脳卒中後の転倒恐怖:「怖いから歩けない」をバランス低下だけで決めない【若手PT・OT向け】

脳機能
スポンサーリンク
  1. 「怖いから歩かない」で、本人の気持ちだけの問題にしていませんか?
  2. 結論!能力と自信を別々に測り、避けている生活場面へ戻します
  3. なぜそう見えるのか:恐怖、回避、身体能力は循環しやすいからです
  4. よくある勘違い1:BBSが低いから怖い、と決めません
  5. よくある勘違い2:怖くない人は安全、ではありません
  6. よくある勘違い3:「転ばないように全部介助」が長期目標ではありません
  7. 評価ではここを分ける:四段階で恐怖の正体を絞ります
    1. 1.まず、練習量を増やす前に医療的な危険を確認します
    2. 2.恐怖を場面に分け、避け方を具体化します
    3. 3.本人の認識と身体能力を別の尺度で測ります
    4. 4.能力と自信を四つの組み合わせで整理します
  8. 臨床で使うならこう考える:一回の成功より「再現条件」を残します
  9. リハビリで設計すること:恐怖を消すより、扱える課題へ小さくします
    1. 1.課題の難しさを一要素ずつ変えます
    2. 2.予測的制御と反応性制御を分けて練習します
    3. 3.運動練習だけで自信が定着するとは決めません
    4. 4.家族の介助も課題の一部として練習します
    5. 5.補助具は恐怖の証拠ではなく、課題を成立させる条件です
  10. 自宅や生活で気をつけること:避けた場面と転びかけを記録します
  11. 変化を見るアウトカム:転倒ゼロだけをゴールにしません
    1. 安全と実際の出来事
    2. 身体能力
    3. 本人の認識
    4. 活動と参加
  12. 論文からどこまで言えるか:関連、短期効果、生活内転倒を分けます
  13. ぱらゴリ的な見立て:怖さを説得で消さず、仮説を動作で確かめます
  14. 最後にもう一度、要点を整理します
  15. 参考文献

「怖いから歩かない」で、本人の気持ちだけの問題にしていませんか?

病棟では歩けていたのに、退院後は玄関から先へ出なくなった。手すりがあれば立てるのに、本人は「また転びそう」と動こうとしない。家族が心配して先回りして介助するうちに、一日の座位時間が増えた。このような場面で、若手PT・OTは「バランスが悪いから怖い」「自信をつければよい」と一つの説明へまとめがちです。

しかし、転倒への恐怖や懸念は、身体機能の低さだけでは決まりません。実際の転倒歴、転びかけた経験、感覚障害、注意障害、視野障害、起立時の血圧低下、疼痛、環境、家族の介助、抑うつや不安、本人が見積もる危険度が重なります。反対に、転倒リスクが高いのに不安をほとんど訴えない人もいます。

転倒恐怖と実際の転倒リスクは関連しますが、同じものではありません。恐怖が強い人へ無理に歩行量を増やすと、失敗体験が重なり、活動回避が強くなる可能性があります。一方で、安心だけを優先して動く機会を減らすと、身体機能と活動範囲がさらに低下する可能性があります。

結論から言うと、脳卒中後の転倒恐怖では次の四層を分けます。

  1. 実際の安全性:転倒歴、転びかけ、急な症状、薬剤、環境
  2. 身体能力:立位バランス、歩行、方向転換、反応性姿勢制御、持久性
  3. 認知と感情:危険認識、注意、抑うつ、不安、失敗体験
  4. 活動と参加:避けている場面、介助量、外出、役割、生活範囲

「怖いか」を聞くだけで終わらず、何を危険と見積もり、どの場面を避け、実際の能力とどこがずれているかを確かめます。

この記事では、転倒恐怖をバランス検査の点数だけで説明せず、評価、仮説検証、課題設定、再評価へつなげる考え方を整理します。

結論!能力と自信を別々に測り、避けている生活場面へ戻します

転倒恐怖への介入は「励ますこと」でも「危険をゼロにすること」でもありません。まず、本人が避けている具体的な場面を一つ選びます。次に、その場面で必要な身体能力と、本人が感じる不安やバランスへの自信を別々に測ります。そして、安全条件を調整した短い試行で仮説を確かめます。

例えば「屋外が怖い」という訴えでも、課題は人によって異なります。

  • 玄関框で麻痺側膝が不安定になる
  • 杖を持ちながら扉を開けられない
  • 人とすれ違うと注意が外れて足が止まる
  • 方向転換で足が交差する
  • 傾斜や凹凸で足部位置を修正できない
  • 一度転んだ場所を思い出して動悸が出る
  • 家族が常に腕を引くため、一人で動く経験がない

これらは同じ「怖い」でも、必要な評価と課題が違います。本人の不安を否定せず、同時に不安を身体能力の代わりにも使わないことが重要です。

2024年の系統的レビューとメタ解析は、脳卒中者2863人を含む26報を統合しました。急性期では、一つの質問で転倒恐怖ありと答えた人の転倒リスクは、なしと答えた人に対して相対リスク1.44、95%信頼区間1.22から1.70でした。慢性期では、転倒者と非転倒者の間にFalls Efficacy ScaleとActivities-specific Balance Confidence Scale、以下ABC Scale、の差が報告されました。

ただし、著者らはエビデンス水準を低いと評価しています。研究の多くは観察研究で、恐怖が転倒を起こしたのか、転倒したため恐怖が強くなったのかは決められません。転倒恐怖は重要なリスク情報ですが、それだけで転倒を予測したり、介入内容を決めたりはできません。

なぜそう見えるのか:恐怖、回避、身体能力は循環しやすいからです

転倒への懸念には、危険を避ける保護的な役割があります。段差で速度を落とす、手すりを使う、疲れたら休む行動は、安全性を高める代償になり得ます。したがって、恐怖があること自体を異常と決めません。

問題になるのは、危険度に対して回避が大きくなり、本人が必要とする活動や役割まで失われる場合です。外出を避ける、立位を避ける、家族がすべて介助する状態が続くと、反復量、歩数、環境への適応機会が減ります。その結果、下肢筋力、持久性、反応性姿勢制御、二重課題への適応が低下し、実際の転倒リスクが上がる可能性があります。

一方で、身体能力が上がれば必ず自信も上がるわけではありません。臨床室内で10mを歩けても、屋外の人混み、暗所、傾斜、荷物運搬、急な外乱への自信は別です。本人が「転ばずにできた」と判断できる成功体験が生活場面に結びつかなければ、活動範囲は変わらないことがあります。

慢性期脳卒中者77人を対象にした横断研究では、51人、66%が転倒恐怖を報告しました。恐怖がある群は、ない群よりバランス、活動・参加が低く、不安が高い結果でした。しかし横断研究であるため、因果の向きは分かりません。また、紹介を受けた残存障害のある対象を含む便宜的標本であり、すべての慢性期脳卒中者へ66%を当てはめることはできません。

別の6か月縦断パイロット研究は、退院時28人、6か月後18人という小規模な対象でした。転倒恐怖は時間とともに低下しましたが、退院時に恐怖があった人は6か月後の不安、抑うつが高く、生活の質が低い結果でした。小規模研究のため確定的ではありませんが、身体機能だけでなく、不安や抑うつ、生活の質を同じ時間軸で見る必要性を示しています。

転倒恐怖・活動回避・身体能力・実場面経験の循環

よくある勘違い1:BBSが低いから怖い、と決めません

Berg Balance Scale、以下BBS、は静的・動的バランス課題を評価しますが、本人が転倒をどれだけ心配しているかを直接測る尺度ではありません。同じBBS得点でも、過去の転倒、疼痛、環境、認知、家族の反応によって自信は異なります。

2022年の系統的レビューとメタ解析は、8研究1597人を対象に転倒恐怖の関連因子を調べました。バランス能力低下はオッズ比5.54、95%信頼区間3.48から8.81、転倒歴は2.33、95%信頼区間1.54から3.53、不安は2.29、95%信頼区間1.43から3.67などの関連が報告されました。

しかし、研究間の異質性は指標によって0%から93%と大きく、これらは主に観察研究の関連です。BBSが低いから転倒恐怖が生じる、または不安があるから転倒する、と一方向には決められません。BBSは能力、転倒恐怖尺度は本人の認識を測るため、役割を分けて併用します。

よくある勘違い2:怖くない人は安全、ではありません

危険認識が低い、注意障害がある、衝動性が高い、失敗を覚えていない、病識が乏しい場合は、実際の能力に比べて自信が高くなる可能性があります。転倒恐怖が低いことを良好な結果と決めると、この群を見落とします。

例えば、BBSやMini-BESTestが低く、方向転換で足が交差し、過去1か月に複数回の転びかけがあるのに、「全く怖くない」と答える場合です。ここでは自信を高める介入より、危険場面の認識、注意配分、環境調整、介助方法、補助具の適合を優先します。

恐怖が低いことと、転倒リスクが低いことは同義ではありません。

よくある勘違い3:「転ばないように全部介助」が長期目標ではありません

家族の介助は安全のために必要なことがあります。ただし、常に腕を引く、本人が動く前に立たせる、あらゆる外出を止める介助が続くと、本人が姿勢を調整し、補助具を操作し、成功を判断する機会が減ります。

ここで介助を急に外すのも安全ではありません。介助量を段階づけ、接触位置、声かけ、見守り距離、補助具、環境を一つずつ変えます。家族には「転ばせない介助」だけでなく、「本人がどこまでできたかを観察できる介助」を共有します。

安全確保と自立経験は二者択一ではなく、条件設定で両立を目指します。

評価ではここを分ける:四段階で恐怖の正体を絞ります

1.まず、練習量を増やす前に医療的な危険を確認します

新しく強いふらつきが出た、意識を失った、胸痛や動悸がある、立位で血圧低下や冷汗がある、新しい麻痺・しびれ・言語症状がある、頭部を打った、強い股関節痛や背部痛がある場合は、通常の転倒恐怖への介入より先に医療評価へつなぎます。

眠気を強める薬、降圧薬、血糖降下薬、排尿に関わる薬などが転倒へ影響する可能性もあります。PT・OTが薬剤を変更するのではなく、症状の時刻、服薬時刻、血圧、食事、転倒記録をそろえて医師・薬剤師へ共有します。

転倒した場合は「けがなし」で終わらせず、直前の活動、方向、支持物、履物、照明、急いでいたか、意識や記憶、床から起き上がれたかを確認します。

2.恐怖を場面に分け、避け方を具体化します

「歩くのが怖いですか」という一問だけでは、課題を設計できません。次のように場面へ分けます。

  • ベッドから立つ
  • トイレまで夜間に移動する
  • 方向転換する
  • 物を持って歩く
  • 玄関框や階段を通る
  • 屋外の凹凸や傾斜を歩く
  • 人とすれ違う
  • バスや電車へ乗る
  • 雨天や暗所を移動する

各場面で、実施しているか、避けているか、誰が介助するか、どの補助具を使うか、恐怖が出る瞬間、成功条件を記録します。恐怖の強さだけでなく、恐怖が生活選択をどの程度変えているかを見ます。

3.本人の認識と身体能力を別の尺度で測ります

Falls Efficacy Scale-International、以下FES-I、は日常活動中に転倒をどの程度心配するかを尋ねます。ABC Scaleは、さまざまな活動を転ばずに行う自信を0から100%で評価します。得点の方向が異なるため、記録時に注意します。一般にFES-Iは高いほど懸念が強く、ABC Scaleは高いほど自信が高い尺度です。

日本の地域在住の慢性期脳卒中者88人を対象にしたABC-Jの測定研究では、内的一貫性は0.95、再検査信頼性はICC 0.92、95%信頼区間0.87から0.95でした。最小可検変化量は19.79点でした。ABC-Jは10m歩行、TUG、BBS、FES-Iとも関連しました。

これは、慢性期の歩行可能な地域在住者における測定特性です。急性期、重度の失語、歩行不能者へ同じ解釈をそのまま移せません。また、最小可検変化量は測定誤差を超える目安であり、本人にとって重要な変化量と同じではありません。

2025年の亜急性期脳卒中者を扱った予備研究では、開始時62人、4週後まで解析できた39人で、ABC Scaleの最小重要変化量は15.6%、95%信頼区間10.4から21.1%でした。対象が少ないため、すべての病期に共通する基準ではありません。

身体能力は目的に応じて、BBS、Mini-BESTest、TUG、10m歩行、5回立ち上がり、Functional Gait Assessment、反応性ステップ、実際の方向転換などを選びます。感覚、視野、半側空間無視、注意、失行、疼痛、装具、起立時循環反応も併記します。

4.能力と自信を四つの組み合わせで整理します

身体能力 自信・懸念 臨床で考えること 最初の対応
低い 自信も低い 危険認識と能力がある程度一致します 安全条件を作り、必要能力を段階的に練習します
高い 自信が低い 失敗体験、不安、環境差、生活場面への転移不足を疑います 実場面に近い成功体験と自己評価を設計します
低い 自信が高い 病識、注意、記憶、衝動性、課題理解を確認します 危険認識、環境、見守り、補助具を優先します
高い 自信も高い 現在の活動量と難しい環境での安全性を確認します 活動範囲を保ち、必要な場面へ課題を広げます

この表は診断基準ではなく、次の仮説を作る枠組みです。同じ人でも、室内直線歩行では右下、屋外の人混みでは右上というように、場面で位置が変わります。

身体能力と転倒への自信を四象限で分ける評価

臨床で使うならこう考える:一回の成功より「再現条件」を残します

短い試行では、本人が避けている場面を安全に縮小します。玄関が怖ければ、訓練室の低い段差、固定手すり、見守り、十分な照明から始めます。方向転換が怖ければ、広い場所で大きな弧を描く旋回から始め、速度と歩数を記録します。

試行後には、単に「できました」と伝えるのではなく、次を本人と確認します。

  1. 何が怖かったか
  2. 予想した危険は何だったか
  3. 実際に何が起きたか
  4. どの条件が助けになったか
  5. 次に一つだけ変えるなら何か

この振り返りにより、成功を偶然で終わらせず、再現可能な条件へ変えます。課題達成、麻痺側の運動制御、自信の変化は別のアウトカムとして記録します。手すりと非麻痺側への荷重で段差を越えた場合、それは安全な代償による遂行かもしれません。麻痺側立脚の回復と同じ意味にはしません。

リハビリで設計すること:恐怖を消すより、扱える課題へ小さくします

1.課題の難しさを一要素ずつ変えます

難易度は、支持面、速度、方向、視覚条件、認知負荷、上肢支持、補助具、介助量、距離、疲労で調整できます。複数条件を同時に変えると、何が成功や失敗へ影響したか分かりません。

例えば屋外歩行なら、次の順が考えられます。

  1. 屋内の広い直線を手すりまたは適合した杖で歩く
  2. 屋内で停止と再開、方向転換を練習する
  3. 空いている平坦な屋外を短距離歩く
  4. 小さな傾斜や路面変化を加える
  5. 人とのすれ違い、荷物、会話など本人に必要な条件を一つ加える

順番は固定ではありません。本人の問題が反応性ステップなら、単なる直線距離を増やしても目的へ届きません。問題が起立時の血圧低下なら、歩行課題を増やす前に循環反応と離床条件を整えます。

恐怖が出ないほど簡単にするのではなく、恐怖を言葉で報告でき、姿勢と安全を保ったまま反復できる難しさを探します。

2.予測的制御と反応性制御を分けて練習します

支持基底面内で重心を動かす、速度を変える、止まる、方向転換する課題は、事前に姿勢を調整する予測的制御を必要とします。一方、つまずきや押された場面で一歩を出す課題は、外乱後の反応性制御を必要とします。

慢性期脳卒中者88人を対象とした評価者盲検RCTでは、外乱に対する反応を練習する群と、機能課題で安定性を保つ従来型バランス練習群を比較しました。1時間を週2回、6週間実施し、主要評価は訓練後12か月の転倒率でした。外乱練習群は53件、1人年あたり1.45件、対照群は64件、1人年あたり1.72件で、率比0.85、95%信頼区間0.42から1.69、p値0.63でした。

群間差は統計学的に明確ではなく、転倒予防効果は確定できませんでした。一方、反応性バランス制御は外乱練習群でより大きく変化し、12か月後も保たれました。反応性制御の向上と、生活内の転倒減少を同じ成果と決めないことが重要です。

外乱練習にはハーネス、十分な介助者、除外基準、段階づけが必要です。自宅で突然押すような練習は行いません。

3.運動練習だけで自信が定着するとは決めません

2023年の系統的レビューとメタ解析は、脳卒中者1211人を含む14件のRCTを確認し、13件1180人を統合しました。運動は介入直後の転倒恐怖に標準化平均差0.48、95%信頼区間0.23から0.72の結果でしたが、GRADEによる確実性は非常に低いと評価されました。

訓練終了3から6か月後は、標準化平均差マイナス0.09、95%信頼区間マイナス0.27から0.10で、効果の維持は示されませんでした。BBSが45点以下の対象や、週3回以上の研究で効果量が大きいという感度分析もありましたが、これを個人の必須頻度や適応基準へ直結させることはできません。

したがって、訓練室の運動だけで終わらせず、退院後や訓練終了後に続ける課題、実施場所、同伴者、悪天候時の代替、再評価日を決めます。短期の自信と、生活内で保たれる活動は別々に追います。

4.家族の介助も課題の一部として練習します

本人だけでなく、家族の不安も活動量へ影響します。家族が怖いと感じる場面、どこを持っているか、声かけのタイミング、転びそうなときの対応を確認します。

介助練習では、本人の衣服や麻痺側上肢を引かず、体幹と骨盤の動きを妨げにくい位置を選びます。ただし、具体的な介助位置は身体機能、装具、疼痛、体格差で変わるため、担当PT・OTが実場面で確認します。

家族へは、見守りへ移る条件と、介助へ戻す条件を数値や観察所見で共有します。例えば「疲れたら」ではなく、歩行速度が明らかに落ちる、足部クリアランスが連続して低下する、返答が遅れる、息切れが強いなどです。

5.補助具は恐怖の証拠ではなく、課題を成立させる条件です

杖、歩行器、装具、手すりは代償手段です。代償を使うこと自体が悪いのではありません。生活範囲を広げ、安全に反復量を確保するために必要なことがあります。

一方、補助具が合っていない、屋内外で使い分けられない、片手で扉と杖を同時に扱えない場合は、新たな危険になります。補助具を使った速度、方向転換、段差、物品操作まで評価します。

安全条件・段階課題・振り返り・生活への転移をつなぐ

自宅や生活で気をつけること:避けた場面と転びかけを記録します

家庭では、転倒件数だけでなく、転びかけ、避けた活動、介助を増やした場面を記録します。転倒がゼロでも、外出と立位をすべて避けていれば、目標を達成したとは言えません。

短い記録には次を含めます。

  • 日時と場所
  • 何をしようとしていたか
  • 転倒、転びかけ、回避のどれか
  • 疲労、眠気、痛み、ふらつき
  • 履物、補助具、照明、床面
  • 誰がどの程度介助したか
  • その後に活動を減らしたか

夜間のトイレでは、動線、照明、履物、起立直後の症状、急いでいたかを確認します。屋外では、歩道の傾斜、段差、人混み、信号時間、荷物、天候を見ます。環境を整えることは、身体機能への介入と競合しません。

新しい神経症状、意識消失、胸痛、強い動悸、頭部打撲後の眠気や嘔吐、股関節や背部の強い痛み、立てないほどの痛みがある場合は、自己判断で練習を再開せず医療機関へ相談してください。

一方、家族だけの判断で長期間すべての活動を止める前に、担当者へ相談してください。安全にできる最小の活動を残し、成功条件を共有することが活動回避の連鎖を断つ手掛かりになります。

変化を見るアウトカム:転倒ゼロだけをゴールにしません

転倒恐怖への介入では、安全、能力、認識、活動を別々に追います。

安全と実際の出来事

  • 転倒件数、転びかけ件数、受傷の有無
  • 転倒時の活動、方向、場所、時間帯
  • 見守り・介助量、補助具の使用状況
  • 立位血圧、疼痛、薬剤、視覚など関連要因

身体能力

  • BBSまたはMini-BESTest
  • TUG、10m歩行、5回立ち上がり
  • 方向転換の歩数と時間
  • 反応性ステップの方向、回数、介助量
  • 本人の目標に直結する段差や屋外課題

本人の認識

  • FES-IまたはShort FES-I
  • ABC ScaleまたはABC-J
  • 場面別の予測不安と実施後の不安
  • 不安、抑うつ、注意、病識の所見

活動と参加

  • 一日の歩数と座位時間
  • 外出回数と生活空間
  • トイレ、入浴、買い物、公共交通など目標活動
  • 実施した活動と避けた活動
  • 家族の見守り・介助負担

転倒が減ったか、能力が変わったか、自信が変わったか、生活範囲が変わったかを別々に判定します。転倒が増えた場合も、外出量が大きく増えたのか、同じ活動量で増えたのかによって解釈が異なります。曝露量、つまり転倒し得る活動をどれだけ行ったかを併記します。

論文からどこまで言えるか:関連、短期効果、生活内転倒を分けます

現在の文献から、次は比較的支持されます。

  • 脳卒中後の転倒恐怖は、急性期と慢性期の両方で確認される重要な問題です。
  • 転倒歴、バランス能力、移動能力、不安、抑うつ、活動性などと関連する可能性が示されています。
  • FES-IやABC Scaleは、本人の転倒への懸念やバランスへの自信を測る選択肢です。
  • 運動介入は、介入直後の転倒恐怖を小さくする可能性が示されています。
  • 反応性バランス練習は、反応性姿勢制御を変える可能性があります。

一方、次はまだ断定できません。

  • 転倒恐怖が転倒を直接起こすこと
  • 一つの尺度得点だけで個人の転倒を予測できること
  • バランス得点が変われば自信も同じように変わること
  • 運動介入の短期効果が訓練終了後も保たれること
  • 反応性バランス練習だけで生活内転倒が減ること
  • すべての人に共通するABC ScaleやFES-Iの判定値

研究では、転倒恐怖の定義、病期、歩行能力、使用尺度、転倒記録法が異なります。数値を個人へ当てはめる前に、対象と測定条件を確認します。統計学的な関連を、個人の原因や介入適応へ直結させません。

ぱらゴリ的な見立て:怖さを説得で消さず、仮説を動作で確かめます

臨床で見落としやすいのは、本人が「怖い」と言った瞬間に、身体評価を止めることです。反対に、BBSや歩行速度だけを見て「これなら歩けます」と説得することも、本人の経験と生活環境を取りこぼします。

ぱらゴリとしては、次の順で考えます。

  1. 本人が避けている生活場面を一つ決めます。
  2. 医療的危険、身体能力、認知・感情、環境の原因候補を分けます。
  3. 原因候補へ優先順位をつけます。
  4. 手すり、補助具、介助、速度、照明などを一時的に変えて課題を試します。
  5. 成功に必要だった能力と代償を分けます。
  6. 反復できる難しさへ調整し、本人と予測・結果を振り返ります。
  7. 能力、自信、転倒、活動範囲を別々に再評価します。

例えば、杖と見守りで屋外を歩けたとしても、麻痺側立脚が変わったとは限りません。それでも、適切な代償によって外出が成立し、活動範囲が広がることには生活上の価値があります。回復を狙う課題と、生活を成立させる代償を分けて設計します。

転倒恐怖は本人の弱さではなく、評価すべき臨床情報です。安全性、能力、認識、生活場面へ分解すると、次に試す条件が見えてきます。

最後にもう一度、要点を整理します

  • 転倒恐怖と実際の転倒リスクは関連しますが、同じものではありません。
  • BBSなどの身体能力と、FES-IやABC Scaleによる本人の認識を分けて測ります。
  • 恐怖が低くても、注意障害や病識低下により転倒リスクが高い場合があります。
  • 恐怖が強い場合は、転倒歴、身体能力、不安、抑うつ、環境、家族介助を一組で見ます。
  • 運動介入の短期的な結果を、長期の活動維持や転倒減少と同じにしません。
  • 補助具と介助は、課題を安全に成立させる代償として設計します。
  • 回復させたい能力と、生活を成立させる代償を分けます。
  • 転倒、身体能力、自信、活動範囲を別々のアウトカムで追います。

「怖いから歩けない」と聞いたとき、励ます前に、何が怖く、どの瞬間に危険が生じ、どの条件なら実行できるかを確かめてください。恐怖を消すことではなく、本人が必要な生活場面を安全に扱える課題へ変えることが、臨床設計の出発点です。

参考文献

  1. Pin TW, et al. Association between fear of falling and falls following acute and chronic stroke: a systematic review with meta-analysis. J Rehabil Med. 2024;56:jrm18650. PMID: 38226564. DOI: 10.2340/jrm.v56.18650
  2. Xie Q, et al. Risk factors for fear of falling in stroke patients: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2022;12(6):e056340. PMID: 35772831. DOI: 10.1136/bmjopen-2021-056340
  3. Chiu CY, et al. Effect of physical exercise on fear of falling in patients with stroke: A systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2023;37(3):294-311. PMID: 36444416. DOI: 10.1177/02692155221135028
  4. Schmid AA, et al. Fear of falling in people with chronic stroke. Am J Occup Ther. 2015;69(3):6903350020. PMID: 25871606. DOI: 10.5014/ajot.2015.016253
  5. Schmid AA, et al. Fear of falling among people who have sustained a stroke: a 6-month longitudinal pilot study. Am J Occup Ther. 2011;65(2):125-132. PMID: 21476359. DOI: 10.5014/ajot.2011.000737
  6. Ishige S, et al. Reliability and validity of the Activities-specific Balance Confidence scale-Japanese in community-dwelling stroke survivors. Phys Ther Res. 2020;23(1):15-22. PMID: 32850274. DOI: 10.1298/ptr.E9982
  7. Kobayashi S, et al. The Validity, Responsiveness, and Interpretability of the Activities-specific Balance Confidence Scale in Patients with Subacute Stroke: A Preliminary Investigation. NeuroRehabilitation. 2025;57(1):88-97. PMID: 40368361. DOI: 10.1177/10538135251336059
  8. Mansfield A, et al. Does perturbation-based balance training prevent falls among individuals with chronic stroke? A randomised controlled trial. BMJ Open. 2018;8(8):e021510. PMID: 30121600. DOI: 10.1136/bmjopen-2018-021510
スポンサーリンク
脳機能

コメント