脳卒中後の痙縮と拘縮:見極めを間違えると介入が逆効果になる【若手PT向け臨床推論】

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「固い」と感じたとき、何が固いのかを問えているか

患者の関節を動かしたとき、「固い」と感じる。その先に何を考えるかで、介入の質は大きく変わります。

痙縮なのか。拘縮なのか。あるいは両方が重なっているのか。

この見極めを誤ると、ストレッチをすべき場面でボツリヌス療法を検討したり、筋緊張を下げることに終始して本来必要な筋力強化を見落としたりします。この記事では、痙縮と拘縮の病態の違いから、評価の手順と介入の方向性を整理します。


結論から言うと

痙縮と拘縮は原因も介入も異なります。

  • 痙縮:伸張反射の亢進による速度依存性の筋緊張増加。中枢性。
  • 拘縮:関節・筋・軟部組織の短縮・線維化による可動域制限。末梢性。
  • 混在:脳卒中後は両方が同時に存在することが多い。

「固い」を一つの原因に帰属させず、それぞれの割合を評価で分けることが介入設計の起点です。

痙縮と拘縮の概念図:中枢性と末梢性の違い


痙縮とは何か

痙縮(spasticity)は、上位運動ニューロン症候群の一症状です。錐体路障害による脊髄回路の脱抑制が主たる機序とされ、伸張速度が速いほど抵抗が増すという「速度依存性」が特徴です。

Lance(1980)の古典的定義では「伸張反射の亢進を特徴とする運動障害の一つ」とされており、Ia求心性線維を介したα運動ニューロンへの興奮性増大が背景にあります。

脳卒中後の痙縮は発症後数週以内に出現し始め、その後数か月で最大化するとされています。典型的なパターンは上肢屈筋群・下肢伸筋群に強く現れます(伸筋痙縮パターン)。

評価のポイント:
– Modified Ashworth Scale(MAS):静的な筋緊張の高さを1〜4で評価。ただし速度依存性の感度は低い
– Tardieu Scale:ゆっくりとした伸張と速い伸張でのROMを比較。速度依存性成分を分離できる
– 伸張速度を変えて抵抗の変化を確認(速いと固い→痙縮成分が強い)

痙縮評価:速度を変えた伸張テストのイメージ


拘縮とは何か

拘縮(contracture)は、軟部組織の構造的変化による関節可動域の制限です。長期の不動・痙縮の持続・不良姿勢管理などによって筋・腱・関節包・皮下組織が短縮・線維化します。

拘縮は中枢性の問題ではなく末梢性の問題です。したがって、痙縮を抑えるだけでは拘縮は改善しません。逆に、拘縮が主因であれば筋緊張を下げる介入をいくら行っても可動域は変わりません。

Gracies(2005)は痙縮と拘縮の混在を「上位運動ニューロン症候群における筋の変化」として整理し、神経性成分と非神経性成分を区別して評価・介入する必要性を示しています。

評価のポイント:
– ゆっくりとした最大ROM(非神経性成分の指標)
– 麻酔・筋弛緩後のROM(臨床では使えないが、概念的に「純粋な可動域」を示す)
– 実際には:Tardieu ScaleのRom1(速い伸張での抵抗出現角)とRom2(最大ROM)の差が拘縮の量的評価に有用


介入:痙縮に対して

痙縮に対する介入の目標は「機能障害の軽減」です。痙縮そのものを消すことを目的にしない。あくまで、その痙縮が機能的活動の妨げになっているかどうかを評価した上で介入を選択します。

1. ボツリヌス毒素療法
局所の筋への注射により、神経筋接合部のアセチルコリン放出を阻害。効果は3〜6か月持続。歩行・手指機能・姿勢保持の改善目標と組み合わせてリハビリ計画を立てることで効果が最大化します(Esquenazi et al., 2013)。

2. 経口抗痙縮薬
バクロフェン(GABA-B受容体作動薬)、チザニジン(α2受容体作動薬)など。全身性の効果があるため、筋力低下・眠気などの副作用に注意。局所性の問題にはボツリヌスの方が適切な場合が多い。

3. ポジショニング・スプリント
持続的伸張により筋・腱の短縮化を防ぐ。特に拘縮予防の観点で重要。夜間装具・スプリントの適切な使用が不可動時間を短縮します。

4. 課題指向型練習との組み合わせ
痙縮を抑えた状態で機能的な課題練習を実施することで、神経可塑性を促す。ボツリヌス後のウィンドウ期間を活用した集中的練習が推奨されています(Sheean, 2002)。


介入:拘縮に対して

拘縮への介入は、軟部組織の伸張性改善が中心です。中枢性の介入では改善しません。

1. 持続的な伸張(sustained stretch)
30分以上の持続的伸張が筋腱単位の延長に効果的とされています。間欠的なストレッチよりも長時間の低荷重伸張が効果的という報告があります(Harvey et al., 2002)。

2. 装具・スプリント
夜間装具は持続的伸張を確保する最も実用的な手段です。足関節拘縮に対するAFO(短下肢装具)の夜間使用は、拘縮の進行予防に有効です。

3. 温熱との組み合わせ
温熱により組織伸張性が高まる状態でストレッチを行うことで効果が増す可能性があります。ただしエビデンスは限定的で、急性期炎症がある場合は禁忌。

4. ポジショニング管理
ICUや病棟でのポジショニングが拘縮の発生を抑制します。長時間の関節屈曲位保持を避けること。

痙縮・拘縮それぞれの介入の方向性


よくある誤解:「痙縮を下げれば動けるようになる」

痙縮が下がっても、動けるようになるとは限りません。

麻痺そのもの(錐体路障害による随意出力の低下)は痙縮とは別の問題です。痙縮が麻痺の表れではなく、麻痺の上に乗っかった「別の症状」であることを理解することが重要です。

実際、ボツリヌス療法で痙縮を抑えた後に、むしろ筋力不足が明らかになる場合があります。これは介入の失敗ではなく、隠れていた麻痺が「見えるようになった」と解釈すべきです。

介入後に評価すること:
– 随意出力の変化(MMT・FMA)
– 機能的活動の変化(TUG・10MWT・MAL)
– 痙縮が「なくなった後の動き」を評価する


まとめ

評価フローと介入選択のまとめ

観察 評価で確認すること 介入の方向性
速い動きで固い 速度依存性あり(Tardieu)→ 痙縮主体 ボツリヌス・薬物・ポジショニング
ゆっくりでも固い 速度依存性なし(ROM制限あり)→ 拘縮主体 持続伸張・装具・温熱
両方重なる 混在 神経性成分と非神経性成分を分けて対処

「固い」を一つの原因で片付けない。速度を変えて、ゆっくりと評価する習慣が、介入の精度を上げる第一歩です。

痙縮・拘縮の評価チャート


参考文献

  1. Lance JW. Symposium synopsis. In: Feldman RG, Young RR, Koella WP, eds. Spasticity: Disordered Motor Control. Chicago: Year Book Medical Publishers; 1980:485-494.
  2. Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. I: Paresis and soft tissue changes. Muscle Nerve. 2005;31(5):535-551.
  3. Tardieu G, Shentoub S, Delarue R. A la recherche d’une technique de mesure de la spasticité. Rev Neurol. 1954;91:143-144.
  4. Esquenazi A, Albanese A, Chancellor MB, et al. Evidence-based review and assessment of botulinum neurotoxin for the treatment of adult spasticity in the upper motor neuron syndrome. Toxicon. 2013;67:115-128.
  5. Harvey LA, Herbert RD, Crosbie J. Does stretching induce lasting increases in joint ROM? A systematic review. Physiother Res Int. 2002;7(1):1-13.
  6. Sheean G. The pathophysiology of spasticity. Eur J Neurol. 2002;9(Suppl 1):3-9.
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