- 「麻痺があるから筋力が弱い」で、評価を止めていませんか?
- 結論!握力だけで決めず、筋量・筋力・身体機能・摂取を一組で見ます
- なぜそう見えるのか:脳卒中後の筋は「使えない」と「失われる」が重なります
- よくある勘違い1:麻痺側の握力が低ければ、サルコペニアではありません
- よくある勘違い2:ふくらはぎを測れば、筋量が確定するわけではありません
- よくある勘違い3:体重が減っていなければ、筋量も保たれているとは限りません
- 評価ではここを分ける:四段階で測定の意味をそろえます
- 臨床で使うならこう考える:所見の組み合わせで次の行動を変えます
- リハビリで設計すること:筋トレと栄養を別々の処方にしません
- 自宅や生活で気をつけること:体重だけでなく、食べる力と動く量を記録します
- 変化を見るアウトカム:筋量、筋力、活動、摂取を分けて追います
- 論文からどこまで言えるか:関連があっても、原因と効果は分けます
- ぱらゴリ的な見立て:数字を集める前に、どの仮説を確かめるか決めます
- 最後にもう一度、要点を整理します
- 参考文献
「麻痺があるから筋力が弱い」で、評価を止めていませんか?
立ち上がりの介助量が増えた。歩行練習を続けても疲れやすく、以前より反復回数が減った。体重も下がり、ズボンの太もも周りに余裕が出てきた。このような変化をすべて運動麻痺で説明すると、全身の筋量・筋力・身体機能が低下するサルコペニアを見落とす可能性があります。
一方で、麻痺側の握力や歩行速度が低いだけで「サルコペニア」と決めるのも正確ではありません。脳卒中では、皮質脊髄路を含む運動経路の損傷、共同運動、感覚障害、失行、疼痛、痙縮、装具、恐怖などが筋力検査や歩行速度へ影響します。運動麻痺とサルコペニアは重なり得ますが、同じ病態ではありません。
結論から言うと、脳卒中後のサルコペニアを考えるときは、次の四層を分けます。
- 局所の運動障害:麻痺側の随意性、共同運動、感覚、疼痛、可動域
- 全身の筋機能:握力、膝伸展力、立ち上がり、歩行など
- 筋量と体格:体重変化、下腿周径、BIAやDXAで測る骨格筋量
- 筋を失う背景:活動量、エネルギー・たんぱく質摂取、嚥下、炎症、併存疾患
サルコペニアの評価は、弱い筋を探す作業ではなく、局所の神経学的障害と全身性の筋量・筋機能低下を切り分ける作業です。
この記事では、若手PT・OTが「握力」「ふくらはぎ」「歩行速度」の数字をどう読み、栄養職・医師・看護師・STと何を共有し、運動課題をどう設計するかを整理します。
結論!握力だけで決めず、筋量・筋力・身体機能・摂取を一組で見ます
Asian Working Group for Sarcopenia 2019、以下AWGS 2019では、サルコペニアを筋量低下に加えて筋力低下または身体機能低下がある状態として扱います。一般的な基準では、握力、6m歩行速度、5回立ち上がり、SPPB、DXAまたはBIAによる四肢骨格筋量などを組み合わせます。
ただし、この枠組みは脳卒中特異的に作られたものではありません。2026年の脳卒中後サルコペニアのメタ解析は、31研究7357人をまとめ、研究ごとに診断基準、筋量測定法、測定する身体側が異なり、結果のばらつきが大きいと報告しました。診断を用いた研究の統合推定は37.2%、95%信頼区間30.7から44.2%でしたが、異質性はI² 97%でした。
この数値は「脳卒中者の約4割が必ずサルコペニア」という意味ではありません。対象の74.1%が入院環境で、研究の80.6%はアジアからの報告でした。有病割合の大きさより、測り方が統一されておらず、個人の診断を一つの検査へ任せられない点が重要です。

PT・OTの役割は、診断名を単独で確定することではありません。スクリーニングで疑いを見つけ、運動麻痺による測定上の偏りを記録し、筋量・栄養・嚥下・疾患の評価へつなぎます。
なぜそう見えるのか:脳卒中後の筋は「使えない」と「失われる」が重なります
脳卒中後の筋力低下には、中枢神経系の運動出力低下だけでなく、活動量低下、荷重量減少、運動単位の変化、筋線維組成の変化、炎症、栄養不足などが関わる可能性があります。麻痺側は随意収縮が弱く、立位や歩行で使われる量も減りやすいため、局所の筋萎縮が進むことがあります。
しかし、非麻痺側が正常とは限りません。HunnicuttとGregoryの系統的レビューは、慢性期脳卒中者15研究375人をまとめました。麻痺側は非麻痺側と比べて大腿筋サイズが約13%、下腿筋サイズが約5%、下肢除脂肪量が約8%小さく、底屈筋力は52%、膝伸展筋力は36%低いと推定されました。一方、年齢を合わせた対照と比べると、麻痺側だけでなく非麻痺側にも筋サイズと筋力の低下がありました。
このレビューは平均発症後60か月の慢性期を中心とし、筋サイズと筋力の測定法も一定ではありません。したがって、個人へその差を当てはめることはできません。それでも、左右差だけを見ると、全身性の筋機能低下を過小評価する可能性があることを示しています。
筋を失う背景も一つではありません。
- 発症前からの加齢性サルコペニア
- 発症後の臥床、座位時間の増加、歩数や荷重量の低下
- 嚥下障害、食欲低下、食事動作の困難、疲労による摂取不足
- 感染、炎症、心不全、腎疾患、糖尿病、悪性疾患などの併存
- 疼痛、痙縮、拘縮、呼吸循環の問題による運動量の制約
- 訓練量に対してエネルギー・たんぱく質摂取が不足する状態
発症前から存在したのか、脳卒中後に新しく進んだのかでも意味が異なります。Inoueらの系統的レビュー35研究では、推定有病割合は発症前15.8%、発症10日以内29.5%、10日から1か月51.6%でした。ただし、35研究中32研究がアジアの対象で、完全な身体機能評価まで行った研究は5研究だけでした。時間経過による増加は示唆されますが、同一人物を同じ方法で追った値ではないため、脳卒中後に全員の筋量が同じ速度で減るとは言えません。
よくある勘違い1:麻痺側の握力が低ければ、サルコペニアではありません
AWGS 2019は、低握力の基準を男性28kg未満、女性18kg未満としています。しかし、脳卒中者の麻痺側握力は、全身の筋力だけでなく運動麻痺、共同運動、感覚、失行、手指拘縮、疼痛の影響を強く受けます。
例えば、慢性期の歩行可能な脳卒中者28人を対象とした横断研究では、低握力に該当した割合は麻痺側96%、反対側25%でした。対象が少なく、診断基準による有病割合も18から25%と変わりました。同じ人でも測定側によって分類が大きく変わり得るため、握力の値だけを診断名へ直結させてはいけません。
実際の記録では、少なくとも次を残します。
- 測定側と利き手
- 手関節・手指の可動域と疼痛
- FMA上肢など随意性の所見
- 共同運動や痙縮が把持に与える影響
- 検査指示の理解、失行、注意の影響
- 体幹や肩甲帯を含む測定姿勢
- 最高値だけでなく試行間のばらつき
非麻痺側握力は全身筋力の手掛かりになりますが、発症前の利き手、非麻痺側の整形外科疾患、痛み、疲労の影響を受けます。握力が測れないことを「筋力ゼロ」と記録せず、なぜ標準測定が成立しなかったかを残します。
よくある勘違い2:ふくらはぎを測れば、筋量が確定するわけではありません
下腿周径は短時間で実施でき、筋量低下のスクリーニングに役立ちます。AWGS 2019は一般的なスクリーニング値として男性34cm未満、女性33cm未満を示しています。一方、脳卒中者では麻痺側と非麻痺側のどちらを測るかが問題になります。
Nishiokaらは、日本の回復期リハビリ病棟の脳卒中者408人を後ろ向きに調べ、非麻痺側下腿周径とBIAによる低骨格筋量を比較しました。この集団で得られた最適値は男性33cm、女性32cmで、感度は男性0.798、女性0.847、特異度は男性0.840、女性0.818でした。これは一施設のアジア人入院集団で得られた値であり、地域在住者や急性期、慢性期へそのまま移せません。
さらに2026年の予備的横断研究は、慢性期脳卒中者62人でSARC-CalFを用い、麻痺側測定では31%、非麻痺側では18%がスクリーニング陽性になったと報告しました。これは麻痺側の局所筋減少を拾う可能性を示しますが、62人の横断研究であり、どちら側が全身性サルコペニアの診断に優れるかを確定するものではありません。
したがって臨床では、最初から片側だけを正解と決めず、可能なら両側を同じ姿勢・同じ位置で測ります。浮腫、下腿の筋緊張、装具圧迫、静脈疾患、肥満、測定姿勢が周径へ影響します。下腿周径は筋量そのものではなく、筋量低下の可能性を探す代理指標です。
よくある勘違い3:体重が減っていなければ、筋量も保たれているとは限りません
体重は筋、脂肪、水分、骨などの合計です。浮腫が増えれば筋量が減っていても体重が保たれることがあります。反対に、利尿や脱水で体重が減っても、それが短期間の筋量低下とは限りません。BMIが標準範囲でも、筋量低下と脂肪量増加が同時に起こる可能性があります。
BIAは電気抵抗から体組成を推定するため、水分状態、食事、排泄、測定時刻、浮腫の影響を受けます。DXAも直接筋組織を測るのではなく、除脂肪軟部組織を評価します。数値だけを絶対視せず、同じ条件での経時変化と、筋力・身体機能の変化を組み合わせます。
体重、BMI、下腿周径、BIAやDXAは役割が違います。一つが正常でも、他の評価を省略しません。
評価ではここを分ける:四段階で測定の意味をそろえます
1.まず、急な筋力・体重低下の緊急性を確認します
数日から数週で立てなくなった、食事や水分が取れない、発熱や息切れがある、黒色便や持続する下痢・嘔吐がある、意識や神経症状が変わった場合は、通常の筋力練習を増やす前に医療評価へつなぎます。
新しい片側の筋力低下は脳卒中再発を含む緊急性があります。全身の脱力でも、感染、心不全、電解質異常、貧血、低血糖、薬剤などを除外できません。PT・OTは原因を断定せず、発症時期、体重・摂取・活動の変化、バイタル、随伴症状を具体的に共有します。
2.局所の神経学的障害と、全身の筋機能を分けます
麻痺側では、FMA、選択的運動、痙縮、感覚、可動域、疼痛を確認します。同時に、非麻痺側を含む握力、膝伸展力、座位保持、立ち上がり、歩行などを見ます。
| 評価領域 | 見るもの | 脳卒中後の注意 |
|---|---|---|
| 局所の運動障害 | FMA、選択的運動、共同運動 | 筋量低下とは別に記録します |
| 筋力 | 握力、膝伸展力、反復立ち上がり | 測定側、疼痛、理解、代償を残します |
| 身体機能 | 5回立ち上がり、SPPB、歩行速度 | 麻痺・装具・介助量が結果へ影響します |
| 筋量 | 下腿周径、BIA、DXA | 浮腫、水分、測定側、測定条件を残します |
| 栄養・摂取 | 体重推移、食事量、嚥下、口腔 | 必要時に医師・管理栄養士・STへつなぎます |
歩行速度が遅いことは重要な活動制限ですが、サルコペニアだけの指標ではありません。麻痺、失調、感覚障害、半側空間無視、装具、恐怖、循環反応を併記します。
3.筋を失う原因候補を時間軸で並べます
発症前の体重、歩行、食事、買い物、家事、転倒、握力の情報があれば確認します。発症後は、安静期間、離床時期、歩数、訓練量、食事摂取割合、嚥下状態、炎症、薬剤、便通、睡眠を並べます。
食事量は「全量」「半分」だけでなく、主食と主菜の差、むせ、食事時間、疲労、片手操作、注意障害、食欲を確認します。OTは食事動作と環境、STは嚥下と食形態、管理栄養士は必要量と実摂取、看護師は一日の摂取と排泄、医師は疾患と薬剤を評価します。
訓練量を増やす判断と、摂取不足を補う判断は同時に検討します。運動刺激があっても回復に必要なエネルギーや栄養が不足していれば、疲労や体重低下が進む可能性があります。
4.短時間の試行で、課題に必要な能力を確かめます
例えば立ち上がりが難しい場合、座面を上げる、上肢支持を許可する、足部位置を変える、反復回数を減らすなど、一つずつ条件を変えます。成功回数、介助量、動作速度、膝折れ、呼吸、疼痛、自覚的運動強度を確認します。
ここで動作が成立しても、筋量が増えたとは言えません。運動学習や代償で遂行が変わった可能性があります。反対に、筋量や筋力の数値が変わっても、生活課題へ転移しなければ活動の成果とは言えません。機能回復、代償による遂行、筋量変化を別のアウトカムとして記録します。

臨床で使うならこう考える:所見の組み合わせで次の行動を変えます
麻痺側だけ弱く、筋量と非麻痺側機能が保たれている場合
局所の運動障害の優先度が上がります。選択的運動、感覚、関節可動域、課題特異性を評価し、必要な運動出力を課題の中で反復します。ただし、活動量が少ない状態が続けば全身性の低下へ移る可能性があるため、体重、摂取、非麻痺側筋力も経時的に追います。
両側の筋力・身体機能が低く、体重や筋量も低下している場合
サルコペニアや低栄養の可能性を医療チームで評価します。抵抗運動だけを追加せず、嚥下、食事量、必要エネルギー、炎症、併存疾患、疲労を確認します。運動は全身性の筋群と生活課題をつなぎ、栄養計画と同じ時間軸で再評価します。
筋量が低いが、筋力と生活動作が保たれている場合
一回のBIA値だけで重症度を決めません。水分状態、浮腫、測定条件を確認し、別日に再測定します。発症前から小柄だった可能性もあります。筋力、身体機能、体重推移、摂取を合わせ、低筋量が生活上の脆弱性へつながっているかを見ます。
筋力が低いが、筋量が保たれている場合
運動麻痺、疼痛、失行、理解、心肺機能、疲労、抑うつなどを検討します。筋量があることは、十分な神経駆動や課題遂行を保証しません。筋量と筋力を同義にせず、神経系と筋系の両方を評価します。
リハビリで設計すること:筋トレと栄養を別々の処方にしません
1.全身の筋へ届く抵抗課題を選びます
慢性期脳卒中者の抵抗運動を扱った2024年のメタ解析は、RCT 10研究378人を統合し、筋力に中等度の効果量を報告しました。全体の標準化平均差は0.60、95%信頼区間0.47から0.72、I² 51%でした。慢性期に限った推定は0.68、95%信頼区間0.55から0.81でした。
これは「どの筋トレでも同じ結果になる」という意味ではありません。研究ごとに運動内容、強度、期間、対象が異なり、標準化平均差はkgや歩行速度のような直接的な単位ではありません。また、筋力の向上がそのまま筋量増加や生活動作の変化を保証するわけではありません。
臨床では、立ち上がり、ブリッジ、レッグプレス、ステップ、物品運搬、上肢の押す・引くなど、本人の目標につながる課題を選びます。反復の最後までフォームと安全が保てるか、自覚的運動強度、血圧、呼吸、疼痛、代償を見て負荷を調整します。
2.麻痺側と非麻痺側の役割を決めます
非麻痺側だけで回数を達成すると、移動は速くなっても麻痺側へ必要な負荷が入らないことがあります。反対に、左右対称を強制して課題が成立しなければ、全身の運動量を確保できません。
目標が麻痺側の運動出力なら、支持位置、装具、速度、介助方向を調整して麻痺側の寄与を測ります。目標が全身持久性やエネルギー消費なら、安全な代償を許可する場面もあります。何を回復させたい課題か、何を代償として許可するかを先に決めます。
3.栄養介入は自己判断のサプリではなく、必要量と摂取可能性から考えます
YoshimuraらのRCTは、サルコペニアを有する高齢の脳卒中者44人を対象に8週間実施しました。両群が通常リハビリと低強度抵抗運動を行い、介入群21人はロイシン強化アミノ酸補助を受け、対照群23人は受けませんでした。介入群では対照群よりFIM運動項目、握力、BIAによる骨格筋量指数の変化が大きく、骨格筋量指数の群間推定差中央値は0.50kg/m²、95%信頼区間0.01から2.11でした。
ただし、小規模な一施設研究で、対照群にプラセボはなく、食品企業所属の著者も含まれます。対象はサルコペニアを有する高齢入院者であり、すべての脳卒中者に同じサプリメントを勧める根拠ではありません。腎機能、食事全体、嚥下、薬剤、アレルギーを無視して自己判断で摂取しません。
2025年の多施設RCTでは、初回の亜急性期脳卒中者91人が同じ包括的入院リハビリを受け、介入群43人には3週間、通常栄養に加えて静脈から1日500kcalが追加されました。modified Barthel Indexと栄養リスク指標には時間と介入の小さな交互作用がありましたが、介入群の脱落率は20%、対照群は2%でした。静脈栄養の忍容性にも課題があり、この結果を経口栄養やサルコペニアの治療効果へ直接置き換えられません。
文献が示すのは、運動と栄養を同じ計画で扱う必要性です。特定の栄養剤を全員へ追加することではありません。
4.反復量は「できた回数」ではなく、回復可能な負荷で決めます
初回は少ないセットで反応を確認します。翌日まで残る強い疼痛、極端な疲労、食欲低下、睡眠悪化、活動量低下があれば、負荷量、休息、時間帯、栄養摂取を見直します。筋肉痛の有無を効果判定にしません。
負荷を上げるときは、抵抗、回数、セット、速度、支持量、課題の複雑さのうち一つを変えます。測定条件を揃え、同じ課題で速度や介助量がどう変わったかを見ます。
5.獲得した力を生活課題へつなぎます
レッグプレスの値だけが上がっても、トイレ移乗、床からの立ち上がり、屋外歩行、買い物へつながらない場合があります。筋力課題の後に、本人が必要とする立ち上がり、段差、方向転換、物品運搬などを練習します。

自宅や生活で気をつけること:体重だけでなく、食べる力と動く量を記録します
家庭では、毎日の体重だけで筋量を判断しません。同じ曜日・時刻・衣服など、できる範囲で条件を揃えて週単位の傾向を見ます。食事量、食事時間、むせ、疲労、発熱、下痢、浮腫、歩数や外出回数も記録します。
次の変化があれば、主治医やリハビリ担当者へ相談します。
- 意図しない体重低下が続く
- 食事量が急に減った、食事に長時間かかる
- むせ、湿った声、発熱がある
- 数日から数週で立ち上がりや歩行の介助量が増えた
- 下腿や足のむくみが急に増えた
- 強い倦怠感、息切れ、動悸、胸痛がある
高齢者や腎疾患、心不全、糖尿病がある人は、たんぱく質やエネルギーを自己判断で増やさないでください。市販のプロテインやアミノ酸も、通常の食事、嚥下、腎機能、服薬との関係を確認します。
一方で、転倒を恐れて一日中座る状態も筋への刺激を減らします。安全な立ち上がり回数、短い歩行、家事の一部など、実行できる活動をPT・OTと決めます。食べることと動くことを別の目標にせず、一日の中で両方が成立する方法を探します。
変化を見るアウトカム:筋量、筋力、活動、摂取を分けて追います
アウトカムは一つに絞りません。目的ごとに次を組み合わせます。
筋量と体格
- 体重とBMIの推移
- 左右の下腿周径と測定条件
- BIAまたはDXAによる四肢骨格筋量
- 浮腫、水分、食事、排泄、測定時刻
筋力と身体機能
- 測定側を明記した握力
- 膝伸展力など課題に必要な筋力
- 5回立ち上がり、SPPB、歩行速度
- 反復回数、動作速度、介助量、自覚的運動強度
活動と参加
- FIMまたはBarthel Indexの該当項目
- トイレ移乗、入浴、調理、買い物など本人の生活目標
- 転倒、ヒヤリハット、外出回数
- 一日の座位時間、歩数、運動実施率
栄養と安全
- 食事摂取割合と主食・主菜の内訳
- 食事時間、嚥下症状、食欲
- 疲労、疼痛、睡眠、消化器症状
- 炎症や臓器機能など医療側の評価
筋量が増えたか、力が出たか、生活で使えたか、必要な摂取ができたかを別々に判定します。歩行が速くなったときも、麻痺側の運動制御が変わったのか、非麻痺側の代償が増えたのか、全身筋力が変わったのかを再評価します。
論文からどこまで言えるか:関連があっても、原因と効果は分けます
Naganoらは、回復期リハビリ病棟へ入院した脳卒中者272人の後ろ向きコホートで、120人、44%をサルコペニアと分類しました。入院中の骨格筋量指数の変化は、退院時FIM運動項目とFIM運動利得に統計学的に関連しました。しかし、観察研究であり、筋量増加がFIM変化を直接引き起こしたとは証明できません。活動が増えた人ほど筋量も増えた可能性があります。
Satoらの観察研究は、サルコペニアを有する急性期脳卒中者140人、平均82.6歳を、エネルギー摂取の充足・不足とリハビリ時間の長短で4群に分けました。十分な摂取と長いリハビリ時間の組み合わせはFIM運動利得と独立して関連しましたが、無作為化試験ではありません。重症度、食欲、治療方針など測りきれない交絡が残ります。
現在の文献から、次は比較的支持されます。
- 脳卒中後にサルコペニアと分類される人は少なくありません。
- 麻痺側だけでなく、非麻痺側や全身の筋機能低下にも注意が必要です。
- 抵抗運動は、特に慢性期脳卒中者の筋力に有益な可能性が示されています。
- サルコペニアを有する一部の入院者では、運動と栄養を組み合わせた小規模RCTの有益な結果があります。
- 測定側、診断基準、筋量測定法が研究間で異なり、個人評価には標準化と臨床的解釈が必要です。
一方、次はまだ断定できません。
- 脳卒中者に最適な握力・下腿周径の測定側
- すべての病期に共通する診断基準
- 特定のサプリメントを全員に勧めること
- 筋量増加だけで生活動作や参加が変わること
- 一つの抵抗運動プログラムが全員に適すること
ぱらゴリ的な見立て:数字を集める前に、どの仮説を確かめるか決めます
臨床で見落としやすいのは、麻痺側の弱さを詳しく見るほど、非麻痺側を含む全身性の低下と摂取不足が背景へ退くことです。反対に、「サルコペニア」という言葉を覚えた直後は、握力や下腿周径の閾値だけで人を分類しがちです。
ぱらゴリとしては、次の順で考えます。
- 生活上の問題を特定します。立ち上がれない、歩行距離が落ちた、食事で疲れるなどです。
- 局所の運動障害、全身筋力、筋量、摂取の仮説を分けます。
- 優先順位をつけ、座面高や支持量などを変えて課題を一時的に成立させます。
- 成立に必要だった能力を分析し、抵抗運動と生活課題を設計します。
- 管理栄養士、ST、看護師、医師と、摂取・嚥下・疾患の条件を揃えます。
- 筋量、筋力、動作、摂取を別々のアウトカムで再評価します。
サルコペニアという診断名は介入そのものではありません。原因候補を分け、必要な能力と摂取条件を揃え、反応を確かめるための出発点です。
最後にもう一度、要点を整理します
- 運動麻痺とサルコペニアは重なり得ますが、同じ病態ではありません。
- 麻痺側握力や歩行速度だけでサルコペニアを決めません。
- 筋量、筋力、身体機能、体重・摂取、測定側を一組で確認します。
- 非麻痺側も年齢を合わせた対照より弱い可能性があり、左右差だけでは全身性低下を見落とします。
- 下腿周径は便利なスクリーニングですが、浮腫、姿勢、測定側の影響を受けます。
- 抵抗運動は本人の生活課題へつなぎ、負荷と回復を記録します。
- 栄養補助は全員に一律で勧めず、医師・管理栄養士・STを含むチームで判断します。
- 筋量、筋力、動作、摂取を別のアウトカムとして再評価します。
脳卒中後の筋力低下を見たとき、「麻痺だから」で止まらず、「全身の筋と摂取はどうか」を一段加えてください。その一段が、練習量だけを増やす介入から、原因に合わせた課題設計へ切り替える手掛かりになります。
参考文献
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