脳卒中後の反張膝:膝折れと混同してはいけない理由【若手PT向け臨床推論】

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「膝が不安定」の一言でまとめていませんか?

膝折れと反張膝は、どちらも「立脚期に膝が不安定になる」という共通点があります。しかし病態はまったく異なります。

膝折れは膝が屈曲方向に崩れる現象。反張膝は膝が過伸展方向に崩れる現象。介入の方向性が逆になることもあります。

にもかかわらず、「膝が不安定だから大腿四頭筋を強化する」という一律の介入が行われているケースが後を絶ちません。

この記事では、脳卒中後の反張膝を病態から整理し、膝折れとの違い・3つの原因・評価の考え方を解説します。


結論から言うと

脳卒中後の反張膝は、以下3つのメカニズムのいずれかまたは組み合わせで生じます。

  1. 大腿四頭筋の痙縮・過活動(立脚期に膝を後方へ押し出す)
  2. 足関節底屈拘縮・下腿三頭筋痙縮(下腿が前傾できず膝が後方へ移動する)
  3. 固有感覚障害による代償(膝を伸展ロックして安定を確保しようとする)

いずれも「代償パターン」です。原因を特定して根本から介入しない限り、反張膝は変わりません。

反張膝の3つの原因:概要インフォグラフィック


反張膝とは何か:歩行周期の中で整理する

正常歩行では、立脚中期の膝関節は約0〜5°の軽度屈曲位を保ちます。これにより体重を吸収しながら重心を前方へ移動させています。

反張膝(Genu recurvatum)は、この立脚中期において膝が10°以上の過伸展位をとる状態を指します。Perry & Burnfield(2010)の分類では、立脚中期の過伸展を”recurvatum”として定義し、主に下腿三頭筋の過活動と足関節の動態異常が関与するとされています。

脳卒中後の反張膝は単なる「膝の問題」ではなく、足関節・股関節・体幹を含めたシステム全体の代償として理解する必要があります。


原因1:大腿四頭筋の痙縮・過活動

錐体路障害後の興奮性亢進により、大腿四頭筋が立脚期を通じて過活動となります。本来であれば立脚中期に向けて大腿四頭筋の活動は低下するべきですが、この調整が失われると膝が過伸展方向へ押し出されます。

筋力低下(膝折れの原因)とは逆に、過剰な筋出力が問題です。

評価のポイント:
– MAS(Modified Ashworth Scale)で大腿四頭筋の痙縮を評価
– 立脚中期〜後期の膝過伸展角度を観察(10°以上で要注意)
– 徒手抵抗での伸展方向への抵抗感を確認

介入の方向性:
– 痙縮管理(ボツリヌス療法・ストレッチ・splinting)
– 立脚期の膝屈曲を誘導する課題(ゆっくりした降段・スロースクワット)
– 大腿四頭筋への直接的な筋力強化は禁忌に近い

大腿四頭筋の痙縮・過活動と反張膝


原因2:足関節底屈拘縮・下腿三頭筋痙縮

見落とされやすい、しかし非常に多い原因です。

足関節の背屈可動域が制限されている、または下腿三頭筋の痙縮が強い場合、初期接地で踵が接地できません。踵接地がないと下腿の前傾が起こらず、立脚中期に膝が前方へ移動できなくなります。その結果、膝は後方へ押し出される形で過伸展位をとります。

この場合、膝自体には直接的な問題がないにもかかわらず、歩行観察では反張膝として観察されます。

評価のポイント:
– 背屈ROM測定(膝屈曲位と伸展位の両方で計測し、腓腹筋とヒラメ筋を区別する)
– 下腿三頭筋MAS
– 初期接地パターンの観察(踵接地か、つま先接地か)
– 足底圧の分布(踵への荷重が得られているか)

介入の方向性:
– 底屈拘縮への介入(ROM練習・夜間splinting・ボツリヌス療法)
– 踵接地を誘導する課題設定(ゆっくりした歩行・テープによる感覚入力)
– 短下肢装具(AFO)の適応検討

足関節底屈拘縮が引き起こす反張膝


原因3:固有感覚障害による代償

固有感覚障害がある場合、膝関節の位置・荷重情報が不正確になります。その代償として、患者さんは無意識に膝を完全伸展位でロックすることで安定を確保しようとします。

これは能動的な「安全戦略」ですが、繰り返されることで反張膝のパターンが強化されます。

膝折れの固有感覚障害と原因は同じですが、代償の方向性が逆になっています。

評価のポイント:
– 閉眼での膝関節位置覚テスト
– 視覚遮断で過伸展が増悪するかの確認
– 立脚期の「力んだような過伸展」の観察(能動的ロックの特徴)

介入の方向性:
– 感覚入力の増強(振動刺激・テーピング)
– 膝軽度屈曲位での荷重練習(正確な位置での安定を学習させる)
– 視覚フィードバックを段階的に減らす練習


膝折れ vs 反張膝:比較で整理する

項目 膝折れ 反張膝
方向 屈曲方向に崩れる 過伸展方向に崩れる
代表的原因 筋力低下・固有感覚障害 痙縮・足関節拘縮・固有感覚代償
大腿四頭筋への介入 強化が有効なことが多い 強化が逆効果になりうる
装具の方向性 膝伸展補助 過伸展制御

この表が示す通り、同じ「膝の不安定性」でも介入の方向が逆になります。評価なしに介入を決めることの危険性がここに集約されています。


よくある誤解:「反張膝は安定しているからまだいい」

反張膝があっても歩けている場合、「とりあえず歩けているから大丈夫」と判断されることがあります。しかしこの判断は危険です。

反張膝は立脚期に膝関節後方の関節包・後十字靭帯・膝窩部の軟部組織に慢性的なストレスをかけ続けます。長期的には疼痛・変形の原因となる可能性があります。また代償パターンの固定化は、機能回復の余地を狭めます。

「歩けている」と「正しく歩けている」は別の話です。


まとめ

膝折れ vs 反張膝 比較チャート

反張膝の3原因と評価の核心:

原因 主なメカニズム 評価の核心
大腿四頭筋痙縮・過活動 立脚期の膝過伸展方向への過活動 MAS・立脚期膝角度観察
足関節底屈拘縮・痙縮 踵接地不全→下腿前傾障害→膝後方移動 背屈ROM・初期接地パターン
固有感覚障害による代償 膝伸展ロックによる安定化戦略 位置覚テスト・視覚遮断変化

「膝が不安定」を見たとき、まず問うべきは「どちらの方向に崩れているか」です。方向が分かれば原因の仮説が立ち、評価で検証できます。

反張膝の評価フロー


参考文献

  1. Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2nd ed. Thorofare, NJ: SLACK Incorporated; 2010.
  2. Beyaert C, Vasa R, Frykberg GE. Gait post-stroke: Pathophysiology and rehabilitation strategies. Neurophysiol Clin. 2015;45(4-5):335-355.
  3. Kerrigan DC, Roth RS, Riley PO. The modelling of adult spastic paretic stiff-legged gait swing period based on actual kinematic data. Gait Posture. 1998;7(2):117-124.
  4. Lamontagne A, Malouin F, Richards CL. Contribution of passive stiffness to ankle plantarflexor moment during walking after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2000;81(3):351-358.
  5. Hsu AL, Tang PF, Jan MH. Analysis of impairments influencing gait velocity and asymmetry of hemiplegic patients after mild to moderate stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(8):1185-1193.
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