脳卒中後の膝折れ:3つの原因と評価の考え方【若手PT向け臨床推論】

歩行
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脳卒中後の膝折れ、なんとなく介入していませんか?

臨床でよく見る場面があります。

立脚中期に膝がガクッと崩れる。FIMの移動項目が上がらない。「膝折れがあるから歩けない」と記録にだけ書かれていて、なぜ折れるのかが整理されていない。

膝折れは原因が3つに分かれます。それぞれ介入は違います。まとめて「大腿四頭筋を鍛える」で対応していると、改善しない原因を作ることにもなります。

この記事では、脳卒中後の膝折れを病態レベルで整理し、評価から介入の考え方まで解説します。


結論から言うと

脳卒中後の膝折れは、以下3つのメカニズムのどれか、または組み合わせで起きています。

  1. 大腿四頭筋の筋力低下(立脚期の膝伸展保持が困難)
  2. 固有感覚障害(膝関節の位置覚・荷重感覚の低下)
  3. 近位筋の問題(股関節外転筋・体幹による重心制御の失敗)

評価なしに介入を決めると、原因と異なるアプローチになります。まず「どれが主因か」を見極めることが出発点です。

膝折れの3つの原因:概要インフォグラフィック


膝折れとは何か:歩行周期の中で整理する

膝折れは立脚期、特に立脚中期(Mid stance)から立脚後期(Terminal stance)にかけて膝関節が屈曲方向に崩れる現象です。

正常歩行では、立脚中期の膝関節屈曲角度は約0〜5°に保たれます。大腿四頭筋の遠心性収縮がこれを支えており、同時に足底からの感覚フィードバックと股関節周囲筋による重心制御が協調しています。

脳卒中後はこの協調が崩れます。問題はどこで崩れているかです。


原因1:大腿四頭筋の筋力低下

最も基本的な原因です。錐体路障害による上位運動ニューロン障害が下位運動ニューロンへの出力を減少させ、特に内側広筋・中間広筋の選択的な筋力低下が生じやすいとされています。

MMT3以下では立脚中期の膝伸展保持が困難になり、膝折れが生じます。

評価のポイント:
– 座位での膝伸展MMT(重力に抗えるか)
– 片脚立位・片脚スクワットでの膝折れ閾値
– 歩行中の膝屈曲角度の観察(立脚中期に10°以上屈曲していれば要注意)

介入の方向性:
– クローズドキネティックチェーン(CKC)での膝伸展課題
– 荷重量を段階的に上げるスクワット系トレーニング
– 必要に応じてFES(大腿四頭筋)との組み合わせ

大腿四頭筋筋力低下の評価と介入


原因2:固有感覚障害

見落とされやすい原因です。

膝関節の位置覚・荷重感覚が低下していると、たとえ筋力があっても立脚期に適切な筋出力タイミングが得られません。「力はあるのに折れる」という場面の多くはこれが関与しています。

頭頂葉〜体性感覚野の障害により、麻痺側下肢からの感覚入力が正確に処理されなくなります。結果として、膝関節が屈曲方向にずれ始めても筋収縮が遅れる、あるいは過剰な代償(膝を過伸展させる反張膝)が出現することがあります。

評価のポイント:
– 閉眼での膝関節位置覚テスト(非麻痺側との左右差)
– 片脚立位時の動揺の観察(視覚遮断で著明に増悪するか)
– 立脚期における膝折れの「突然さ」(予測できない崩れ方は固有感覚関与を疑う)

介入の方向性:
– 感覚入力の増強(振動刺激・テーピング・インソール)
– 視覚・前庭へのフィードバックを活用した荷重練習
– 二重課題(認知)を加えた立位バランス練習

固有感覚障害が引き起こす膝折れ


原因3:近位筋・重心制御の問題

股関節外転筋(中殿筋)の筋力低下や体幹の不安定性があると、立脚期に重心が麻痺側に適切に乗らず、膝関節に偏った負荷がかかります。

中殿筋が機能しない場合、Trendelenburg徴候が出現し、骨盤が非麻痺側に傾くことで麻痺側膝に外反・屈曲ストレスがかかります。これが膝折れとして観察されることがあります。

また体幹の側屈代償(麻痺側への体幹傾斜)も同様のメカニズムで膝に負荷を集中させます。

評価のポイント:
– 片脚立位での骨盤水平保持能力
– 立脚期の体幹側屈観察(前額面)
– 股関節外転MMT(側臥位、非荷重)

介入の方向性:
– 中殿筋の選択的筋力増強(クラムシェル・サイドステップ)
– 重心移動練習(麻痺側への荷重移行)
– 歩行での骨盤水平保持を意識した課題設定

近位筋・重心制御の問題と評価


よくある誤解:「膝折れ=大腿四頭筋を鍛えればいい」

この思い込みが介入を停滞させます。

固有感覚障害が主因の場合、筋力トレーニングだけでは改善しません。むしろ高負荷の筋力課題を反復することで、感覚フィードバックが乏しいまま「力まかせ」の動作パターンが強化される可能性があります。

また近位筋の問題が主因の場合、膝に着目した介入では根本にアクセスできません。

反張膝との混同にも注意が必要です。反張膝は膝が過伸展方向に崩れる現象で、大腿四頭筋の痙縮性過活動や下腿三頭筋の痙縮が関与していることが多く、膝折れとは病態が異なります。観察上「膝が不安定」という点は共通しますが、介入方針は逆になることもあるため、必ず区別してください。

評価で原因を分けることが、介入の出発点です。


まとめ:評価なしに介入を決めない

膝折れ評価チャート:3原因の見極めフロー

脳卒中後の膝折れを整理すると:

原因 主なメカニズム 評価の核心
大腿四頭筋筋力低下 立脚期の膝伸展保持不全 MMT・CKCでの膝折れ閾値
固有感覚障害 膝関節位置覚・荷重感覚の低下 位置覚テスト・視覚遮断での変化
近位筋・重心制御 骨盤・体幹の不安定による膝への偏荷重 骨盤水平保持・中殿筋MMT

「なぜ折れるか」を評価で明らかにしてから介入を設計する。これがパターン練習から抜け出すための出発点です。


参考文献

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