脳卒中後の遊脚期障害:すり足・つまずきの原因を分けて介入する【若手PT向け臨床推論】

歩行
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「すり足」は1つの原因で説明できない

脳卒中後の患者で「すり足になっている」「よくつまずく」という観察はよくあります。

しかしすり足・つまずきは「足が上がらない」という現象の記述であり、それ自体は原因ではありません。なぜ足が上がらないのかを明らかにしなければ、適切な介入は選べません。

この記事では、遊脚期障害(足のクリアランス低下)を引き起こす主な原因を病態から整理し、それぞれの評価と介入のポイントを解説します。


結論から言うと

遊脚期に足が上がらない原因は、大きく3つに分類できます。

  1. 股関節屈曲の力が出せない(腸腰筋・大腿直筋の筋力低下)
  2. 足関節背屈が不十分(前脛骨筋の筋力低下または腓腹筋・ヒラメ筋の拘縮)
  3. 立脚側の支持が不安定(麻痺側立脚期が短く、体重移動が十分でない)

原因が違えば介入も変わります。「すり足→装具」ではなく、「すり足→なぜか→それに対して何をするか」の順で考えます。

遊脚期障害の3原因:股関節屈曲・足関節背屈・立脚支持


正常な遊脚期の構造

まず正常歩行における遊脚期の役割を確認します。

遊脚期(約40〜60%GC)の主な課題は2つです:
足のクリアランス確保:地面に触れずに下肢を前方に振り出す
下肢の前方推進:次の立脚期に備えた足の位置決め

足のクリアランスは、股関節屈曲・膝関節屈曲・足関節背屈が協調して行われることで確保されます。遊脚期の膝屈曲(最大約60°)は立脚中期末から後半にかけて股関節屈曲が始まることで受動的に引き出されます。

Perry & Burnfield(2010)は、遊脚期のクリアランス不足の主な起源を「股関節屈曲力不足」「足関節底屈筋の過活動」「立脚後期の推進力不足」に分類しています。


原因1:股関節屈曲力の低下

腸腰筋・大腿直筋の随意出力が低下すると、遊脚期に股関節を十分に屈曲できず、下肢全体が引き上げられません。足が上がらないだけでなく、遊脚期の振り出し速度も低下します。

腸腰筋は遊脚初期の股関節屈曲開始に主要な役割を果たし、弾性エネルギーを蓄積した状態(立脚後期の伸展位)から屈曲に切り替わる際に大きく貢献します。

評価のポイント:
– 背臥位での股関節屈曲MMT(腰椎代償を防ぐため体幹を固定して評価)
– 座位での膝挙上動作(足を床から離す随意能力)
– 歩行観察での股関節屈曲角度(矢状面から動画分析)

介入の方向性:
– 腸腰筋の選択的筋力増強(背臥位SLR・座位膝挙上・立位股関節屈曲)
– 歩行速度を上げる練習(速度増加に伴い腸腰筋活動が増大する)
– 電気刺激(FES)を腸腰筋あるいは前脛骨筋に用いて遊脚開始をアシスト


原因2:足関節背屈の不十分

足関節背屈が不十分なケースには2つの機序があります。

a) 前脛骨筋の筋力低下(下垂足)
遊脚中に前脛骨筋が足関節を背屈位に保てず、足先が地面に近づく状態です。前述の「下垂足・内反」とも重なります。

b) 腓腹筋・ヒラメ筋の拘縮
底屈筋が短縮していると、前脛骨筋が活動していても背屈ROMが制限されます。この場合は「筋力を上げる」だけでは不十分で、底屈筋の伸張も必要です。

評価のポイント:
– 前脛骨筋MMT(背臥位での背屈抵抗)
– 足関節背屈ROM(膝伸展位・膝屈曲位で別々に評価してヒラメ筋・腓腹筋の拘縮を区別)
– 遊脚期の足関節角度観察

介入の方向性:
– 前脛骨筋の筋力増強(背屈反復・タップ練習)
– 腓腹筋・ヒラメ筋の持続伸張
– FES(前脛骨筋への機能的電気刺激):歩行中の遊脚期に自動的に刺激を与えて背屈をアシスト。Cochrane reviewでも歩行速度の改善に有効とされています(Kottink et al., 2004)
– AFO(短下肢装具)による代償:足背屈を補い、クリアランスを確保

足関節背屈不足への介入:FESとAFOの使い分け


原因3:立脚側の支持不安定

見落とされやすい原因が「立脚側の問題」です。

麻痺側の立脚期が短い(支持できない)と、対側(非麻痺側)の遊脚期も短くなります。しかし脳卒中後の問題は麻痺側にある場合が多く、「遊脚が短い→股関節屈曲が弱い」という短絡的な評価に陥ることがあります。

実際には、麻痺側立脚期に重心が前方に移動しきれないことで、遊脚期への移行が遅れている場合があります。

評価のポイント:
– 立脚期の対称性(ビデオ分析・footswitch)
– 麻痺側への荷重量(体重計2枚を使った立位での荷重比較)
– 立脚後期の体幹前傾とヒールオフのタイミング観察

介入の方向性:
– 麻痺側への荷重練習(傾斜板・ステップアップ)
– 立脚後期の重心前方移動を促す課題(ランジ動作・前傾キューイング)
– 歩行速度を上げることで立脚-遊脚移行のタイミングが改善する場合がある


代償パターンとその問題点

遊脚期クリアランスが不十分な患者は、以下の代償を用いることがあります。

  • 体幹側屈(ヒップハイキング):非麻痺側へ体幹を傾けて麻痺側下肢を持ち上げる
  • 骨盤挙上(pelvic hiking):骨盤を上げることで相対的に下肢を短縮させる
  • 外旋位での振り出し(circumduction):下肢を外側に弧を描いて振り出す

これらは「転倒を防ぐための代償」であり、短期的には有効です。しかし長期的には異常なパターンが強化され、正常な遊脚期パターンの回復を妨げる可能性があります。

代償か回復かを見極めた上で、代償を温存するか減らすかを判断する必要があります(急性期・体力低下例では代償温存が優先されることもあります)。

代償パターンの観察:ヒップハイキング・circumductionの見方


まとめ:評価から介入への流れ

観察 評価で確認 介入の候補
足先が上がらない 前脛骨筋MMT・背屈ROM 前脛骨筋強化・FES・AFO
股関節が上がらない 腸腰筋MMT・股関節屈曲ROM 腸腰筋強化・速度増加練習
立脚期が短い 荷重対称性・体幹前傾観察 荷重練習・立脚期延長課題
体幹が傾く 中殿筋MMT・体幹側屈確認 中殿筋強化・骨盤安定化

「すり足→とりあえずAFO」ではなく、「すり足→なぜ足が上がらないか→その原因に対して何をするか」の順で考えることが、介入の的確さを高めます。

遊脚期障害の評価・介入フロー


参考文献

  1. Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2nd ed. Thorofare, NJ: SLACK Incorporated; 2010.
  2. Kottink AI, Oostendorp LJ, Buurke JH, Nene AV, Hermens HJ, IJzerman MJ. The orthotic effect of functional electrical stimulation on the improvement of walking in stroke patients with a dropped foot: a systematic review. Artif Organs. 2004;28(6):577-586.
  3. Mulroy S, Gronley J, Weiss W, Newsam C, Perry J. Use of cluster analysis for gait pattern classification of patients in the early and late recovery phases following stroke. Gait Posture. 2003;18(1):114-125.
  4. Turns LJ, Neptune RR, Zajac FE. Contribution of the rectus femoris and vasti muscles to swing initiation during normal walking. J Biomech. 2007;40(8):1741-1750.
  5. Stanhope VA, Knarr BA, Reisman DS, Higginson JS. Frontal plane compensatory strategies associated with self-selected walking speed in post-stroke hemiparesis. Clin Biomech. 2014;29(5):518-522.
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