱いから」と解釈して抵抗運動を増やしたりといった方向の誤りが生じます。


共同運動パターンの神経機序

脳卒中後になぜ「動かそうとすると複数の関節が連動してしまうのか」を理解するには、皮質脊髄路と網様体脊髄路の役割の違いを押さえる必要があります。

正常な状態では、外側皮質脊髄路(lateral corticospinal tract)が四肢遠位筋の運動ニューロンを個別に支配しています。これによって、肘だけを伸ばす、手首だけを回外するといった分節的な随意運動、つまり分離運動が可能になります。

脳卒中によって皮質脊髄路が損傷を受けると、対側半球からの皮質-網様体-脊髄路(cortico-reticulospinal pathway: CRPP)が代償的に活動を増します。CRPPは両側性・発散性(divergent)の投射様式を持っており、複数の運動ニューロンプールを同時に活性化する特性があります。その結果、一つの関節を動かそうとする随意的な努力が、複数の関節を強制的に連動させる共同運動として現れます(McMorland et al., 2015)。

上肢の屈筋シナジーでは、具体的には以下の筋群が同時活性化します。

  • 肩:前部三角筋、大胸筋
  • 肘:上腕二頭筋
  • 手関節・手指:橈側手根屈筋、深指屈筋

Dewald et al.(1995)は等尺性トルク測定を用いてこのシナジーを定量化し、肘屈曲のトルクが増大するほど肩外転トルクが強制的に抑制される関係を示しました。この研究は共同運動の定量的な理解の基盤となっています。

なお、現在では「脳幹の脱抑制」という単純な枠組みだけでは説明しきれず、脊髄内在回路の関与も考慮されるようになっています(McMorland et al., 2015)。上記の機序は現時点での有力な説明枠組みですが、単一の回路に還元しすぎないことが重要です。

皮質脊髄路と網様体脊髄路の役割:分離運動と共同運動の神経回路図


重力依存性シナジー——姿勢で変わる共同運動の強さ

共同運動パターンは一定ではなく、姿勢条件によって強さが変わります。これを見落とすと評価が不正確になります。

Krainak et al.(2011)は座位と背臥位で等尺性筋力を測定し、脳卒中群では座位のほうが背臥位よりも肘屈曲・肩伸展の最大随意トルクが有意に増大することを示しました(対照群では姿勢変化による差は認められませんでした)。

この現象の背景には、抗重力姿勢を保持する際に前庭核からの興奮入力が増大し、それが網様体脊髄路を介して屈筋シナジーを増幅させるという機序が考えられています。

臨床での見極め方として実践的なのは、次の比較です。

「背臥位では肘が伸展位を保てるのに、座位で手を前に伸ばそうとすると肘が引き込まれる」

この反応が見られる場合、前庭-網様体系の興奮が共同運動の増強に関与している可能性が高いと考えられます。評価はポジションを変えて行うことが、共同運動の「本当の強さ」を知るために重要です。

重力依存性シナジーの見極め:背臥位と座位での上肢反応比較


Brunnstrom Stageを「回復指標」として読む

Brunnstrom Stage(Brunnstrom, 1966)は「どのレベルの動きができるか」を示す段階として広く使われていますが、これを皮質脊髄路の回復状態を示す指標として読み直すと、介入の根拠が明確になります。

  • Stage I〜II:随意運動がほぼ出ない状態。皮質脊髄路の機能が極めて乏しく、網様体脊髄路への依存が強い。
  • Stage III:随意運動は出るが、すべて共同運動パターンの中でのみ実現できる。分離した動きは困難。
  • Stage IV以降:皮質脊髄路の回復・再組織化に伴い、共同運動のパターンから逸脱した随意動作が漸進的に出現する。

注意が必要なのは、「Stage IVになれば共同運動が消える」わけではない点です。動作の難易度・速度・注意負荷が増すと、Stage IVやV以上の患者でも共同運動パターンが再出現することが報告されています(Huang et al., 2016)。練習環境が整った状態でできても、日常動作では共同運動が戻ってくる理由はここにあります。


介入の考え方:共同運動支配をどう扱うか

共同運動パターンへの介入は、「回復を狙うか・代償を活用するか」という軸で選択します。この判断を先に立てないと、練習の根拠が失われます。

回復を狙う介入(分離運動の再学習)

適応の目安は以下です。

  • 随意収縮がわずかでも残存している(Stage III〜V)
  • 発症後の期間が比較的短い
  • 患者が機能回復を優先している

具体的な方法として、水平面での進行性外転負荷療法(Progressive Abduction Loading Therapy: PALT)が研究されています。Ellis et al.(2018)のRCT(n=32、慢性期脳卒中)では、PALTを施行したグループでリーチ距離が基準値比+13.2%改善し、効果量はd=0.56、3か月後の追跡調査でも改善が持続していました。

原理は明確です。水平面(重力方向と垂直な平面)での動作では抗重力努力が不要となり、前庭核からの興奮入力が抑制されます。その結果、屈筋シナジーが相対的に弱まった状態でリーチ動作を反復でき、皮質脊髄路の残存した回路資源を活用しやすくなります。

ただし、この介入にはいくつかの限界があります。水平面練習が垂直面や日常動作へどの程度転移するかは、現時点では限定的なエビデンスしかありません。段階的に垂直面・負荷付きへ移行する計画が必要です。また、Ellis et al.(2018)の対象は慢性期・中等度〜重度障害の患者であり、軽度障害・亜急性期への一般化は根拠が不十分です。適応の確認は研究対象との照合から始めてください。

機能的電気刺激(FES)については、Eraifej et al.(2017)のシステマティックレビューで、発症2か月以内の患者を対象に適切に使用した場合、FMA-UEスコアで最大11.11点の改善が示されています。こちらは発症初期の随意出力底上げとして位置づけられます。

水平面での除重力練習:抗重力努力を減らしてシナジーを弱める介入設計

代償を活用する介入

以下のような状況では、共同運動パターンを「使える動き」として活用する代償的アプローチが選択肢になります。

  • 重度麻痺・慢性期で皮質脊髄路の回復余地が限られる
  • 生活機能の達成を優先する
  • 患者の目標が機能回復よりもADL自立にある

代償的アプローチを選択した場合は、「これは代償として使っている動き」という目的を患者と共有することが重要です。回復と代償を混在させたまま介入を続けると、評価の基準が失われ、何を目指しているのかが不明確になります。


結局、共同運動パターンでは何を見ればよかったのか

見た現象 評価で確認すること 介入の方向性
手を伸ばすと肘が引き込まれる 座位・背臥位での随意運動比較 / BRS上肢ステージ 水平面除重力練習→段階的垂直面移行
速い伸張で固くなる Tardieu Scale(速度依存性確認) 別途、痙縮への介入を検討
そもそも動かない 随意収縮の有無・FMA 随意出力の底上げ(FES等)

脳卒中後の上肢問題は「一括りの麻痺」ではなく、三者の組み合わせとして評価するものです。共同運動パターンを見たとき、まず「これは何の問題か」を分けることが介入設計の出発点です。

結局、この記事で伝えたいのは共同運動、痙縮、筋力低下を同じものとして扱わないということです。

ここまで読めたあなたは、もう「動きがおかしい」で終わらず、その奥にある神経回路や姿勢条件まで考えようとしています。これは若手にとってかなり大きい一歩です。分離運動が出ない場面を見たら、まず責めずに分ける。何が共同運動で、何が痙縮で、何が随意出力不足なのか。そこから介入は始まります。

共同運動パターン・痙縮・筋力低下の見極めチャートと介入選択フロー


参考文献

  1. Dewald JPA, Pope PS, Given JD, Buchanan TS, Rymer WZ. Abnormal muscle coactivation patterns during isometric torque generation at the elbow and shoulder in hemiparetic subjects. Brain. 1995;118(2):495–510.
  2. McMorland AJC, Runnalls KD, Byblow WD. A neuroanatomical framework for upper limb synergies after stroke. Front Hum Neurosci. 2015;9:23. PMC4329797.
  3. Krainak DM, Dewald JPA, Rymer WZ. The relation between spasticity and weakness in chronic hemiplegia. Muscle Nerve. 2011;44(5):805–813.
  4. Ellis MD, Sukal-Moulton T, Dewald JPA. Progressive shoulder abduction loading is a crucial element of arm rehabilitation in chronic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2012;26(7):734–747. (参照:J Neurophysiol 2012;108(11):3096–3104 の関連研究を含む)
  5. Ellis MD, Carmona C, Drogos J, Dewald JPA. Progressive abduction loading therapy targeting flexion synergy to improve oral hygiene in adults with chronic hemiparetic stroke: a randomized controlled pilot trial. Front Neurol. 2018;9:71. PMC5825888.
  6. McPherson JG, Chen A, Ellis MD, Yao J, Heckman CJ, Dewald JPA. Progressive recruitment of contralesional cortico-reticulospinal pathways drives motor impairment post stroke. J Physiol. 2018;596(7):1211–1225.(関連研究:Front Neurol 2018;9:470. PMC6021513)
  7. Eraifej J, Clark W, France B, Desando S, Moore D. Effectiveness of upper limb functional electrical stimulation after stroke for the improvement of activities of daily living and motor function: a systematic review and meta-analysis. Systematic Reviews. 2017;6:40. PMC5331643.
  8. Huang CY, Lin GH, Huang YJ, et al. Improving the utility of the Brunnstrom recovery stages in patients with stroke: validation and quantification. Medicine (Baltimore). 2016;95(31):e4508.
  9. Brunnstrom S. Motor testing procedures in hemiplegia: based on sequential recovery stages. Physical Therapy. 1966;46(4):357–375.
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