「AFOを作って終わり」になっていませんか?
下垂足・内反は脳卒中後の歩行障害の中で最も頻度が高い問題のひとつです。しかし臨床では「とりあえずAFO」で対応が止まっているケースが多く見られます。
装具は代償手段であり、原因への介入ではありません。
下垂足・内反には少なくとも3つの原因があります。それぞれ介入の方向性が異なり、見極めなしに同じアプローチをとると、改善の余地を狭めることになります。
この記事では、脳卒中後の下垂足・内反を病態から整理し、評価と介入の考え方を解説します。
結論から言うと
脳卒中後の下垂足・内反は、以下3つのメカニズムのいずれかまたは組み合わせで生じます。
- 前脛骨筋の筋力低下(遊脚期の背屈・内反保持が困難)
- 下腿三頭筋・後脛骨筋の痙縮(背屈を「させてもらえない」状態)
- 腓骨神経障害の合併(脳卒中に加えた末梢神経の問題)
「背屈できない」のか「させてもらえない」のかを評価で見極めることが、介入選択の出発点です。

下垂足・内反とは何か:遊脚期の問題として整理する
正常歩行では、遊脚期に足関節は約10°背屈位を保ちます。これにより足先が地面とのクリアランスを確保し、つまずきを防ぎます。
下垂足(Drop foot)は遊脚期に足関節が背屈できず底屈位のまま振り出す状態を指します。内反(varus)は足部が内側に傾く状態で、下垂足に合併することが多く、つまずきの直接的な原因となります。
歩行観察で「足先が引っかかる」「分廻し歩行がある」「体幹が健側に傾く」などの代償が見られる場合、遊脚期の背屈・クリアランス不全を疑います。
原因1:前脛骨筋の筋力低下
最も基本的な原因です。錐体路障害により前脛骨筋への運動出力が減少し、遊脚期の背屈・内反保持が困難になります。
筋力低下が主因の場合、代償として以下が観察されます:
– 分廻し歩行(股関節を外側に大きく振り出して足先を地面から離す)
– 体幹の非麻痺側への傾斜(重心を移動させて足先を引き上げる)
– 股関節・膝関節の過度な屈曲(クリアランスを膝で確保しようとする)
これらはいずれも代償であり、回復ではありません。代償パターンが強化される前に介入の方向性を定めることが重要です。
評価のポイント:
– 前脛骨筋MMT(背屈・内反方向、非荷重位)
– 遊脚期の最大背屈角度の観察
– 代償パターン(分廻し・体幹側屈・股関節過屈曲)の有無と程度
介入の方向性:
– 前脛骨筋への機能的電気刺激(FES):歩行時のタイミング同期が重要
– 短下肢装具(AFO):背屈補助タイプ
– 遊脚期の背屈を課題とした反復練習

原因2:下腿三頭筋・後脛骨筋の痙縮
「背屈させてもらえない」状態です。
筋力はあるが痙縮が拮抗筋として働くことで、意図的な背屈が妨げられます。下腿三頭筋・後脛骨筋の興奮性亢進により、底屈・内反方向へ持続的な力がかかります。
この場合、非荷重位でMMTを実施すると前脛骨筋の筋力自体は保たれていることがあります。しかし実際の歩行では痙縮の影響が強く出て下垂足・内反として観察されます。
評価のポイント:
– 下腿三頭筋・後脛骨筋のMAS
– 背屈ROMの計測(膝伸展位と屈曲位の両方):腓腹筋成分の関与を分離
– Ely test(腹臥位での膝屈曲抵抗)で腓腹筋の痙縮を確認
– 前脛骨筋MMTと実際の歩行パフォーマンスの乖離(乖離が大きければ痙縮関与を疑う)
介入の方向性:
– 下腿三頭筋へのボツリヌス療法(内反を伴う痙縮に対して特に有効とされています)
– 持続伸張・夜間splinting
– 背屈ROMの改善を目的とした介入優先

原因3:腓骨神経障害の合併
脳卒中に加えた末梢神経の問題です。見落とされやすい原因のひとつです。
脳卒中患者さんは長期臥床・不動による腓骨神経の圧迫(腓骨頭部)を合併することがあります。また麻痺側への偏った肢位保持が持続することで末梢神経障害が生じる可能性があります。
腓骨神経障害が合併すると、前脛骨筋だけでなく長腓骨筋・短腓骨筋も機能低下し、底屈・内反の傾向がより強くなります。
評価のポイント:
– 腓骨頭部の圧痛・チネル徴候
– 足背部の感覚検査(腓骨神経支配域の感覚低下の有無)
– 長腓骨筋・短腓骨筋のMMT(外反方向)
– 必要に応じて神経伝導速度検査(他職種との連携)
介入の方向性:
– 腓骨頭への圧迫除去(肢位の管理・クッション使用)
– 末梢神経障害と中枢性麻痺の両方を考慮した装具選択
– 神経回復を待ちながらの代償的アプローチの並行
よくある誤解:「下垂足=前脛骨筋を鍛えればいい」
痙縮が主因の場合、前脛骨筋のみを対象にした筋力トレーニングでは効果が限定的です。むしろ痙縮管理なしに強化を行うと、拮抗筋との共同収縮が強まり内反が悪化することがあります。
また腓骨神経障害の合併を見逃したまま中枢性麻痺への介入のみを行っていると、改善が乏しくなります。
「背屈できない」のか「させてもらえない」のか。この問いから始めることが、介入を変えます。
代償と回復を区別する
AFOは下垂足の「代償」です。つまずきを防ぐ意味では非常に重要ですが、前脛骨筋の筋力回復や痙縮の軽減を促すものではありません。
代償を使いながら、並行して原因への介入を続けることが、機能回復につながります。「装具があれば歩けるから介入終了」ではなく、「装具を使いながら何を変えるか」を考え続けることが若手PTに求められる臨床推論です。
まとめ

| 原因 | 主なメカニズム | 評価の核心 |
|---|---|---|
| 前脛骨筋筋力低下 | 遊脚期の背屈・内反保持不全 | MMT・遊脚期最大背屈角度 |
| 下腿三頭筋・後脛骨筋痙縮 | 拮抗筋の過活動による背屈妨害 | MAS・背屈ROM・MMTとの乖離 |
| 腓骨神経障害合併 | 末梢神経障害による追加の運動低下 | 腓骨頭圧痛・感覚・外反MMT |

参考文献
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- Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2nd ed. Thorofare, NJ: SLACK Incorporated; 2010.
- Olney SJ, Richards C. Hemiparetic gait following stroke. Part I: Characteristics. Gait Posture. 1996;4(2):136-148.


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