脳卒中後の感覚障害:足底感覚・位置覚・荷重感を分けて見る歩行評価【若手PT・OT向け】

脳機能
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「筋力はあるのに乗れない」とき、感覚を見ていますか?

脳卒中後の歩行を見ていて、膝も伸びる。股関節も動く。足関節も少し背屈できる。

それなのに、麻痺側へ乗ると急に不安定になる。足を置いた瞬間に体が逃げる。本人に聞くと「床についている感じが分かりにくい」と言う。

この場面で、筋力低下や痙縮だけを見ていると、評価が少しずれます。

感覚障害は、見た目には派手ではありません。動画で見ると「なんとなく怖がっている」「麻痺側を避けている」ように見えることもあります。でも実際には、足が床に触れた情報、関節がどの向きにあるかの情報、どれくらい体重が乗ったかの情報が入りにくくなっていることがあります。

ここを見落とすと、リハビリは「もっと乗ってください」「もっと踏んでください」の声かけに寄りやすくなります。けれど本人からすれば、床の情報がぼんやりした状態で体重を預けるわけです。怖いですし、非麻痺側へ逃げたくなるのも自然です。

この記事では、脳卒中後の感覚障害を、若手PT・OTが臨床で使いやすいように整理します。

感覚障害は歩行の土台を揺らす

結論!感覚障害は「感じにくい」で終わらせない

結論から言うと、脳卒中後の感覚障害は、触覚、位置覚、荷重感、視覚代償を分けて評価することが大事です。

「感覚が鈍いですね」で止めると、介入がぼやけます。

  • 足底が床に触れたことが分かりにくいのか
  • 足関節や膝がどの角度にあるか分かりにくいのか
  • 麻痺側へどれくらい体重が乗ったか分かりにくいのか
  • 視覚で補っているから、見えない条件で崩れるのか

ここを分けると、歩行練習の作り方が変わります。

足底感覚が弱い人には、接地の質を分かりやすくする課題が必要です。位置覚が弱い人には、関節角度を確認しながら動く課題が必要です。荷重感が弱い人には、体重計や鏡などで「どれくらい乗ったか」を見える形にしてから、視覚に頼りすぎない方向へ進めます。

ぱらゴリ的に言うと、感覚障害は「感覚入力の問題」だけではありません。歩行中にその情報を使えているかまで見て、はじめて臨床で使える評価になります。

なぜ感覚が悪いと歩行が崩れるのか

歩行は、筋力だけで成立しているわけではありません。

足底が床に触れた情報、関節の角度、筋や腱の伸び、体重移動の方向。こうした情報が脳へ戻ることで、次の一歩の出し方や姿勢の調整が決まります。

たとえば麻痺側足底の触覚が低下していると、足が床についた瞬間の情報が入りにくくなります。すると、本人は「乗ってよいのか」「足がどこにあるのか」を判断しにくくなります。

位置覚が低下している場合は、足関節が内反方向に倒れていること、膝が伸び切っていること、股関節が外旋していることに気づきにくくなります。見た目には反張膝や内反、分回し歩行として出ることもありますが、その背景に感覚の弱さが混ざっていることがあります。

荷重感が弱い場合は、麻痺側へ体重を移しているつもりでも、実際には非麻痺側へ多く残っていることがあります。本人は「乗っている」と感じている。けれど体重計や床反力に近い情報で見ると、左右差が大きい。このズレが臨床ではけっこうあります。

見た目の問題が筋力低下に見えても、実は感覚情報を使えないことで動作が崩れていることがあります。

臨床でよくある勘違い:「怖がっているだけ」

麻痺側へ乗れない人を見ると、「怖さが強いですね」と言われることがあります。

もちろん恐怖心は関係します。ただ、その怖さがどこから来ているかを見ないと、介入が浅くなります。

床についている感じが薄い。足首の向きが分からない。膝がどこまで伸びているか分からない。自分では真っすぐ立っているつもりでも、実際には体が非麻痺側へ寄っている。

こういう状態なら、怖さは単なる心理反応ではなく、感覚情報の不足に対する合理的な反応です。

ここで「勇気を出して乗ってください」と言っても、本人の中では情報が足りません。臨床で必要なのは、気合いではなく、感覚情報を使いやすい条件を作ることです。

評価ではここを分ける

感覚評価は、机上で軽く触って終わりにしない方がいいです。触覚、位置覚、荷重感、動作中の使い方を分けます。

感覚評価は3条件で分ける

見る項目 評価の例 臨床での意味
足底触覚 綿花、綿棒、軽い圧で左右差を見る 接地した情報が入るか
二点識別 足底のどこを触られたか分ける 接地位置を細かく感じ取れるか
位置覚 足趾、足関節、膝を動かして方向を答える 関節の向きを把握できるか
荷重感 体重計、立位荷重、左右差の自己認識 どれくらい乗ったか分かるか
動作中の利用 立ち上がり、ステップ、歩行で確認 感覚を課題に使えているか

特に大事なのは、見えている条件と見えていない条件を比べることです。

足元を見れば足を置ける。でも前を向くと不安定になる。鏡があれば真っすぐ立てる。でも鏡を外すと非麻痺側へ寄る。こういう場合、視覚でかなり補っている可能性があります。

視覚代償は悪いものではありません。安全に動くためには必要なこともあります。ただ、視覚に頼り切ったまま歩行へ進むと、屋外、暗い場所、人混み、段差で崩れやすくなります。

臨床で使うならこう考える

Activeで多く確認している視点として、感覚障害は「入力があるか」だけでなく、入力を動作の判断に使えているかまで見ます。

たとえば足底を触られて分かる人でも、立位になると麻痺側へ乗った量を感じ取りにくいことがあります。逆に、触覚は鈍くても、関節位置や荷重の変化はある程度使える人もいます。

つまり、感覚障害の評価は一枚岩ではありません。

  1. 静的な触覚が分かるか
  2. 関節の動きが分かるか
  3. 立位で荷重の変化が分かるか
  4. 歩行中に情報を使えるか

この順番で見ていくと、介入の入り口が見つかりやすくなります。

リハビリで設計すること

感覚障害へのリハビリは、触る練習だけで終わらせないことが大切です。

もちろん、足底に触れる、素材の違いを感じる、位置を当てる、左右差を比べるといった練習には意味があります。ただし、歩行で困っているなら、最終的には歩行や立位の中でその情報を使う必要があります。

感覚入力は課題の中で使う

課題設計の例です。

  • 足底を見ずに、踵、母趾球、小趾球の接地を確認する
  • 体重計を左右に置いて、麻痺側荷重量を本人の感覚と照合する
  • 平行棒内で小さなステップを行い、足底接地と膝の向きを確認する
  • 鏡ありから鏡なしへ移行し、視覚依存を少しずつ減らす
  • 段差や方向転換では、足の位置を言語化してから動く

ここで注意したいのは、難易度を急に上げないことです。感覚情報が不確かな状態で課題を複雑にすると、本人は視覚や非麻痺側支持に頼ります。その結果、感覚を使う練習ではなく、代償を強める練習になってしまうことがあります。

感覚練習は、正しく感じる練習ではなく、動作の中で情報を使う練習です。

自宅や生活で気をつけること

感覚障害がある人は、室内環境でつまずきやすくなることがあります。

特に注意したいのは、夜間、スリッパ、柔らかいマット、段差、浴室です。足底からの情報が入りにくい状態で、床面が不安定になると、姿勢調整が遅れやすくなります。

生活上の工夫としては、まず安全を優先します。

  • 滑りやすい敷物を減らす
  • 夜間の動線に照明を置く
  • スリッパではなく、足部が安定しやすい履物を検討する
  • 段差では足元を確認する
  • 疲れている時間帯は歩行距離や速度を調整する

ただし、全部を避けるだけでは生活範囲が狭くなります。安全を確保したうえで、どの条件なら感覚情報を使って動けるかを見つけることが大事です。

変化を見るアウトカム

感覚障害の記事で意外と抜けやすいのが、アウトカムです。

「感覚がよくなった気がする」だけでは、臨床判断として弱くなります。感覚そのものと、動作の変化を分けて見ます。

アウトカム 見たい変化
触覚・位置覚検査 左右差、正答率、再現性
立位荷重量 麻痺側荷重の量と本人の認識のズレ
Berg Balance Scale バランス課題の変化
10m歩行テスト 速度だけでなく足部接地の安定性
Timed Up and Go 立ち上がり、方向転換、着座の安定性
転倒・つまずき記録 生活場面での安全性

ここで大事なのは、感覚検査の数値だけで判断しないことです。感覚検査が少し変化しても、歩行中に使えなければ生活上の意味は限定的です。逆に感覚検査の変化が小さくても、視覚、課題設定、環境調整によって動作の安定性が変わることもあります。

論文からどこまで言えるか

Tysonらは、脳卒中後の感覚障害が機能やバランスと関連することを報告しています。ここから言えるのは、感覚障害は「ついでに見る項目」ではなく、移動やADLに関係する評価項目として扱う必要があるということです。

CareyらのSENSe研究では、感覚識別を中心としたリハビリが、感覚機能や上肢機能に対して有益な可能性を示しています。ただし、この結果をそのまま下肢や歩行へ単純に当てはめるのは慎重であるべきです。重要なのは、感覚を識別する練習を、課題の中で使う方向へつなげる考え方です。

Serradaらのシステマティックレビューでは、脳卒中後の感覚再教育が感覚機能や感覚運動機能に影響する可能性が示されています。一方で、研究ごとの介入内容や対象者にはばらつきがあります。臨床では、対象者の感覚障害の種類を分けて、課題設計と再評価を行うことが必要です。

Activeではこう見立てる

Activeで感覚障害を見るときは、まず「麻痺側へ乗れない」という結果から入りません。

どこで情報が抜けているのかを見ます。

  • 足が床についた瞬間なのか
  • 膝や足関節の角度なのか
  • 麻痺側へ体重が移った量なのか
  • 前を向いた瞬間なのか
  • 疲労が出た後なのか

この分け方をすると、リハビリはかなり具体的になります。

たとえば、足底感覚の問題が強いなら、接地面をはっきりさせた課題から始めます。位置覚の問題が強いなら、足関節と膝の向きを視覚、言語、触覚で照合します。荷重感の問題が強いなら、体重計や鏡で本人の感覚と実際の荷重量をすり合わせます。

そして最後は、必ず歩行や生活動作で再確認します。

最後にもう一度、要点を整理する

脳卒中後の感覚障害は、「感じにくいですね」で終わるテーマではありません。

足底感覚、位置覚、荷重感、視覚代償を分けて見ることで、歩行や立位の崩れ方が整理しやすくなります。

この記事で一番持って帰ってほしいのは、これです。

麻痺側に乗れない人ほど、筋力だけでなく感覚情報を使えているかを見る。

ここまで読めたあなたは、もう「感覚低下あり」で評価を終わらせる側には戻りにくいはずです。明日の臨床で全部を完璧に見なくても大丈夫です。まずは、足底感覚、位置覚、荷重感のどれが一番動作に影響していそうかを一つだけ分けてみてください。その一手が、歩行の見方をかなり変えてくれます。

参考文献

  1. Tyson SF, Hanley M, Chillala J, Selley A, Tallis RC. Sensory loss in hospital-admitted people with stroke: characteristics, associated factors, and relationship with function. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2008;22(2):166-172. doi:10.1177/1545968307305523
  2. Carey LM, Macdonell RAL, Matyas TA. SENSe: Study of the effectiveness of neurorehabilitation on sensation: a randomized controlled trial. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2011;25(4):304-313.
  3. Serrada I, Hordacre B, Hillier SL. Does sensory retraining improve sensation and sensorimotor function following stroke: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neuroscience. 2019;13:402. doi:10.3389/fnins.2019.00402
  4. Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47(6):e98-e169. doi:10.1161/STR.0000000000000098
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