こんにちは、ぱらゴリです。
私は理学療法士として急性期〜慢性期までの全ての期間で
脳卒中リハビリテーションをしております。
みなさんCPGってご存知ですか?
よくPTさんが、「CPGを賦活するために、長下肢装具で前型で前足部荷重を促してます!」と、言っているのを聞いたりしませんか…。
そこでみなさんが疑問に思っている(であろう)
CPGとは?
CPGとは、
の略になります。
CPGは、「感覚入力や上位中枢からの神経指令なしに周期的な運動パターンを生成する神経回路網」と定義されます。呼吸や心臓などが代表的ですよね。
しかし、歩行においては感覚情報が重要な役割を果たす可能性が明らかにされています。
役割
- 高位中枢の負担を軽減する(大脳皮質の負担軽減)
- 歩行以外の情報処理に大脳を使える様にする(歩行の自動化)
が考えられています。
3〜4歩目位までは、随意的(上位中枢)な要素での歩行になりますが、それ以降はCPG(中位中枢)を積極的に用いた自動的な歩行が行われると考えられています。CPGを積極的に用いていくことで、大脳皮質を歩行以外の注意であったり、Task(課題)に用いていくことができる可能性があります。
どこにあるのか?
歩行CPGは、どこに存在しているのでしょうか。
それは脊髄に内在していると考えられています。
ネコやイヌの脊髄を上位中枢から切り離した後でも 後肢に屈筋-伸筋の周期的な筋活動とステッピング運 動が発現することは良く知られている。
脳からの命令なしに歩行が可能である、という事実は一見驚くべきことのように思われるが、高次の脳機能を持たない下 等動物であっても移動運動を実現していることを考えれば、これらの運動が脊髄レベルの制御で実現されていることは容易に理解できるであろう。
引用:河島則天「歩行運動における脊髄神経回路の役割」,2010年
このことから、上位中枢と脊髄運動ニューロンの中間におそらく存在しているであろうことが推測されます。
左の図は、CPGの存在を明らかにした実践の概要です。
腰髄レベルに脊髄硬膜外刺激を実施したところ、麻痺した下肢に歩行に類似した屈筋ー伸筋の交互の筋活動が認められたそうです。このことから、CPGの存在がより明らかになってきました。
右の図では脊髄損傷者を免荷し、トレッドミル上で歩行運動を受動的に行ったところ、歩行周期に同調した筋活動が得られたそうです。
このことから、歩行CPGは上位からの指令を伴わずとも、末梢からの感覚情報に基づいて駆動することが示唆されました。
駆動するための感覚情報
CPGを駆動するために必要な末梢からの感覚情報には何があるのでしょうか。
結論ですが、
- 股関節伸展(大腰筋の伸張感覚)
- 下腿三頭筋腱の伸張(Ib感覚の入力)
- 足底荷重(メカノレセプターの刺激)
- リズミカルな歩行(120Hz)
- 上肢のSwing
と考えられており、特に1〜3が重要であると考えています。
これらの感覚は、表在・深部感覚などとは異なり、意識に昇らない感覚です。
つまり、脊髄ー脳幹ー小脳で入力・処理され筋緊張の維持(脳幹)や運動の補正(小脳)などに用いられているものになります。
また大脳にも上行し、「巧緻運動」や「身体図式の生成」にも貢献していると考えられています。
Half Center理論
歩行は屈筋と伸筋の交互運動によって行われていますよね。
交互運動は「Half Center」という部分で切り替わっていると考えられています。
ではHalf Centerがスイッチするには、どんな感覚が用いられているのでしょうか。
それは、
伸筋:足底皮膚受容器(メカノレセプター)への入力とゴルジ腱器官の伸張刺激
屈曲:大腰筋の伸張感覚
です。
立脚初期〜後期にかけては強い伸展活動が求められます。この時には伸筋群をより強く収縮される必要があり、足底荷重や下腿三頭筋の伸張刺激が入力されている間は伸筋half centerが屈筋half centerを抑制してくれています。
立脚後期〜遊脚期にかけては伸展活動を抑え、Swingに入ります。そこで大腰筋がしっかりと伸張されると前遊脚期には下腿三頭筋の収縮が抜け、膝が屈曲しOpen kinetic chainの動きが始まり、Swingへと移行していきます。
Ib促通理論
立脚後期で下腿三頭筋が伸張するのには、もう一つ重要な目的があります。
それは「Ib促通」です。
養成校時代には、Ib抑制を習ったかと思います。ストレッチのときの理論ですね。
筋腱移行部に存在していると言われるゴルジ腱器官が強く伸張されると同名筋の筋緊張を抑制する、という働きです。
実は、歩行時には逆の働きをすると考えられています。
下腿三頭筋腱が伸びれば伸びるほどに、下腿三頭筋の筋緊張は促通され強い力を発揮する。
と考えられています。つまり下腿三頭筋を強く働かせるためには、できるだけ下肢を後ろに持っていく必要があります。そうすることによって、前方推進力と高い重心位置のキープにつながるのです。
つまりSwingの際のトゥクリアランスの確保に強く貢献する可能性がある、と考えられます。
足底荷重と筋活動
CPGにおいて「足底荷重」が大事であると述べました。
では足底荷重をすることによってどんなことが起こるのでしょうか?
脊髄損傷者をトレッドミル上で、脊髄への電気刺激を与えながら、受動的歩行を行いつつ、足底刺激を与えた結果、前脛骨筋と内側腓腹筋に対して強い収縮が得られた、というものです。
つまり、エアーウォークをしても仕方なく、足底刺激をしっかりとかけることが重要だと考えられます。
では足底刺激はどこにどんな順番にかけていくことが好ましいのでしょうか。
そこで、「メカノレセプター」が重要になります。
踵や足部外側、小趾球、拇指球に多く分布していると言われています。
つまり歩行時に、踵〜母趾に抜けていく様な荷重をかけていくことが重要ですが、
多くの運動麻痺を呈した方は、立脚期に足部が内反してしまい荷重を十分にかけることが難しい印象がありますよね。そうすると、CPGを駆動した自動的な歩行を目指すことが少し難しくなる可能性があります。
装具を装着していても、大きく重心を左右に振りすぎて母趾に荷重がかかることがない、装具の中で内反してしまっている、なんてことないですか?
今一度裸足や、装具の適合性をチェックしてみる機会になれば幸いです。
CPGと歩行誘発野
CPGの駆動には、末梢からの感覚入力が必要であると説明し、どんな感覚が必要か、そして感覚入力のポイントや入力によって末梢にどんな影響があるのか、を説明してきました。
しかし、私たちはまず「歩きたい」と感じなければ歩行をすることはないはずです。
そして歩行が始まれば、CPGによって半自動的に歩行運動は遂行されます。
では歩行が始まる際にはどんなことが起こっているのでしょうか。
例えば私たちは、「あそこに物があるから取りに行こう」と視覚からの情報が入り、処理し、運動プログラムが生成されて初めて運動が発現します。
その際に大切なのが、「動機付け」つまり辺縁系の働きになります。
情動がSLR(視床下部歩行誘発野)を刺激。
歩行運動プログラムが、中脳にあるMLR(中脳歩行誘発野)やCLR(小脳歩行誘発野)を刺激することで、脊髄に存在するリズム生成介在細胞とパターン生成介在細胞群が賦活される結果、リズムとパターンが生成されます。小脳疾患の方がリズミカルに歩行ができず、酩酊様歩行を呈することもCLRの働きが正常に機能しないため、とも考えられます。
基底核ー網様体編で、MLRが筋緊張を促通するかを簡単に説明しています。
つまり歩行訓練をする際に、大事なのは「歩行をしたい!」と感じてもらいMLRに刺激を入力することが重要であると考えられます。
歩行とシナジーパターン
CPGと歩行の関係性について述べてきましたが、最後に「Synergy(シナジー)」について説明していきます。
CPGが屈筋ー伸筋を切り替えて歩行動作を行っていることは理解できたかと思います。
屈筋、伸筋と一括りにしてしまうと危険です。なぜなら歩行は各周期によって働く筋の組み合わせが異なるためです。
そこで、シナジーという考え方が重要になってきます。シナジーとは「共同運動収縮」のことです。
健常者は、通常歩行を4〜5パターンの共同運動パターンで行っていると考えられており、モジュール1〜5を1→2→3→4→5→1・・・とスイッチを切り替えながら行っています。
それをコントロールしているのが「CPG」というわけです。
しかし脳卒中後には、2〜3パターンに減少し、正常な歩行運動から逸脱してしまうといわれています。特に立脚中期後半〜遊脚期にかけて、伸展パターンを呈します。
結果、内反尖足やぶん回し歩行などの代償運動にて歩行を遂行しようとするわけです。
非常に非効率的なシナジーパターンで動作を遂行するためエネルギー効率はもちろん低下します。
脳卒中患者は健常者と比較し歩行時には1.7倍以上エネルギー効率が悪い、なんていう報告もあるくらいです。
訓練では、2つに減ったモジュールを3、4つと再度増やして、できるだけ効率的な歩行運動を遂行できるように、歩行Phaseごとの訓練や、装具を用いて課題難易度を調整した歩行訓練を行うことが重要になってきます。
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