こんにちは、ぱらゴリです。
私の本業は理学療法士として急性期〜慢性期までの全ての期間で
脳卒中リハビリテーションをしております。
みなさん「歩行」の専門職として見られますが、「歩行」について運動学的に説明できますか?
歩行の中には様々な要素があり、その中でもPerryさんが提唱した「ロッカー機構(ロッカーファンクション)」という要素が必要不可欠である!と考えられています。
学校でも習いましたが、実際にロッカー機構っていつ、どんなことをやっているのか説明できますか
今回は、
ロッカー機構って何?
ロッカー機構とは、簡単に説明すると
「足部を軸にしてスムーズに前に進むための戦略」です。
- ヒールロッカー(踵ロッカー)(IC〜LR)
- アンクルロッカー(足関節ロッカー)(Mst)
- フォアフットロッカー(前足部ロッカー)(Tst)
- トゥロッカー(つま先ロッカー)(Psw)
の4種類があります。一つ一つ説明していきます。
ヒールロッカー
ヒールロッカーは初期接地から踵が接地することで、踵を軸に落下する足部を前脛骨筋でコントロールしながら、脛骨を前方に倒していき、「衝撃吸収」と「前方推進」に関与する大事な機構です。
要素としては
①足部の落下→前脛骨筋の遠心性収縮で制御
②足を軸に前脛骨筋が下腿を前傾させる
③それに追従して大腿骨を前傾→大腿四頭筋の遠心性収縮(起始が停止に近くこと)
です。
踵接地が始まりになるため、踵接地は必須の条件になります。
前脛骨筋が働きにくい片麻痺の方には、短下肢装具(AFO)が処方されるのは、「踵接地が重要だから」という理由もあります。しかし、AFOを使っても踵接地ができない方がほとんどではないでしょうか?
それは下腿傾斜角度(Shank to vertical angle)が重要であるとも言われています。むしろこっちの方が重要なのでは!という方もいらっしゃいます。
ではこの下腿傾斜角度がなぜ減ってしまうのでしょうか。それはMSwからTswにかけての膝伸展運動が減少していることが一つの原因であると考えられています。
ハムストリングスの過緊張や、非麻痺側下肢の支持性低下(体幹側屈や膝の屈曲)など様々な要因が考えられます。踵接地しないから、と初期背屈角度を増やしてしまうと今度は「膝折れ」や「Back knee」に繋がってしまうため、局部だけでなくできるだけ広い視野を持ちましょう。
ではヒールロッカーはどんな役割を持つのか・・・?
衝撃吸収ですね。前方にスピードを落とさずに進むためには、踵接地だけでなく前脛骨筋、大腿四頭筋の遠心性収縮が必須ですね!
アンクルロッカー
アンクルロッカーは、足部が地面に固定された状態で足関節を軸に下腿が前傾、前進し続けることで重心を高い位置に維持しながら進むことができるように働きます。
①大腿広筋群の遠心性収縮によってさらに大腿骨の前傾
②それに追従して下肢全体が前傾
③ヒラメ筋が遠心性収縮し倒れるのをブレーキ
④結果として足部を支点に体が前に進んでいく
といったことが起こっています。ここで問題となるのが、「膝折れ」や「Back knee」です。
「大腿四頭筋が弱いから」というのも確かにあります。ただ弱いから、で片付けてしまうと「単関節トレーニングで鍛える」を選択してしまいがちです。
でもなかなかよくならない、なんてことは良くありませんか?
それは、「大腿四頭筋の特に広筋群が遠心性収縮できる」ことが重要ですし、同時に「下腿三頭筋が遠心性収縮できる」ことが重要になります。
なので、一部だけを単関節トレーニングで鍛えて歩行が変わる、という発想はやめましょう。(自戒を込めて)
また、AFOの設定も有用になります。プラスチックAFOを選択し背屈運動を制限してしまうと、下腿が前傾しませんよね。そうすることで「Back kneeでなんとか骨盤〜体幹を前方へ進めよう」とする可能性があります。背屈は極力制限しないことが、全て正解ではありませんが極力Freeにしてあげることを推奨します。
足関節の背屈制限を作らないようにすることも重要ですね。
フォアフットロッカー
回転の軸が、前足部にうつっていきさらに前方に推進していくために働きます。
ここでは身体重心が最高に達したのち、下降していくタイミングです。
1. 下腿三頭筋が遠心性収縮し下腿と足部を固定したまま
2. 前足部を支点にかかとを持ち上げ
3. 重心を高い位置で極力保ち、
4. 遊脚期に向けてクリアランスと前方推進力を下腿三頭筋が作り出す!
働きがあります。
筋肉と腱の複合体が伸ばされることで遠心性収縮を作り出していますが、SSC(ストレッチショートニングサイクル)に基づいて、Ib促通により伸ばされた筋肉が強い力で収縮します。
これにより蹴りだしの原動力を準備していると考えれられます。
Ib感覚は本来であれば主動作筋の筋緊張を抑制しますが、歩行中は促通し強い収縮力を作り出す、と考えられています。
プラスチックのシューホーンブレースであれば、下腿三頭筋の遠心性収縮による足部の固定を作り出すことができるかもしれませんが、下腿がどれだけ強く倒れていくかが重要になってしまうためなかなか脳卒中の方では難しいかもしれませんね。健常者が履いても歩きにくいわけなので・・・。
またこの時に足部がいかに後方に引けるか、が重要となる理由の一つとして「大腰筋の伸張」があります。
フォアフットロッカーが働き下肢全体が前足部を支点に伸展位になることで、床半力が股関節の後方を通ります。それにより床は股関節をさらに進展させようと働きますが、これを大腰筋の伸張によって制御することができます。それに伴い、下肢を軸に腰椎伸展を保証する働きもあります。
さらにもっと重要なのが、ここで大腰筋が伸張されることで、床から足部を離れた瞬間にSSCにより下肢を降り出すことができるためのエネルギーを蓄えているとも考えられますね。
この時にTLA(トレイリング肢位の角度)が重要であると言われています。しかしTLAそのものにも限界があり、急速な股関節伸展は大腿直筋などの二関節筋の反射性の収縮を強めてしまい、今度は遊脚期に膝が曲がらない、などの影響にも繋がるため注意が必要ですね。
トゥロッカー
足部内在筋の働きにくい脳卒中の方にここまで求めることは難しいかもしれません。装具を使用していると、トゥロッカーを作り出すことは難しいです。
トゥロッカーはPswにおいて前足部内側と拇趾が下肢を加速して、前進するための支点として下腿三頭筋が蹴り出しを行うタイミングになります。
足関節は背屈10度から底屈15度、足趾は約50度以上伸展することになります。
ここで重要なのが、下腿三頭筋の弾性エネルギーによって振り出す下肢のPush offです。
Push offができなければ遊脚期における膝の屈曲ができず、足先の引っ掛かりに繋がってしまいます。またここで下腿三頭筋が強い収縮をすることで、「反回抑制」により今度は下腿三頭筋が抑制されることで、前脛骨筋が働きやすくなります。
またここでは大腰筋による股関節屈曲(Pull off)も重要になります。
Push offとPull offはお互いにトレードオフの関係にあると考えられます。なぜならどちらかが破綻することで、その片方も正常には行えなくなることは明白であるからです。
Pull offに目がいってしまうと、シューホーンブレースを使って底屈制動や制限をしてしまいがちですが、これではPush offができませんよね。タマラック継手も同様です。またゲートソリューションはヒールロッカーには有効ですが、どうしてもアンクルロッカー、トゥロッカーにはマイナスに働いてしまいます。ただ完全に制限していないだけ良いのかもしれません。
まとめ
ロッカー機構について、できるだけ簡単に説明させていただきました。
学校教育でも習う内容ですが、どんな役割があるのかまでは私は覚えてませんでした!
装具を選定していく際にも知っておかなければならない機構です。
実際には、もっと複合的な要素がありますが装具により自由度をコントロールすることで歩きやすくなることは明白です。しっかりと理解できるようにしましょう!
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