脳卒中後の肩の痛み:亜脱臼・痙縮・腱板を分けて考える【若手PT・OT向け】

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肩が痛いと言われた瞬間、少し怖くなりませんか?

脳卒中後の患者さんから「肩が痛いです」と言われると、若手のうちはけっこう緊張します。

動かしていいのか。休ませたほうがいいのか。亜脱臼なのか。痙縮なのか。腱板なのか。手まで腫れているけど、これは肩だけの問題なのか。

ここを雑に扱うと、痛みを増やしてしまうことがあります。だから怖くなるのは自然です。むしろ、その慎重さは大事です。

ただし、怖いから何もしない、も違います。必要なのは、痛みの原因を分けて、守るのか、動かすのか、相談するのかを決めることです。

肩は可動性が高いぶん、筋、関節包、腱板、肩甲帯、感覚、痙縮、取り扱い方の影響を受けます。脳卒中後の肩痛は、ひとつの原因だけで説明できないことが多いです。

この記事では、若手PT・OT向けに、脳卒中後の肩の痛みを評価し、介入へつなげる考え方を整理します。

脳卒中後肩痛の全体像

結論から言うと

脳卒中後の肩痛は、まず以下を分けます。

  1. 弛緩性麻痺と亜脱臼による機械的ストレス
  2. 痙縮や内旋・内転パターンによる軟部組織ストレス
  3. 腱板、滑液包、上腕二頭筋長頭腱などの整形外科的疼痛
  4. CRPSや中枢性疼痛など、神経障害性の痛み

大事なのは、肩が痛いイコール肩を揉む、ではないということです。

痛みの部位、出る動き、発症時期、筋緊張、亜脱臼、感覚異常、浮腫を分けて見ます。そのうえで、保護するのか、動かすのか、医師に相談するのかを決めます。

原因1:弛緩性麻痺と亜脱臼

発症早期で上肢がだらんとしている時期は、肩関節を支える筋活動が不足します。特に棘上筋、三角筋、肩甲帯周囲筋の働きが落ちると、上腕骨頭が下方へずれやすくなります。これが亜脱臼です。

亜脱臼そのものが必ず痛みを出すわけではありません。ただ、腕の重みが関節包や靭帯にかかり続けると、組織へのストレスは増えます。

ここで必ず避けたいのが、麻痺側上肢を引っ張ることです。移乗や起き上がりで腕を持って引く、車椅子で腕がぶら下がったままになる、ベッド上で肩が内旋・伸展位に落ちる。こうした扱いが痛みのきっかけになることがあります。

評価では以下を見ます。

  • 肩峰と上腕骨頭の間に指が入るか
  • 座位で腕が下方へ引かれていないか
  • 車椅子上で前腕が支持されているか
  • 移乗時に麻痺側上肢を引っ張っていないか
  • 肩甲骨の位置が下制、外転、前傾に偏っていないか

亜脱臼とポジショニング

原因2:痙縮と内旋・内転パターン

時間が経つと、弛緩性の問題だけでなく痙縮が関わってきます。

脳卒中後の上肢では、肩内転、内旋、肘屈曲、前腕回内、手関節手指屈曲のパターンが出やすくなります。大胸筋、広背筋、肩甲下筋、上腕二頭筋などの活動が高くなると、肩関節は内旋・内転方向へ引かれます。

この状態で無理に肩を上げると、上腕骨頭と肩峰下組織の位置関係が悪くなり、腱板や滑液包にストレスがかかります。

評価では、「どの方向で痛いか」を見ます。

  • 外旋で痛いか
  • 外転で痛いか
  • 屈曲で痛いか
  • 肩甲骨を介助すると痛みが減るか
  • 肘や手指の緊張が上がる場面で肩痛も増えるか

痙縮が関わる肩痛では、肩だけを動かすより、肩甲骨、体幹、肘、手指の緊張まで含めて条件を整える必要があります。

原因3:腱板・滑液包・上腕二頭筋長頭腱

脳卒中後でも、肩の痛みがすべて神経由来とは限りません。

腱板炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭腱炎、肩関節包の硬さなど、整形外科的な疼痛が混ざることがあります。特に、誤った介助、過剰な他動運動、肩甲骨が動かない状態での挙上反復があると、肩周囲組織に負担がかかります。

若手が見落としやすいのは、「麻痺があるから痛い」とまとめてしまうことです。痛みの出方が局所的なら、整形外科的評価も必要です。

評価では以下を確認します。

  • 圧痛部位はどこか
  • 夜間痛があるか
  • 外転中間域で痛みが強いか
  • 肩甲骨を補助すると可動域や痛みが変わるか
  • 急に痛みが増えた背景に転倒、牽引、過負荷がないか

明らかな炎症所見や強い夜間痛、急な疼痛増悪がある場合は、リハだけで抱え込まず医師へ相談します。

肩痛の評価フロー

原因4:CRPSや神経障害性疼痛

肩だけでなく、手の腫れ、皮膚色の変化、発汗変化、強い痛覚過敏がある場合は、CRPSを疑います。また、灼けるような痛み、しびれ、触れるだけで痛いなどの症状がある場合は、神経障害性疼痛の要素も考えます。

この場合、肩関節の可動域練習だけで解決しようとすると、痛みを増やす可能性があります。

評価では、肩局所だけでなく上肢全体を見ます。

  • 手背や指の浮腫
  • 皮膚色や温度差
  • 触覚過敏
  • 痛みの範囲が肩関節の運動だけで説明できるか
  • 安静時痛や夜間痛の有無

CRPSや神経障害性疼痛が疑われる場合は、医師との連携が必要です。リハでは痛みを増やさない範囲で、ポジショニング、浮腫管理、感覚入力、段階的な使用を考えます。

介入は「守る」と「動かす」のバランス

肩痛の介入は、ただ安静にするだけでも、ただ動かすだけでも不十分です。

弛緩性で亜脱臼が強い時期は、腕の重みを支えることが優先です。ベッド、車椅子、立位、移乗で、上肢がぶら下がらないようにします。

痙縮が強い時期は、外旋と外転の条件を丁寧に作ります。肩甲骨を介助し、痛みのない範囲で可動域を確保します。いきなり上腕だけを持って挙上するのは避けます。

腱板や滑液包の痛みが疑われる場合は、炎症を増やさない負荷設定が必要です。可動域、筋活動、姿勢、日常動作の使い方を分けて調整します。

CRPSが疑われる場合は、痛みを押して動かすのではなく、医師と連携しながら段階的に進めます。

肩痛への介入選択

よくある誤解:「肩が痛いなら肩を動かせばよい」

肩が痛いと、固まる前に動かしたほうがいいと考えたくなります。それ自体は間違いではありません。ただし、条件なしに動かすと痛みを増やすことがあります。

肩甲骨が動かない。上腕骨頭の位置が悪い。内旋痙縮が強い。腕の重みが支えられていない。この条件で無理に挙上すると、肩周囲組織にストレスがかかります。

ぱらゴリ的に言うなら、「動かす前に、動かせる肩の位置を作れ」です。

文献から見えること

Canadian Stroke Best Practicesでは、脳卒中後の肩痛は多因子的であり、正確な原因診断が管理に重要だとされています。また、麻痺側上肢を引っ張らないこと、支持すること、過剰な可動域を避けることが推奨されています。

Dyerらのシステマティックレビュー概観では、肩痛に対する介入は複数ありますが、介入ごとにエビデンスの質や対象が異なります。電気刺激、テーピング、ボツリヌス療法、装具、運動療法などは、痛みの原因と時期に合わせて選ぶ必要があります。

つまり、「肩痛にはこれ」という単独の答えではなく、原因を分けて選ぶことが重要です。

結局、肩の痛みで何を見ればよかったのか

脳卒中後の肩痛では、まず4つを分けます。

  • 亜脱臼と機械的ストレス
  • 痙縮と内旋・内転パターン
  • 腱板や滑液包などの整形外科的疼痛
  • CRPSや神経障害性疼痛

結局のところ、肩痛で大事なのはこれです。

肩だけを見ず、肩甲骨、上腕骨頭、筋緊張、手の浮腫、介助方法まで見る。

ここまで見てから、守るのか、動かすのか、医師へつなぐのかを決めます。

最後まで読めたあなたは、もう「肩が痛いから肩を揉む」「固いから動かす」だけの見方ではありません。痛みを怖がりすぎず、でも雑に扱わない。そのバランスを取ろうとしている時点で、かなり臨床的です。次に肩痛の患者さんを見たとき、まず「これはどの痛みだろう」と分けるところから始めてください。それだけで、患者さんへの触れ方は変わります。

参考文献

  1. Canadian Stroke Best Practices. Shoulder Pain and Complex Regional Pain Syndrome. Stroke Rehabilitation Recommendations.
  2. Dyer S, Mordaunt DA, Adey-Wakeling Z. Interventions for Post-Stroke Shoulder Pain: An Overview of Systematic Reviews. International Journal of General Medicine. 2020;13:1411-1426. doi:10.2147/IJGM.S200929
  3. Holmes RJ, McManus KJ, Koulouglioti C, Hale B. Risk Factors for Poststroke Shoulder Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases. 2020;29(6):104787. doi:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.104787
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