脳卒中後の体幹機能:座位・立位・歩行をつなげて評価する考え方【若手PT・OT向け】

姿勢制御
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体幹が弱い、で止まっていませんか?

脳卒中後のリハビリで「体幹が弱いですね」という言葉はよく出ます。

座っていると麻痺側へ倒れる。立ち上がると骨盤が後ろへ残る。歩くと体が左右へ揺れる。こういう場面を見ると、たしかに体幹の問題はありそうです。

でも、ここで少し立ち止まりたいです。

その「体幹が弱い」は、何を指しているでしょうか。

姿勢を保てないのか。骨盤を前後左右へ動かせないのか。麻痺側下肢へ体重を移すときに体幹が逃げるのか。立ち上がりで股関節と体幹の前傾が組み合わないのか。歩行中に骨盤が運べないのか。

同じ「体幹機能低下」でも、見ている現象はかなり違います。

体幹は座位だけの問題ではありません。座る、立つ、歩くをつなぐ姿勢制御の中心です。

この記事では、脳卒中後の体幹機能を、若手PT・OTが臨床で評価しやすい形に整理します。

体幹は座位だけの話ではない

結論!体幹は「安定」と「動き」を分けて見る

結論から言うと、体幹機能は 姿勢を保つ力と、骨盤や重心を動かす力を分けて評価することが大事です。

座位で真っすぐ座れるかだけでは足りません。

  • 支持なしで座れるか
  • 骨盤を前傾、後傾、側方へ動かせるか
  • 前方リーチで重心を移せるか
  • 側方リーチで麻痺側へ体重を預けられるか
  • 立ち上がりで体幹前傾と下肢荷重がつながるか
  • 歩行で骨盤を前へ運べるか

このあたりを分けると、体幹トレーニングの意味がはっきりします。

ぱらゴリ的に言うと、体幹は「腹筋を鍛える部位」ではありません。目的動作の中で、重心と骨盤をどう扱うかを見る場所です。

なぜ体幹が崩れると下肢の課題に見えるのか

歩行で膝折れがある。麻痺側へ乗れない。股関節伸展が出ない。分回しが出る。

こうした問題は下肢の問題として見られやすいです。もちろん下肢機能は重要です。ただ、体幹と骨盤のコントロールが崩れると、下肢の問題に見えることがあります。

たとえば立脚期に骨盤が後方へ残ると、股関節伸展は出にくくなります。麻痺側へ体重を移す前に体幹が非麻痺側へ逃げれば、麻痺側下肢は支持を学習しにくくなります。座位で骨盤前傾が出にくい人は、立ち上がりで体幹前傾が浅くなり、非麻痺側上肢や反動に頼ることがあります。

ここで下肢だけを鍛えると、動作中のつながりが見えにくくなります。

体幹機能は、下肢の力を実際の動作で使うための土台として考えると整理しやすいです。

臨床でよくある勘違い:「座位が良くなれば歩ける」

座位練習は大事です。体幹機能が低い人にとって、座位は安全に骨盤や重心を扱える入り口になります。

ただし、座位が安定したからといって、そのまま歩行へつながるとは限りません。

座位では足底荷重が少なく、支持面も広いです。立位になると足底からの支持、股関節の伸展、膝の制御、足関節戦略が関わります。歩行になると、片脚支持、骨盤回旋、重心移動、ステップのタイミングが加わります。

つまり、体幹練習は座位で終わらせると、目的動作との距離が残ります。

座位で出た体幹の反応を、立位、ステップ、歩行で使えるかまで確認することが必要です。

評価ではここを分ける

体幹評価では、静止姿勢と動的課題を分けます。

体幹評価は動きで見る

評価項目 見るポイント 動作への意味
座位保持 体幹の垂直性、骨盤の傾き、左右差 基本姿勢の安定
骨盤前後傾 骨盤を前後へ動かせるか 立ち上がり、リーチ
側方リーチ 麻痺側へ重心移動できるか 立位荷重、歩行立脚期
前方リーチ 体幹前傾と骨盤前傾が出るか 立ち上がり、ステップ
立ち上がり 体幹前傾、骨盤、下肢荷重の連動 ADLの入口
歩行 骨盤移動、体幹側屈、回旋 実用場面での再評価

評価のコツは、支持ありと支持なしを比べることです。

手で座面を押せば座れる。でも手を離すと崩れる。テーブルにつかまれば麻痺側へリーチできる。でも支持を外すと非麻痺側へ逃げる。

この違いを見ると、本人が何で補っているかが見えます。

体幹機能と代償を分ける

体幹が横へ倒れているから、すぐに「体幹が弱い」と判断するのは少し早いです。

体幹側屈が、筋力低下によるものなのか、麻痺側下肢へ乗る怖さを避けるためなのか、股関節や足関節の可動域制限を補っているのか、半側空間無視や感覚障害の影響なのかを分ける必要があります。

たとえば麻痺側へ乗ると足底感覚が分かりにくい人は、体幹を非麻痺側へ残すことがあります。股関節伸展が出にくい人は、体幹前傾や腰椎伸展で歩幅を作ろうとすることがあります。

ここで「体幹を真っすぐにしてください」だけを繰り返すと、原因への介入にならないことがあります。

代償を止める前に、その代償が何を補っているかを見る。

これは体幹評価でかなり大事です。

臨床で使うならこう考える

Activeで多く確認している視点として、体幹は「良い姿勢を作る」よりも「目的動作に必要な重心移動を作る」ために見ます。

座位で骨盤前傾が出ない人には、いきなり歩幅を広げるより、座位や立ち上がりで骨盤と体幹前傾を作る方が入りやすいことがあります。

側方リーチで麻痺側へ体重移動できない人には、歩行で麻痺側立脚を増やす前に、立位で骨盤を麻痺側へ運ぶ課題が必要です。

歩行中に体幹が大きく揺れる人には、腹筋運動を増やす前に、どの相で揺れるのかを見ます。初期接地なのか、荷重応答期なのか、立脚中期なのか、遊脚期なのかで、課題は変わります。

リハビリで設計すること

体幹練習は、座位で終わらせず、立位や歩行へつなげます。

体幹練習は歩行へつなげる

課題設計の例です。

  • 座位で骨盤前後傾を小さく反復する
  • 座位リーチで麻痺側へ重心を移す
  • 立ち上がりで体幹前傾と足底荷重を合わせる
  • 立位で骨盤を左右へ移動し、麻痺側荷重を確認する
  • ステップ課題で骨盤を支持脚の上へ運ぶ
  • 歩行で体幹側屈や骨盤後退が減ったか再評価する

ここで大切なのは、体幹課題を筋トレとして切り離さないことです。

体幹の反応が変わったとしても、立ち上がりや歩行で使えなければ生活上の意味は小さくなります。逆に、体幹だけの評価では変化が小さくても、立ち上がりや歩行で重心移動が安定することがあります。

自宅や生活で気をつけること

体幹機能が低い人は、椅子からの立ち上がり、ベッド上動作、トイレ動作、浴室動作で崩れやすくなります。

自宅では、まず環境を整えます。

  • 低すぎる椅子を避ける
  • 立ち上がり時に足を引きすぎない
  • ベッド端座位で急に方向転換しない
  • 浴室では手すりや座面を確認する
  • 疲労が強い時間帯は動作速度を落とす

ただし、支えを増やしすぎると、本人が体幹と下肢を使う機会が減ることもあります。安全を確保しながら、どの動作なら自分で重心移動を作れるかを見つけます。

変化を見るアウトカム

体幹機能の変化は、座位だけで見ない方がいいです。

アウトカム 見たい変化
Trunk Impairment Scale 静的座位、動的座位、協調性
Function in Sitting Test 座位での機能的な動き
Berg Balance Scale 立位バランス課題
5回立ち上がりテスト 体幹前傾、下肢荷重、速度
10m歩行テスト 歩行速度と体幹動揺
Timed Up and Go 立ち上がり、方向転換、着座

評価では数値だけでなく、運動の質も見ます。たとえば10m歩行が速くなっても、体幹側屈や非麻痺側への逃げが強まっているなら、代償で速度を作っている可能性があります。

速度、安定性、代償の増減をセットで見ると、臨床判断がしやすくなります。

論文からどこまで言えるか

Verheydenらは、脳卒中後の体幹パフォーマンスが機能的予後と関連することを報告しています。ここから、体幹機能は単なる姿勢の問題ではなく、ADLや移動能力と関係する重要な評価対象と考えられます。

Trunk Impairment Scaleは、脳卒中後の体幹機能を静的座位、動的座位、協調性の観点から評価する尺度として報告されています。臨床では、体幹を「弱い」で終わらせず、どの要素が弱いのかを分ける手がかりになります。

Veerbeekらのレビューでは、脳卒中後の理学療法に関する多くの介入研究が整理されています。個別の体幹練習だけでなく、課題指向型練習や反復、バランス練習を組み合わせて機能へつなげる視点が重要です。

ただし、論文で示される平均的な変化を、目の前の患者さんへそのまま当てはめることはできません。麻痺の重症度、感覚障害、半側空間無視、疼痛、疲労、装具の有無によって、体幹課題の意味は変わります。

Activeではこう見立てる

Activeでは、体幹機能を「座れるか」だけで見ません。

どの動作で、どの方向へ重心が動かせないかを見ます。

  • 座位で骨盤が前後へ動くか
  • 麻痺側へ側方移動できるか
  • 立ち上がりで体幹前傾が出るか
  • 立位で骨盤を麻痺側へ運べるか
  • 歩行で骨盤が前へ出るか
  • 疲労後に体幹側屈が増えないか

この順番で見ると、体幹練習はかなり具体的になります。

そして、体幹課題を行った後は、必ず目的動作で再評価します。座位リーチの後に立ち上がりを見る。立位荷重の後にステップを見る。ステップの後に歩行を見る。

この再評価がないと、体幹練習が「やっただけ」で終わります。

最後にもう一度、要点を整理する

脳卒中後の体幹機能は、腹筋の強さだけで説明できません。

姿勢を保つ力、骨盤を動かす力、麻痺側へ重心を移す力、目的動作の中で体幹を使う力を分けて見る必要があります。

この記事で一番伝えたいのは、これです。

体幹は座位で終わらせず、立つ、乗る、歩くまでつなげて評価する。

ここまで読んだあなたは、「体幹が弱いですね」という言葉の中に、かなり多くの分岐があることに気づけているはずです。それは臨床でとても大きいです。明日は、座位保持だけでなく、前方リーチか側方リーチを一つ足してみてください。そこから立ち上がりや歩行の見え方が変わってきます。

参考文献

  1. Verheyden G, Nieuwboer A, Mertin J, Preger R, Kiekens C, De Weerdt W. The Trunk Impairment Scale: a new tool to measure motor impairment of the trunk after stroke. Clinical Rehabilitation. 2004;18(3):326-334. doi:10.1191/0269215504cr733oa
  2. Verheyden G, Nieuwboer A, De Wit L, et al. Trunk performance after stroke: an eye catching predictor of functional outcome. Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry. 2007;78(7):694-698. doi:10.1136/jnnp.2006.101642
  3. Veerbeek JM, van Wegen E, van Peppen R, et al. What is the evidence for physical therapy poststroke? A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2014;9(2):e87987. doi:10.1371/journal.pone.0087987
  4. Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47(6):e98-e169. doi:10.1161/STR.0000000000000098
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