大脳基底核の主な作用は、抑制と脱抑制といわれています。
大脳基底核はアクセルとしての機能は持っておらず、アクセル機能は大脳皮質が持っています。
大脳基底核が持っているのは、ブレーキとしての働きだけだということ認識しておきましょう。
このブレーキを強めたり(抑制)あるいは弱めたり(脱抑制)することで結果として運動の発現を促して、必要のない運動は抑制する役割を持っています。
例えば随意歩行発言システムについて、
歩行において補足運動野(以下SMA)は歩行運動の発現・終了に貢献します。
SMAは大脳基底核とのつながりが強い領域になります。そのため、SMAが歩行運動のスタートに貢献しているというのは脱抑制をして、歩行運動に必要な筋緊張を調整、そして歩行の運動パターン、リズムを歩行誘発野を駆動することで作り出しCPGによって自動的な歩行運動を生成することに貢献していると考えて良いかと思います。
大脳基底核と運動のつながり
さて少し話がそれましたが、
大脳基底核は、
- 大脳ー基底核ループ
- 基底核ー脳幹系
の2つのシステムに大別されます。
このうち今回説明するのは、
まずどうやって運動プログラムは生成されて、必要な運動と不必要な運動を抑制していくのかについての学びになります。
まずは運動プログラム生成の流れについて理解しましょう。
こちらの図を見ていただければなんとなく大まかな概要を理解することはできると思いますし、
運動プログラム生成の流れについてを読んでいただければ、理解が深まるかと思います。
今から説明していく大脳ー基底核ループは4つのループに分けられています。
- 運動ループ
- 眼球運動ループ
- 前頭前野ループ
- 辺縁系ループ
です。
この中でも今回は運動ループについて、の話です。
運動ループについて
大脳ー基底核ループの概要の図はこちらとなります。
どうでしょうか、理解できますか・・・?
めちゃめちゃ意味がわからないですよね。
この赤い枠が興奮系、
青い枠が抑制系となります。
興奮系は
大脳皮質、視床下核、視床、脳幹促通系
抑制系は
線条体(被殻、尾状核)、淡蒼球内外節、黒質網様体部、脳幹抑制系(PPN)
です。
これをまず頭に入れておかないと、この後の話が全く頭に入ってこないのでしっかりとここは捉えておいてくださいね!!!
大脳皮質-基底核ループは
では、大脳皮質-基底核ループにおいて、大脳皮質から受け取った情報は、基底核内でどのように処理されて出力されているんでしょうか?
大脳基底核内の回路を理解するには
3つの経路の深い理解が必要です。
①ハイパー直接路
②直接路
③間接路
です。
どの経路で処理された情報も最終的に大脳基底核の
出力核である”淡蒼球内節”、”黒質網様部”に集約されます。
大脳基底核の出力核である淡蒼球内節・黒質網様部は、”GABA 作動性の抑制性ニューロン”で成り立っており、高頻度(数10Hz)で持続的に発射しています。
つまり、 投射先である視床や脳幹のニューロンは、常に”抑制”された状態にあります。
それではそれぞれの経路(ハイパー直接路・直接路・間接路)と役割についてお話していきます。
ハイパー直接路
ハイパー直接路が活動するとどうなりますか?
考えてみましょう!!
大脳皮質から興奮性入力行われ、興奮性の働きを持つ視床下核の活動が促通されます。すると大脳基底核の出力核である淡蒼球内節・黒質網様部の活動が促通され、抑制としての働きが強くなります。
結果として、視床の広範囲を抑制します。
これによってまず運動を行うという運動の開始の準備ができるわけです。
直接路
次に直接路が働きます。
すると…
大脳皮質の興奮が抑制性の働きをもつ線条体にいき、抑制性の働きが強くなります。すると次に淡蒼球内節・黒質網様部へ強い抑制性の入力が行われ、出力核かつ抑制性の働きをもつ淡蒼球内節・黒質網様部は抑制され、師匠への抑制性の入力が弱まります。
すると随意運動に必要な視床の領域は脱抑制され、必要な運動だけを引き起こすことができる運動が開始された状態になります。
間接路(これが大脳基底核の役割として一番わかりやすい)
そして最後に間接路が働くと・・
大脳皮質からの興奮性の入力を線条体が受けると、線条体の抑制性の働きは強化され、淡蒼球外節の働きを抑制しにいきます。この淡蒼球外節は抑制性の働きを持っているので、次に視床下核への抑制性の入力が減弱し、興奮性の働きをもつ視床下核は脱抑制状態になり、次の淡蒼球内節・黒質網様部に対して興奮性の入力を強め、抑制性の働きをもつ淡蒼球内節・黒質網様部は視床を強く抑制しにかかります。
すると不要な運動は起こらないように調整したり、筋緊張を抑制して運動をストップさせる働きを持ちます。
大脳基底核ループと筋緊張について
次はさらに細かく、運動ループと筋緊張の話をしていきます。
これは、円滑な運動を実現するための仕組みの話となります。
今回は、実際に筋緊張をコントロールするのは分かったけど、どういう仕組みでやってるの?という基底核ー脳幹系における神経生理学の話です。
基底核ー脳幹系の概要図
大きな概要の図はこちらになります。
先ほども見ましたね。少し見やすくしました。
- 赤枠が興奮系
- 青枠が抑制系
という形です。赤矢印は次の核の働きを興奮させる、青矢印は次の核を抑制するといったものです。点々の矢印になったらその働きが乏しくなるよ、という図の仕組みになりますのでルールとして覚えておいてください笑
淡蒼球内節・黒質網様部といった出力核の先に、脳幹抑制系(PPN)という筋緊張を抑制する場所、そしてそのさきに脳幹促通系といって筋緊張を促通する部分が入ってきています。
大前提として、筋緊張のコントロールは必ず脳幹網様体を介しておこなうということは頭に入れておきましょう!
ちょっと姿勢制御の話
運動コントロールには姿勢コントロールが必要で、運動コントロールは主に、背外側系・外側運動制御系の働き、そして姿勢コントロールは腹内側系・内側運動制御系の働きであり、
運動の前には、pApa’sと呼ばれる先行的予測的姿勢制御が行われ、運動中にはaApa’sと呼ばれる随伴性姿勢制御が行われると考えられています。
その運動の前の姿勢制御を行うために必要な仕組みが、ハイパー直接路と間接路というように推測ができますね。
ハイパー直接路と筋緊張と運動の開始準備
ハイパー直接路と筋緊張のコントロールについてです。
大脳皮質が視床下核に興奮性の入力をし、視床下核は次の淡蒼球内節・黒質網様部の抑制性の働きを強めます。そして脳幹抑制系の働きを抑制させるので、脳幹促通系は脱抑制状態になり筋緊張を高めていくことになります。
この意義としては、運動に必要な安定性を提供するための筋緊張をまず準備した中で次の直接路による随意運動を行えるようにする!ということです。
先行的な姿勢制御を行うのがここですね。
これできないと、運動に必要な筋緊張の準備ができず、手を挙げるバランスを崩したり、全体の筋緊張を高めて動作を行おうとし、上肢挙上の際に肩甲帯の挙上から行うような一件Shurg singのような症状が出ることもあるのではないかと考えられます。
直接路と運動コントロール
次の安定性が確保されたら、初めて選択的に肩関節屈曲、肘の伸展…といったようにある必要な運動だけを起こすために視床の一部分が脱抑制するという状態になります(運動ループ)
そこで起こってくる仕組みとしては、補足運動野から興奮性の入力が線条体へ、抑制性の働きをもつ被殻の働きは促通され、次の淡蒼球内節・黒質網様部を抑制することになります。すると大脳としては視床が脱抑制するので、運動を起こそうと一次運動野へ指令を送ることができます。
脳幹はPPNへの抑制が失われるので、抑制の働きをもつPPNは興奮し、次の脳幹促通系を強く抑制しにかかります。すると、筋緊張を緩める形となり運動時に関節運動を起こすために必要な運動性を作り出せるということになります。
ここでは皮質延髄網様体脊髄路が働き、筋緊張が必要なだけ抑制された結果、分離した随意運動を外側皮質脊髄路が起こす場面ですね。
もしこれができなければ、運動がなかなか開始されない、または体が強ばったような形でうまく動かすことができないといった状況になることが予測されます。(γ運動神経細胞由来の筋緊張の興奮が起こってしまう、伸張反射の異常な亢進と運動中の強ばり)
リーチングなどを行う際にハンドリングをしていく中で、どうも異様な硬さが続いてしまったり、動作がなかなか開始されずに、共同運動パターンを取ってしまうなぁ…と感じることができるケースもあります。
この際には、まずハイパー直接路が働くことによる先行的な姿勢制御が行える状況になっていないケースや、末梢でのγ運動神経細胞の過度な興奮による原因が考えられます。
硬さを感じる主動作筋に対して、振動刺激などをストレッチポジションで行なったのちの運動を評価したり、臥位での除重力位での運動評価などを行なった際に運動が明らかにスムーズに出現するなどのパターンが被殻や視床、M1からの脳梗塞、補足運動野の病変などで感じるケースがあるかもしれませんね。あくまでも1つのアイデアですが・・・。ご参考までに。
間接路と筋緊張と運動の停止
最後に運動を止めるための間接路の働きについてです。
補足運動野から抑制系の働きをもつ被殻へ興奮性の入力、そして被殻は次に淡蒼球外節を抑制します。すると視床下核は脱抑制され興奮の働きが強くなります。すると次に淡蒼球内節・黒質網様部の働きが促通され、脳幹抑制系への抑制の出力を強めます。すると、PPNは脳幹促通系への抑制の働きが抑制され、脳幹促通系は脱抑制状態となり、筋緊張が全体的に高まり運動性が乏しくなり安定性が向上する結果、運動はストップしましょう!となるんですね。
運動を行うというの今の状態から、どこかを緩めて外乱に対応する必要があるという不安定性を生み出す要素を含んでいますので筋緊張を全体的に高めて運動を止めるというのは合理的だと考えられますよね。
これが行えてない人は、目標物に近づくと突進現象などが起こったり、物を掴んで離せないといった現象が起こる可能性がありますよね。
その場合にはしっかりと目標物までどれくらいの歩数でいけるのか、などをあらかじめオリエンテーションしておくことが必要だったり、ものを掴んだのち何をしたいのかを明確にして、次のアクションの予定を立てておく、なんてこともとても重要になってきたりします。
こういった形で運動に必要な筋緊張をコントロールしているんだなぁと捉えておいていただくと臨床での見方が必ず変わるはずですので、ぜひ知識を持って実践をして行ってみてください!
まとめ
この3つの経路の役割を機能的に考えていくと、
ハイパー直接路は、運動に必要な安定性をまずは筋緊張を促通する形で提供します。ここが姿勢制御の一番初めです。
次に直接路は運動に必要な分離運動であったり、選択的な関節の動作を生み出します。
そして最後に間接路が安定した中で行われた運動を最終的に筋緊張を抑制し、その運動はもういいよ!という形で止めに行く役割を担っていると考えると良いかと思います。
つまりまずはじめに筋緊張を高めるためには、運動の意図を持って補足運動野が活動し基底核を介して必要な筋緊張のコントロールによる安定性の提供を行なったのち随意運動が行われるといった流れが非常に大事です。
そして最後に次の動作を行うために、今の運動をストップさせることが必要になんですね。
とってもわけがわからなくなりやすい部分ですが、
図で理解することで、文字だけで理解しようとするよりはわかりやすいかと思います。
臨床場面で、いま直接路が!!とかはわかりませんが、運動のためにまずは視床全体が抑制され、必要な運動だけを引き起こさなければならないといったことを知っておくことで、
まず姿勢制御という形で、随意運動に必要な安定性ってどうやって作ればいいんだろう!?これができなきゃ、随意運動が正確に行われずにぎこちない、または筋緊張が抑制できていない、または急な動きだしをしてしまうなんてことにつながるかもしれないな!
と推測することができます。
その方は運動を起こそうと一生懸命やってくれますが、その運動が正しく行われるためには、姿勢制御という観点は切っても切り離せません。
そのため、運動だけを見るのではなく、運動を起こすために必要な安定性はどういうことなのかな?どんなことが必要なのかな?どんな筋肉が働いてどんな制御をすればいいのかな?と考え続けることがとても重要なのかと思います!!
随意運動を考える上で、大脳基底核ループの運動ループはとっても重要なのでしっかりと理解しましょう!!
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